บททั้งหมดของ 支配されて、快楽だけが残った身体に、もう一度、愛を教えてくれた人がいた～女社長に壊された心と身体が、愛されることを思い出: บทที่ 111 - บทที่ 120

インターホンが短く鳴った。電子音はいつもと変わらないはずだったのに、そのときだけは耳の奥で異様に響いた。美沙子は視線を動かさず、机の端をそっと撫でた。指先が、昨日までと違う感触を伝えてくる。何も変わっていないはずの机の木目が、ざらついて感じられた。「社長、失礼します。机に置いておきます」秘書の声が、スピーカー越しに聞こえた。その声は、いつもよりも一段低い。抑揚がなく、まるで機械が読み上げているようだった。「分かったわ」返事をしたが、自分の声がどこか遠くで響いているようだった。扉は開かなかった。鍵は閉めたまま。外側から、静かに書類が差し込まれる音がした。視線を下げると、机の上に週刊誌が置かれていた。艶やかな表紙の端が、ほんの少し折れている。普段なら、そんなものは自分のデスクには乗らない。それでも今、その雑誌は無言でそこにあった。指先で表紙を滑らせると、紙が冷たかった。「女帝の裏の顔――若手社員囲いとパワハラ構造」見出しが赤い文字で踊っていた。美沙子は、唇の裏を噛んだ。皮膚の奥に、じわりとした痛みが広がる。それでも、目は表紙から逸らさなかった。ページをめくる。手が、机の上で微かに滑った。指先に汗が滲んでいるのを感じたが、拭わなかった。記事には、実名は出ていなかった。「若手社員」「取引先との不適切な関係」「囲い込み」そんな言葉が並んでいるだけだ。だが、美沙子には分かっていた。それが誰のことを指しているのか。それが、自分と藤並のことだと。記事には、具体的な証拠は書かれていない。しかし、状況証拠だけで十分だった。「料亭の息子」「新人時代から異例の昇進」「社長室に頻繁に呼ばれていた」それだけで、社内の誰もが藤並の顔を思い浮かべるだろう。「…くだらないわ

雨の音が、静かに耳の奥で反響していた。美沙子は椅子に背を預けたまま、目を閉じていた。部屋の空気は湿り気を帯びて、肌にまとわりつくようだった。外では、灰色の雲が低く垂れ込めている。それはまるで、空さえも自分のために沈んでいるように思えた。「欲しいものは、壊してでも手に入れる」唇の裏で、その言葉を繰り返す。美沙子にとって、それはただの言葉ではなかった。生きるための信条であり、存在証明だった。若い頃から、そうやって生きてきた。欲しいものは、奪えばいい。美しいものは、所有するからこそ価値がある。飾って眺めるためではなく、手の中で好きにできるからこそ、その存在は輝くのだ。藤並蓮を初めて見たのは、あの小雨の日だった。ホテルのロビー。湿った空気の中で、彼は資料を抱えて控え室へ向かっていた。黒いスーツの肩のラインは、きちんと整えられていた。ネクタイも、名札も、隙がなかった。けれど、その姿はどこか脆く見えた。名札を何度も指でなぞる仕草。胸の奥で何かが擦り切れているような、その表情。美沙子は、その一瞬の仕草を見逃さなかった。ああ、これは壊せる。そう思った。「私のものにするために、私は生まれてきた」心の奥で、そんな言葉が浮かんだ。欲望は、いつも唐突だ。でも、それでいい。欲しいと思った瞬間に、もうその人間は自分のものだ。藤並は、綺麗だった。営業向きの顔立ち。整ったスーツ。けれど、その奥には、確かに綻びがあった。美沙子はそれを見抜いた。そして、手を伸ばした。誰もあの子に触れることはできなかった。私が最初で、最後だ。誰よりも早く、あの子の肌に触れた。誰よりも深く、あの子の心に入り込んだ。経済的にも囲い込んだ。家族の借金を肩代わりし、仕事を与えた。身体を抱きながら

雨は止む気配を見せなかった。窓の外に広がる灰色の空は、時間の感覚を奪っていく。美沙子は、社長室の椅子に深く沈み、天井を見上げていた。薄暗い照明が、彼女の瞳に光を宿すことはなかった。藤並蓮の顔が、脳裏に浮かぶ。あの夜の記憶は、いつでも鮮明に蘇る。最初は、ほんの少しの興味だった。けれど、一度手を伸ばしてしまえば、もう引き返せなかった。触れた瞬間に確信した。この男は、自分のものだと。「私が教えてやった」声に出すと、部屋の空気がわずかに揺れた気がした。「快楽も、痛みも、守られる心地も」あの子は、私の腕の中で震えていた。身体を固くして、拒むように見せかけながらも、ほんの僅かに腰を揺らしていた。それを見逃すはずがない。美沙子は、あのときの彼の表情をはっきりと思い出すことができた。「蓮は、私の手の中でしか生きられない」そうだ。どれだけ会社を失おうと、どれだけ財産が凍結されようと、問題ではなかった。彼がいる限り、自分は負けていない。藤並は、裏切るはずがない。それだけは、確信している。「蓮は、恥ずかしくて私に会えないだけ」自分が教えた快楽に、まだ戸惑っているだけだ。あの夜のことを思い出すたびに、顔を赤らめているだろう。きっと、そうだ。「でも、心の奥では私のことを求めている」あの子は、誰にも言えない秘密を抱えている。自分に抱かれた夜。あのときの記憶が、彼を縛り付けている。どれだけ他人と笑っていても、その奥には私の刻んだ痕がある。「大丈夫」美沙子は、椅子から立ち上がった。ゆっくりと歩き、窓際の鏡の前に立つ。「私の中に、まだ蓮はいる」その言葉を呟きながら、鏡に映る自分を見つめた。目の焦点が、ほんの一瞬ずれた。どこを見ているのか分からない時間が数秒あった。美沙

会議室の空気は、いつもより重かった。窓際に並んだ革張りの椅子、その中央にある一つの椅子だけが空いている。社長席。葛城美沙子の椅子だった。誰も、その椅子については口にしなかった。資料をめくる音だけが、静かに続いていた。パソコンのタップ音、紙をめくる音、コーヒーカップがソーサーに戻されるかすかな音。そのすべてが、やけに耳に残った。湯浅は、目の前の資料に目を落としていた。内容はすでに頭に入っている。数字の羅列も、提出される議題も、昨夜のうちに把握していた。けれど、資料を持ち上げて視線を落とすことでしか、この場の空気から目を逸らせなかった。重役たちは、淡々と議題を進めていた。誰も、葛城美沙子の名前を出さない。彼女が昨日までこの席に座っていたことを、全員が知っている。けれど、その事実は、まるでなかったことのように扱われていた。空席になった社長椅子。その革張りの表面が、ほんの少しだけ沈んで見えた。誰も座っていないのに、まだ形が残っている。湯浅は、それを横目で見た。何度も見てきた椅子だ。その中央に葛城美沙子が座っていた姿は、今も脳裏に焼き付いている。「椅子は空いたが、空気はまだ湿っている」心の中で、そう呟いた。誰もが、この場に漂う湿度を感じている。けれど、それを言葉にする者はいない。湯浅は、資料をめくる手を止めた。視線を横に動かす。隣に座る藤並蓮の顔が、視界の端に映った。藤並は、目を伏せていた。資料に目を通しているふりをしているが、その視線は定まっていなかった。薄い指先が、紙の端を無意識になぞっている。その手の動きが、わずかに震えているのを湯浅は見逃さなかった。何も言わなくても分かる。この空間の重さは、藤並にとっても簡単に乗り越えられるものではない。けれど、もう守るだけの関係じゃない。隣に座るということは、並んで歩

会議室を出ると、廊下は静まり返っていた。重役たちは別の出口から散っていき、スポンサーの使者も誰かとエレベーターに乗り込んでいた。残されたのは、湯浅と藤並だけだった。蛍光灯の白い光が、床のタイルを均一に照らしている。足音もなく、二人は並んで歩いた。会議の余韻が身体にまとわりついている。重い空気を切り裂くような風は、ここには吹かない。ただ、静かだった。藤並は、視線を落としたままだった。胸元で手を組み、ネクタイの結び目を指先で触れている。それは無意識の癖だと、湯浅は知っていた。小さな声が、隣から漏れた。「これで…全部終わったのかな」その言葉には、まだ答えを求める響きがあった。終わってほしいと願っているようで、どこか不安も滲んでいる。自分に問いかけているのか、湯浅に聞いているのか。けれど、湯浅はそれを受け止めた。首を横に振る。「終わっちゃいないよ」言葉はゆっくりと出た。急ぐ必要はなかった。この沈黙は、きっと必要な時間だ。「けど…もう、守るだけの関係じゃない」湯浅は、自分の声を聞きながらそう思った。過去の藤並なら、この言葉を受け止められなかったかもしれない。けれど、今は違う。この会議を共に過ごし、重い空気の中で最後まで座っていた。あの椅子が空いたままの部屋に、二人でいた。それだけで、もう過去には戻れない。藤並は、少しだけ顔を上げた。けれど、目はまだ曇っていた。何かを言いかけて、唇が震える。だが、結局、言葉にはならなかった。湯浅は、手を伸ばさなかった。握ることも、触れることも。それは、今は必要ないと分かっていた。ただ、並んで歩いた。隣に立つことだけで、十分だと思った。足音が、タイルの上で重なる。歩幅を合わせる必要はなかったが、自然