All Chapters of 支配されて、快楽だけが残った身体に、もう一度、愛を教えてくれた人がいた~女社長に壊された心と身体が、愛されることを思い出: Chapter 121 - Chapter 130

139 Chapters

支配の終わりと再生の予感

湯浅は、エレベーターの閉まる音を背中で聞きながら、ゆっくりと歩き出した。廊下の床は、いつもと同じ色だった。壁も、天井も、何一つ変わらない。けれど、空気だけは確かに違っていた。美沙子のいない朝。その事実が、こんなにも肌に触れる感覚を変えるとは思わなかった。今までは、社長室の扉が閉まる音一つで、全員の背筋がこわばっていた。会議室で目を逸らすときも、廊下ですれ違うときも、誰もが呼吸を浅くしていた。それが、今日はなかった。美沙子が消えたからと言って、すべてが解決するわけじゃない。会社の構造は、まだ歪んだままだ。新しい社長は、数字と再建にしか興味がない。スポンサー企業の言いなりになるだけだろう。現場の人間が本当に守られるかどうかなんて、誰も考えていない。湯浅は、胸の奥でゆっくりと呼吸をした。それでも、空気は確かに変わった。檻が一つ、確かに開いた。けれど、それは「終わり」ではなかった。「会社は変わる」心の中で呟いた。けれど、俺たちの問題はこれからだ。藤並は、隣を歩いている。目を伏せたまま、肩を少し落としている。それでも、歩幅は湯浅に合わせていた。自分から手を伸ばすことはしない。けれど、隣にいるというだけで、それは十分だった。藤並は、まだ完全には自由になっていない。身体も、心も。けれど、それは時間の問題だ。美沙子がいなくなったことが、すべての答えじゃない。問題は、あの女がいたからじゃなく、自分たちの中にあった。これから、それと向き合わなければならない。「守るだけの関係じゃない」さっき藤並に言った言葉が、頭の中で反芻される。守るのは簡単だ。けれど、それでは檻を変えただけになる。支配する側を変えただけで、何も終わらない。湯浅は、藤並の横顔を見た。下を向いている瞳。けれど、ほんの少
last updateLast Updated : 2025-09-16
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雨上がりの帰宅

夜の街は、まだ雨の匂いを残していた。アスファルトが濡れたまま光を吸い込み、ビルの灯りがぼんやりと滲んでいる。二人は並んで歩いていた。湯浅の足音と藤並の足音が、同じリズムで響く。傘は差していない。もう雨は止んでいた。けれど、空気は湿っていて、コートの裾がわずかに重たかった。藤並は、湯浅の隣を歩きながら、ふと視線を落とした。足元の水たまりに、二人の影が並んで揺れている。揺らいで、重なって、また離れて、少しだけずれる。けれど、最後にはきちんと重なり直す。「……寒いな」ぽつりと呟いた声は、自分でも驚くほど自然だった。湯浅は隣で小さく笑った。「そうだな」それだけを返して、湯浅は歩幅を少しだけ緩めた。藤並は、無言でその歩幅に合わせた。もう、無理に急ぐ必要はなかった。湯浅の部屋に戻るのは、これで何度目か分からない。けれど、今夜は違う。支配者だった女は、もういない。会社の支配も、美沙子の影も、すべて終わった。エントランスの自動ドアが静かに開き、二人はエレベーターに乗った。藤並は、天井の蛍光灯の下で、ふと自分の手を見つめた。指先が少しだけ震えていた。それが、寒さのせいなのか、他の理由なのか、自分でも分からなかった。湯浅は、横目でその手を見たが、何も言わなかった。ただ、ポケットから鍵を取り出し、無言で扉を開けた。「入れよ」その声も、いつもと変わらない。けれど、胸の奥に落ちる響きだけが、これまでとは違っていた。藤並は、玄関でコートを脱いだ。肩から落とすとき、やはり手元がわずかに震えた。濡れたコートが床に触れる音が、やけに大きく感じた。「タオル、取ってくる」湯浅が言い、キッチンの方へ歩いていく。藤並は、その背中を見送った。部屋の中は、生活の匂いがした。コーヒ
last updateLast Updated : 2025-09-17
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コーヒーと沈黙

ソファの上で、二人は並んで座った。テーブルの上にはコーヒーが二つ置かれている。カップの縁から立ち上る湯気が、室内の静けさに溶け込んでいた。湯浅は、ソファの背もたれに身体を預け、カップを持ったまま視線を落としている。窓の外はまだ湿っている。アスファルトに残る雨の光が、部屋の中にも薄く反射していた。藤並は、カップを両手で包んでいた。カップの表面がぬるく感じる。掌の中にある熱が、指先からじわじわと伝わってきた。その感触を、意識的に確かめているような気がした。「無理しなくていい」湯浅の声が低く響いた。静かな夜に、ふっと溶けるような声音だった。押し付けるわけでも、問い詰めるわけでもない。ただ、そこに置かれた言葉だった。藤並は、カップから目を上げた。湯浅の横顔を見た。目尻が少しだけ緩んでいる。けれど、口元は真っ直ぐだった。いつもの湯浅の表情だ。それを見て、藤並はふっと笑った。声にはならなかった。けれど、唇の端が柔らかく上がった。「……無理なんてしていない」自分でも驚くほど、自然に言葉が出た。その瞬間、心の奥が少しだけ震えた。思ってもいなかった言葉だった。けれど、出てきたのは確かに本心だった。湯浅は、横目で藤並を見た。目を細める。けれど、それ以上は何も言わなかった。藤並は、カップをもう一度見つめた。表面に映る自分の顔が、ほんの少しだけ柔らかく見えた。こんな顔をしている自分を、久しく見ていなかった気がする。胸の奥に、じんわりとした熱が広がる。それは、コーヒーのせいだけじゃなかった。「無理なんてしていない」もう一度、心の中で繰り返した。美沙子の前では、ずっと演技をしていた。「従順な顔」を貼り付け、「感謝している顔」を作っていた。
last updateLast Updated : 2025-09-17
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自分から触れる夜

藤並は、コーヒーのカップをそっとテーブルに置いた。指先がカップの縁をなぞる。その感触を確かめるように、ゆっくりと手を滑らせた。微かに震えていた指は、もう止まっている。湯浅の隣に座る自分の身体が、どこにも力を入れていないことに気づく。こんな夜は初めてだった。「律」名前を呼んだ。湯浅は、ソファに身体を預けたまま、視線だけを藤並に向けた。目が細められる。優しい目だった。けれど、その奥にある熱は、いつも変わらない。そこには、欲望もあるし、愛情もある。どちらも、嘘じゃなかった。藤並は、湯浅の手に自分の手を重ねた。自分から触れたのは、初めてかもしれない。今までは、湯浅の手を受け入れるだけだった。触れられることに、耐えるしかなかった。けれど、今夜は違った。自分から、欲しかった。この手の温度を、今、自分が求めている。湯浅の手は、静かに藤並の手を包み返した。けれど、それ以上は何もしてこない。ただ、重ねられた手が、ほんの少しだけ指を動かした。その動きが、胸の奥を撫でた。「律」もう一度呼んだ。声は、かすかに震えていた。けれど、それは怖さの震えじゃなかった。欲しいと思ったから、震えている。欲しくて、たまらなくなっていた。藤並は、湯浅の胸元に顔を寄せた。自分から。預けるのではなく、寄り添う。それがどんな意味を持つのか、自分で分かっていた。湯浅は、息をゆっくり吐いた。耳元で、その吐息が小さく響く。まつげが濡れているのが、自分でも分かった。部屋の湿度のせいか、それとも知らないうちに涙が滲んでいたのか。分からなかったけれど、もう拭おうとは思わなかった。胸の奥が、熱くなっていた。けれど、それは痛みではなかった。怖さでもない。「律、俺…&hel
last updateLast Updated : 2025-09-18
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快感と欲情の一致

湯浅の指が、藤並の頬をそっと撫でた。その手つきは、まるで壊れ物に触れるように慎重だった。けれど、もう藤並は壊れそうになどなかった。触れられた頬が、じんわりと熱を帯びる。それは冷えた肌に触れたせいだけではない。自分の内側から、ふつふつと何かが湧き上がってきている。唇が重なった。湯浅の唇は柔らかかった。乾いていない。温度がある。その感触が、胸の奥にゆっくりと広がる。怖くなかった。ああ、本当に怖くない。藤並は、唇を重ねられたまま、心の中で何度も繰り返した。美沙子に抱かれていた夜は、いつも身体が勝手に反応していた。気持ちよくなることが、ただの反射だった。そのたびに、心は別の場所に逃げていた。目の前にいる相手の顔も、声も、全部遠くに感じていた。でも、今は違う。湯浅の唇が触れた瞬間、自分の身体が「欲しい」と思った。それをはっきりと感じた。快感が、恐怖と繋がっていない。ただ、心から「欲しい」と思ったから、身体が反応している。「……律」小さく名前を呼ぶと、湯浅の唇が僅かに離れた。けれど、指はまだ頬に触れている。その指が、耳の後ろをなぞるように動いた。そこに触れられると、藤並は自然と身体を傾けた。逃げるのではなく、もっと触れてほしいと思ってしまった。「快楽は、壊されるためのものじゃない」心の中で、はっきりとそう言った。「俺が欲しいと思ったから、感じてる」胸の奥が熱い。喉の奥が微かに震える。でも、それはもう怖さじゃない。湯浅が、藤並の髪を撫でる。その指先が、ゆっくりと頭皮を撫で上げると、ぞくりと背筋が震えた。けれど、その震えも心地よかった。「律」もう一度名前を呼ぶ。湯浅は何も言わず、ただ藤並の額に唇を落とした。その唇が、眉間を
last updateLast Updated : 2025-09-18
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愛される身体

湯浅の手が、藤並の身体に触れた。その触れ方は、いつもと違っていた。指先が肌の上をなぞるたびに、そこから熱がじわじわと広がっていく。激しく押さえつけるわけでもない。貪るように抱くのでもない。ただ、撫でる。確かめるように、ゆっくりと手のひらを滑らせる。藤並は、目を閉じた。肌の感覚に集中すると、自分の身体がどれだけ敏感になっているかが分かる。肩から背中、腰へと移動する手が、まるで自分をなぞるように動いている。欲しい。その感情が、はっきりと胸の奥にあった。これまでのように、相手に預けて、耐えて、与えられる快楽を受け入れるのではない。今は違う。自分が欲しくて、身体が求めている。湯浅の指が、脇腹を撫でる。その瞬間、藤並の唇が微かに震えた。けれど、それは拒絶の震えではなかった。むしろ、自分の身体が反応していることが嬉しかった。「律」名前を呼ぶと、湯浅の目が細められた。その目は柔らかかった。何も言わない。けれど、確かに伝わってくる。大丈夫だよ、と言われている気がした。「……もっと」声が漏れた。小さな声だった。けれど、それでも言葉にできたことが、自分でも驚きだった。湯浅の手が、さらに身体を撫でる。シャツの裾から指が入り込んでくる。その冷たくない手が、肌の上を滑るたびに、息が浅くなる。怖くない。怖くないどころか、もっと欲しい。「俺が……欲しいと思ってる」心の中で繰り返した。声にはならなかったが、身体がそれを伝えていた。湯浅は、何も言わず、藤並の脇腹から背中に手を回した。指先が背骨をなぞる。その感触に、藤並は身体を少しだけ震わせた。けれど、それも怖さではなかった。「愛されるって、こうい
last updateLast Updated : 2025-09-19
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快感と涙

藤並の身体は、湯浅の手の中でわずかに震えていた。けれど、それは恐怖や拒絶の震えではなかった。欲望と快楽の波が、身体の奥からせり上がってきている。その波に、ただ素直に身体を預けているだけだった。湯浅の手が、ゆっくりと藤並の肌を撫でる。指先が首筋をなぞり、鎖骨のくぼみを辿る。その動きは、焦りもなく、乱暴でもない。まるで、時間ごと抱きしめるような触れ方だった。藤並は、薄く目を閉じた。肌の上に滑る手の感覚を、細胞のひとつひとつで受け止める。胸の奥が熱くなる。心臓が、いつもより大きな音を立てている気がした。湯浅の唇が、胸元に触れた。その柔らかな感触に、息が漏れた。けれど、それを止めようとしなかった。今夜は、もう我慢する必要がない。「律……」小さく名前を呼ぶと、湯浅の指がわずかに強く背中を撫でた。その圧が心地よい。もっと欲しい、と身体が自ら求めていた。湯浅の唇が、ゆっくりと下りていく。胸の先に触れた瞬間、身体がびくりと跳ねた。快感が、胸の奥から溢れた。「っ……」声にならない息が、喉から漏れる。藤並は、自分がこんなにも素直に感じていることに気づいていた。けれど、それが恥ずかしいとは思わなかった。むしろ、それが嬉しかった。これまでの夜は、耐えることばかりだった。身体が勝手に反応するたびに、心が冷えていくのを感じていた。けれど、今は違う。「欲しい」心の奥で、はっきりとそう思った。快感を感じることも、欲しがることも、全部自分が選んでいる。湯浅の手が、腰を包む。唇が下腹部に触れると、藤並は身体を反らした。その動きすら、自分で選んだものだった。「律……」また名前を呼ぶと、湯浅は目を細めて微かに笑った
last updateLast Updated : 2025-09-19
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眠る前の静寂

シーツの中で、二人の呼吸だけが静かに重なっていた。窓の外はすっかり夜の色を深めていたが、カーテンの隙間から街の灯りが細く漏れている。その光が、天井に淡い影を落としていた。藤並は、横たわったまま天井を見上げた。湯浅の腕が、自分の肩に回されている。その腕は重くなかった。むしろ、安心を与えるだけの、ちょうどいい重さだった。呼吸が落ち着いていくのを感じた。さっきまで身体を貫いていた快感の余韻が、まだ微かに残っている。けれど、それは不快なものではなかった。心地よい疲労感と、温かい満足感が胸の奥に広がっている。湯浅は何も言わなかった。腕を回したまま、ただ静かに隣にいた。その沈黙が、今夜はやけに心地よかった。藤並は、自分の手のひらをそっと見た。さっきまで、湯浅の背中を抱いていた手だ。その手が、まだ少しだけ汗ばんでいる。でも、もう震えてはいなかった。目を閉じると、自分の身体が温かいことに気づいた。こんなふうに感じるのは、いつぶりだろう。これまでは、身体が冷たくなる夜ばかりだった。誰かに抱かれても、心の奥は凍ったままだった。快感に溺れるたびに、どこかで自分を見失っていた。けれど、今は違う。湯浅に抱かれた身体が、きちんと自分のものとしてここにある。心も、身体も、どこにも逃げていない。「ああ、俺、生きてるんだ」心の中で、ぽつりと呟いた。その言葉が胸の奥に落ちたとき、また少しだけ涙が滲んだ。けれど、もうそれを拭おうとは思わなかった。この涙は、消えていくものじゃない。生きていくためのものだ。湯浅の腕が、少しだけ力を込めた。それが合図のように、藤並は湯浅の胸に顔を寄せた。頬を押し付けると、湯浅の心臓の音が聞こえた。その音と、自分の心臓の鼓動が重なる。同じリズムで、静かに刻まれている。「律」名前を呼
last updateLast Updated : 2025-09-20
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帰郷の足音

店の裏手に回ると、いつもの勝手口が目に入った。正面から入ることは、昔からできなかった。営業中の料亭は、客のための場所だ。藤並にとって、正面玄関は「客」と「自分」を分ける境界線だった。その感覚は、今も変わっていない。足が自然と裏口へ向かう。躊躇いもせず、無意識に。木戸をそっと開けると、だしの香りが鼻をくすぐった。昆布と鰹の合わせだし、うっすらと立ち上る湯気の匂い。昼の営業が落ち着き、夜の準備に切り替わる時間。厨房の気配が、静かに伝わってくる。足を踏み入れると、木の廊下がぎしりと鳴った。その音が、身体の奥まで染みた。子供の頃、何度もこの音を聞いた。手伝いのために早起きして、廊下を走り回っては母に叱られた。その頃の自分が、今もこの床の下にいるような気がした。藤並は、ゆっくりと廊下を進んだ。畳の部屋の前で足を止めると、風がふわりと通り抜けた。開け放たれた縁側から、庭の植木が見えた。手入れの行き届いた松が、穏やかに葉を揺らしている。その光景も、変わっていない。「帰る場所だ」心の奥でそう呟いた。けれど、同時に背筋が少しだけ伸びる。この家は、藤並にとって「帰る場所」であると同時に、「背負う場所」だった。幼い頃から、父の背中を見て、母の顔色を見て、店を守るために生きてきた。借金の話も、取引先の機嫌も、藤並の肩にのしかかってきた。だから、身体が自然と構える。足を止めたまま、廊下の木目を見つめた。節の位置も、傷の形も、昔と同じだ。でも、自分はもう昔の自分じゃない。「……ただいま」声にならない声が喉の奥で漏れた。その言葉を口にするのは、何年ぶりだろう。けれど、誰もその声を聞いていなかった。藤並は、ゆっくりと息を吸い込んだ。だしの香りが胸の奥まで満ちる。その香りが、懐かしさと同時に、微
last updateLast Updated : 2025-09-21
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父のひとこと

厨房の奥から、包丁の音が止んだ。まな板を拭く音がして、そのあとで足音が近づいてくる。父親が姿を見せたのは、いつもと変わらない静かな動きだった。白衣の袖をまくり、濡れた手を布巾で拭きながら、黙って藤並を見た。目が合った。父の目は細い。けれど、その視線には力がある。ただ、睨むわけでも、探るわけでもなかった。息子を、ただ見つめる目だった。藤並は、その視線から目を逸らさなかった。けれど、胸の奥がきゅっと縮んだ。何かを見透かされているような気がした。過去も、今も、全部知っている。そんな目だった。父親は、何も言わずに厨房に戻り、お茶を一杯持ってきた。湯気の立つ湯呑みを、藤並の前に置く。「飲め」それだけを言い、自分も座った。畳に膝をつき、胡坐をかいた。手を膝に置き、しばらく黙っていた。厨房からは、煮物の鍋がぐつぐつと鳴る音だけが聞こえてくる。その音が、二人の間の沈黙を埋めていた。藤並は、湯呑みを持ち上げた。指先が微かに震えている。けれど、それを隠そうとは思わなかった。だしの香りと重なるように、熱いお茶の香りが立ち上る。口をつけると、舌の奥がじんわりと熱くなった。その熱さが、喉の奥を撫でた。父は、何も言わなかった。ただ、じっと座っている。その肩が、すこしだけすくむ。短く息を吐いた。「……もう、背負うな」それだけだった。その言葉が、胸の奥に落ちた。落ちた、というより、沈んだ。ゆっくりと、深く沈んでいった。藤並は、湯呑みを持ったまま目を伏せた。何かを言おうとしたけれど、喉の奥で言葉がつかえた。父親は、何も続けなかった。そのまま、ただ座っていた。目の奥には、何も映っていないように見えた。けれど、それは見な
last updateLast Updated : 2025-09-22
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