夜の空気は、昼間とは違ってひんやりしていた。窓を少しだけ開けたまま、唯史はベッドの中で目を開けていた。天井をじっと見つめる。部屋の隅では、虫の声が小さく鳴いている。夜風がカーテンを揺らし、そのたびに光と影がゆらりと動いた。隣の部屋からは、佑樹の寝息が微かに聞こえてきた。その音を聞いていると、なぜか胸の奥が締めつけられる。普段なら、こんな夜はすぐに眠れていた。けれど、今日は違った。「もし、佑樹が遥と付き合ったら…」心の中で、ふとそんな考えが浮かんだ。それだけで、喉の奥がぎゅっと締まるような感覚に襲われた。胸が痛い。呼吸が浅くなる。「なんで、そんなこと考えてんねやろ」自分に問いかけても、答えは出なかった。けれど、確かに心の奥がざわめいている。それは、ただの「友達を心配する気持ち」とは違った。もっと、黒くて重たい感情だった。「俺……こいつを取られたくないんや」唇が、かすかに動いた。声には出さなかったけれど、確かにそう思った。遥に取られるのが嫌だ。他の誰かと笑い合う佑樹を見たくない。そんな気持ちが、胸の奥でぐるぐると渦を巻いている。「これ、嫉妬やんか」ようやく、その感情に名前をつけた。自分が、佑樹に嫉妬している。それが、どんな意味を持つのかはまだ分からない。けれど、ただの友達同士なら、こんな気持ちにはならないはずだ。それだけは分かっていた。「……あかんな」天井を見つめたまま、目を閉じた。けれど、瞼の裏にも佑樹の顔が浮かんでくる。風呂上がりの髪、肩幅の広い背中、笑った時の目尻の皺。それら全部が、胸をざわつかせる。「こいつだけは、渡したくない」心の中で、もう一度呟いた。その言葉は、夜の静けさに沈んでいった
Huling Na-update : 2025-08-16 Magbasa pa