書く事が何も無い。俺は多分……つかれているんだろう。 疲労の方だ。 別に俺が書かなくとも、誰も困らないのだが、何というか……なぁ。「どうしたんだ? 左鳥」「へ?」「ぼんやりして――霊障ってわけでも無さそうだけどな」 時島の声に、ふと考える。『霊障』……? そもそも、様々な事が巻き起こっているが、端緒に戻れば、俺は怖い話を集めていたわけで……時島とも、もっとそう言う話をすれば良いではないか。何も恋愛的な意味で緊張して黙ったりする必要はない。霊障について聞いてみよう。って待て、俺は、緊張していたのか? いや、敢えて、今はそれを忘れよう。 今は夏だ。 怖い話にも最適ではないか。「なぁ、時島――っ……!」 聞こうとした瞬間、俺は唇を奪われた。「ン、ふ……」 漸く口が離れると、透明な唾液が、俺達の間に線を引いていた。「な、何するんだよ!」「悪い。左鳥が、俺を見て赤くなったから、つい」「え」 俺は赤くなっていたのか……。 まずいまずい。このままじゃ思考が恋愛に傾いてしまう。「あ、あのさ、時島」「何だ? 明日から一緒に海に行くんだから、今日は失恋したくないぞ」「ッ――あっと、そう言う話じゃなくて、『霊障』って、どんなの?」「ああ――……思い出したくないかもしれないが、蛇に絞められた時、痕が体に出ただろう? ああいうものだ」 ……そうか。気づいてみれば、もう俺は立派に、インタビューする側ではなく、される側……経験者になっているのか。そう思い、なんだか空笑いしてしまった。 ――ちなみに、数年後、俺は霊障に悩まされるのだが、それはいつか記そう。
Last Updated : 2025-08-21 Read more