Home / BL / 本当にあった怖い話。 / Chapter 71 - Chapter 72

All Chapters of 本当にあった怖い話。: Chapter 71 - Chapter 72

72 Chapters

【70】愛の告白

 なおこの時の事は、後になってもまとめる事は決して出来無い。何故ならもう俺は、何も書く必要が無くなったからでもあったし――三人が決して俺に話してくれないという理由もある。不思議なものだ。書く事が存在証明だとあれほど思っていたはずなのに、憑き物が落ちたかのように俺は書かなくなった。 時島達が来てから、もう三日が経過していたらしかった。 俺はその間、眠っていたのだと繰り返された。 寺の誰に聞いてもそれしか話してはくれなかった。けれど俺は、鎌の生々しい感触を覚えている。 五日目――時島と紫野が帰る日になった。 そこには、右京の姿があった。「帰ろう、左鳥」「ああ……」「紫野さん、それで良いですよね?」「まぁ、俺としては良いってわけでもないけどな。東京にはいつ戻ってくるんだ?」「未定です」 どうして右京は、紫野に確認を求めているんだろうか。そう考えていると、右京が続いて泰雅を見た。「泰雅さん、お世話になりました」「俺は良いとは言ってないぞ?」「それじゃあお寺に監禁されているって噂立てちゃいますよ。警察沙汰だ」「やめろ」 三人が冗談めかしたそんなやり取りをしている所から、少し離れた場所に、俺は立っていた。 俺の隣には時島がいる。 その時、人目があるにも関わらず、時島が俺の手を静かに握った。 狼狽えて、手と、時島の顔を交互に見る。「これからは、ずっと俺が左鳥を守る」「ずっとって……」 俺はそんな曖昧な言葉は、もう信じたくはない。それに縋って生きる事は辛すぎた。「そばに居させて欲しいんだ」「いられないだろ。実家、大変なんだろ?」「――出てきた」「え?」「しばらくは姉さんに頼んである。確かにいつかは戻らなければならないのかもしれない。ただな、俺は、俺だから。左鳥に会いたくて、触れていたくて――ああ、遅いな、どうして今まで言えなかったんだろう。頼む左鳥
last updateLast Updated : 2025-08-28
Read more

【71】刻限を言祝ぐ鐘の音の終焉

  以降、二週間ほど時島は俺の実家のそばにいた。俺は近くの温泉に時島を連れて行ったり、椚原に時島を連れて行ったり――正確には、時島に車で連れて行ってもらったのだが、とにかく出かけ回った。出かける度に、酷く息切れがして、俺は相当体力が落ちているのだと気づいた。何だろう、歳だろうか? ――ちなみに椚原では、祖父が家に入れてくれなかった。しかし、庵に立ち寄れたので良かったという事にしておく。 そんな時島が、二週間目に言った。「左鳥、戻ろうかと思うんだ」「実家に? 東京に?」「……取り敢えず、東京に」「良いんじゃないか?」「一緒に来て欲しい」「え、それは……そのほら、俺は家も引き払っちゃったし……」「嫌なら、はっきりと言ってくれ」「そういうわけじゃないんだけど……」「その場合は、こちらに新しく家を借りないとならないからな」「え?」「なんだ?」「帰らなくて良いのか?」「――俺の帰る場所は、左鳥の隣だ。左鳥の帰る場所も、俺の隣であって欲しい」「時島、何言ってるんだよ。お酒も入ってないのに」「本気だからな」「本気って……」「嫌か?」「……」 俺は、嫌じゃない。嫌だと思わない自分に、少しだけ悲しくなった。 そして、時島がそばにいてくれるだけで満たされる自分に気がついていた。「もう目の届かない所に左鳥を置きたくない」「それって蛇の執着?」「蛇なんて関係ない。俺の嫉妬だ」「嫉妬……っ……」「寂しい思いをさせたんなら――もし俺の不在を寂しいと思ってくれたのであれば、謝る」「あたりまえだろ。寂しいに決まって……そんなの。連絡も無いし、会いにも来ないし
last updateLast Updated : 2025-08-28
Read more
PREV
1
...
345678
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status