さて、その数日後――ふと俺は思い出した。前に紫野が、時島に『実家の話をしたのか』と言っていた事を。何故思い出したのかは分からない――わけでもない。多分だが、電話がかかってきたからだ。『もしもし、左鳥?』 電話の主は弟の右京で、俺は布団に横になりながら電話に出た。時島は今日も図書館に出かけている。だが時島は、滅多に本を借りては来ない。重いからだろうか?「どうした?」『いやさぁ、久しぶりに漫画集めちゃって。村の話だったから、椚原の事を思い出してさ。左鳥と話したくなったんだ。タイトルは――』「あー、その作品知ってる。俺は小説の方で最後までもう読んだ。面白いよな」 今年受験のくせに余裕そうだなと苦笑しつつ、暫しの間俺は弟とホラー小説の話に興じた。母までハマってしまったそうで、父にも勧める計画だと聞いた。 このように、自分の実家について思い出したから、時島の実家の事もまた、頭に浮かんできたのだろう。『今度東京に行ったら、またお昼ご飯おごって』「ああ。じゃあ、また」 一応俺には、ライター業のバイト代があるので、弟には基本的におごる。 俺の弟はすごく甘え上手で可愛い。弟のカノジョもすごく可愛い。正直羨ましい。俺にもカノジョが出来ないかなと思っていたら……何故なのか時島や紫野の顔が過ぎった。だから、慌てて打ち消す。別に俺は同性愛者ではない。紫野も多分元々は違う。では、時島はどうなのだろう? そんな事を考えていた時、本人が帰ってきた。俺は自分の考えに気まずくなって、思わず俺は別の事を聞いた。最初に考えていた、実家について、だ。「なぁ、時島の実家ってどんな所?」 すると時島が動きを止めた。 そしてじっと俺を見据える。力強い瞳だった。僅かに目が細くなった気がする。「時島?」 俺が声をかけると、時島が息を呑んだ。そこで彼は、我に返ったようだった。それから持っていた買い物袋を、コタツの上に置く。それはいつも通りだった。だが俺は、己が『実家』と口にした時に、時島が気まずい沈黙を挟んだ事が気になって仕方が無い
Last Updated : 2025-07-25 Read more