「遥生さん?珍しいですね。こんな時間に電話とは。何か急ぎの用ですか?」律人の声は、いつもの飄々とした調子に戻っていた。遥生は遠回しな言い方をせず、単刀直入に言った。「一つだけ確認したいんですが、君が星乃に近づいた本当の理由を」律人は眉を上げる。「遥生さん、それはちょっと言い過ぎじゃないですか?どうして僕が星乃と一緒にいるのが意図的だと思います?本気で彼女を気に入ってるだけかもしれないのに?」遥生はその言葉に答えず、淡々と続けた。「理由なんてどうでもいいです。利用でも、好意でも。ただ、僕が戻るまで、彼女を守ってほしいです」律人はすぐには返事をしなかった。「ひとつ気になりますね。遥生さんは、星乃とはどんな関係で僕にそのお願いをしてるんです?」その問いは、脅すような意図ではなく、単なる興味からだった。彼はすでに星乃の過去や人間関係を調べており、当然、遥生のことも調べの中に入っていた。遥生は素性を掴みにくく、情報を得るのは骨が折れたが、それでも少しは分かった。そして分かった範囲だけでも、彼が星乃に向ける想いは一目瞭然だった。UMEを立ち上げた当初は、遥生と星乃の二人しかいなかった。その頃、篠宮家はすでに傾き始めていた。資金も実力もある彼なら、もっと有利なパートナーを選べたはずなのに、彼が選んだのは星乃だった。しかも会社の名前まで――「U(あなた)」と「ME(私)」。その意味は、説明するまでもない。後に星乃が結婚し、UMEが揺らいだ時、遥生は外資と手を組んで海外に拠点を移した。それでも会社名を変えることを頑なに拒み、外資と揉めかけたほどだった。そして星乃が離婚すると、彼は真っ先にリスクを承知で帰国した。理由は――言うまでもない。「家族です」律人が考え込んでいると、遥生は静かに口を開いた。「彼女がずっと無事で、幸せでいてほしいと思う、『家族』としてです」律人は小さく笑った。――強がるなぁ、遥生さん。だが、それを口にはせず、軽く言った。「星乃の『家族』なら、君の言葉を無視するわけにはいきませんね」遥生は、律人の声音に滲むおどけた響きを聞き取った。――律人が信じていないことは分かっている。もっとも、自分も彼を信用してはいないのだが。遥生はいまだに律人を疑っていた。星乃を傷つけ
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