これは自分の手で、星乃と別の男をくっつけてやったってことか?悠真は思わず苦笑した。だが数分後には、すっかり表情を落ち着かせ、手元の契約書を見つめた。すでにサインを済ませている。これで本当に、星乃との関係はきっぱり終わったのだ。そう思うと、悠真の黒い瞳に複雑な光が一瞬だけ走った。……星乃は契約書を持って病院を出ると、車に戻り、大きく息を吐いた。正直、悠真があの条件を出してきたとき、薄々わかっていた。あれは自分を侮辱するためのものだと。悠真はもともと自分に興味なんてなかった。結婚して五年、関係が悪化してからは、夜を共にすることなんてほとんどなく、あったとしてもいつも自分のほうから無理に近づいていった。悠真のほうは、自分とそういう関係になること自体、ほとんど好んでいなかった。それでも、最近のあの妙な様子には少し怯えていた。まさか本気で「一緒に寝ろ」なんて言うんじゃないかと。何度も関係を持ってきたとはいえ、悠真が結衣と過ごした過去を思い出すと、どうしても嫌悪感が込み上げてくる。けれど結局、悠真はいつもの悠真だった。十分も経たないうちに、星乃の口座に入金の通知が届いた。金額は契約書に記されていた通り。星乃はもう一度、胸をなで下ろした。悠真は少なくとも、約束だけは守る人だ。すぐにそのお金をUMEの口座に振り込み、数件の電話をかけ、工場の設立を正式に動かすよう指示を出した。この件は明日、智央と遥生に話すつもりだった。だがなぜか智央が先に財務部から聞きつけたらしく、慌てて電話をかけてきた。「星乃、そのお金……どこから入ってきたんだ?」智央の声は驚きで少し上ずっていた。星乃は遺言書の件を簡単に説明した。ただし、悠真のことには触れず、「遠い親戚から」とだけ言った。「お前……」智央はしばらく黙り込んでから、複雑な声で言った。「そんな大金、全部つぎ込むなんて……もし失敗したら、全部なくなるんだぞ?」星乃は答えた。「ええ、怖くないわけじゃないですよ。ですが、私にできることは、もうこれくらいしかないです」五年という時間を無駄にして、手元にある資源はほとんどなく、遥生とUMEのためにできることは、もう限られていた。UMEを大きくするには、リスクを取るしかない。そして、そのリ
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