もう一人は三十代半ばくらいの女性で、ある会社の人事部の幹部をしているらしい。写真を見る限り、柔らかい雰囲気の顔立ちで、話しやすそうな印象だった。それに、この二人が勤めている会社は、どちらも今UMEと取引のある企業だ。妙なところで縁がつながっている気がして、少し親近感が湧いた。星乃は他人とのルームシェアに抵抗はなかったし、よくよく考えれば悪くない案だった。少なくとも、悠真は体裁を気にするタイプだ。もし自分が誰かとシェアして暮らしていると知れば、もうそう簡単に押しかけてくることもないだろう。そう思い至り、星乃はその相手と内見の約束を取りつけた。一方で、不動産仲介業者のほうは星乃からの連絡を受けて、ようやく胸をなでおろした。「白石様、これならもう決まったも同然ですよ。ここまで話が進んだら大抵は契約決定ですから!」笑顔でそう言いながら、仲介業者は律人に向かってニヤついた。彼は笑みを張りつかせたまま渋い顔をした。「でも白石様、この二人、瑞原市にそれぞれ自分の家持ってるんですよ?しかも条件を見る限り年収も軽く二千万は超えてますよね?そんな人たちがシェアに同意しますかね?もし断られたら、こっちの嘘バレるじゃないですか?」この二人のプロフィールは律人がその場で適当に選ばせたものだった。どちらも新築マンションの購入客。家を持ってるのにシェア希望なんて、筋が通らないにもほどがある。律人はちらりと彼を見上げ、淡々とした声で言った。「君が余計なことさえ言わなければ、バレることなんてない」「逆に言えば、バレたとしたら、それは君が口を滑らせたせいだ」仲介業者は目を丸くした。「ちょ、白石様、それは……」「黙ってろ。ニヤニヤするな、気持ち悪いんだ」律人は立ち上がり、手にしていた鍵をぽんと彼のデスクに投げた。「あとでリストを送る。必要なものは全部それに沿って買って、部屋に運び込んどけ」言い終えると、律人はそれ以上何も言わず、ゆっくりと店を出て行った。残された仲介業者は半泣きになった。数十分前の自分を殴りたい。調子に乗って余計なことを言わなければよかった。目が節穴だった。今や彼は律人という大口の客を逃したばかりか、完全にこき使われる羽目になってしまった。――俺の人生、どこまでツイてないんだ。……
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