「漣は自慢の息子だ。親バカかもしれないが……ただ優秀なだけではなく、人の気持ちがわかる素晴らしい医師になってくれたと思っている。もちろん、年齢的に経験不足な面はあるが、それはそのうち釣り合いが取れてくるだろう」 父は漣くんの目をしっかりと見据えてそう語り、今度は私に視線を移した。 「瑞希も、自慢の娘だよ。優しくて真面目で、努力家で、心の温かい素敵な女性に育ってくれた。本当にありがとう。父さんたちは愛莉というかけがえのない宝物を失ったけれど、瑞希に出会えて本当によかったと思っている。もしかしたら……亡くなった愛莉が、泣き暮らしていた父さんたちと瑞希を引き合わせてくれたのかもしれない、なんて考えることもあるよ」 「お父さん……」 胸がいっぱいで、言葉にならない。感謝を伝えるのはこちらのはずなのに。 親を亡くした私を引き取り、朝比奈家の一員として大切に育ててくれたのは両親だ。恩を返さなければならないのは私のほうなのに。 そんな思いが募り、目の奥がツンと痛んだ。 泣いてしまわないよう、私は軽く天井を仰ぎ、必死にこらえる。 父はそんな私を優しい目で見守りながら、さらに言葉を重ねた。 「里親制度では、里子が成人すればかかわりが途絶えることもあると聞く。法律上の親子ではないから、そこで関係が終わってしまうということなのだろう。それを知ってから、瑞希がわが家から巣立っていくのは、親としてうれしい反面……正直、すごく寂しいんだ」 父がそんな風に感情を吐露したのは初めてだった。 これまで引っ越しの時期や費用の相談に乗ってくれたり、「独り立ち後も実家だと思って帰ってきてほしい」と温かい言葉をかけてもらったことはある。 けれど、私が家を出ることをどう感じているのか、はっきり口にしたことはなかった。だからこそ『寂しい』というストレートな言葉が胸に響く。 私自身も、私に無償の愛を教え
Last Updated : 2025-09-15 Read more