All Chapters of 禁愛願望~イケメンエリート医師の義兄に拒まれています~: Chapter 101 - Chapter 110

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【21】③

 そもそも、俺と瑞希の関係を知っている人間なんて限られている。 しかもその秘密を、暴露という形で刃に変えて突きつけてくるような人物など――「……綾乃……」 ぽつりと、かつての恋人の名をつぶやく。 疑いたくはない。 だが、可能性を挙げるとすれば、やはり彼女しか思い当たらない。 というのも、別れ際やそれ以降のやり取りを振り返れば、いくつかの不穏な場面が蘇ってくるからだ。◆◇◆ 綾乃とは、約束どおり瑞希の実習が終わる七月末まで、形式的に交際を続けた。 けれど、恋人らしい特別なできごとはほとんどなかった。 俺は実習生を抱えて忙殺され、彼女も臨床実習担当窓口として業務が山積み。会う機会すら乏しかった。 それでも時折、帰りがけに「漣のマンションに行きたい」とメッセージが届くことがあったけれど、研修会や資料準備を理由に断った。 瑞希以外の女性を自分のテリトリーへ招き入れることには、どうしても抵抗があったからだ。 結局、恋人らしい時間といえば、何度か二時間程度の食事をともにしただけ。そのうちの一回が、交際の期限である最後の日、だった。 勤務を終えた俺は、彼女の誘いに応じ、都心の繁華街で待ち合わせた。フレンチを好む綾乃のために、落ち着いた雰囲気のレストランを予約して。 整った空間で料理を楽しみながら、互いの仕事や実習の話をした。 人目があるため深い話こそできなかったが、それでも同じ現場に立つ者同士、尽きることのない話題があった。気づけば、デザートと食後のコーヒーが運ばれる時間になっていた。「漣、もう少し一緒にいたいの。だめ?」 店を出ようとしたとき、綾乃が名残惜しそうに言った。「今日までは、私の恋人でいてくれる約束でしょ?」 その目はひどく寂しげで、拒絶を恐れているように見えた。 俺は断ろうとしたが、負い目を抱えていたせい
last updateLast Updated : 2025-09-11
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【21】④

「なに言ってるんだよ」 苦笑して返すと、綾乃は軽く目を瞠り、すぐに不服そうにため息をついた。「だって、彼女らしいこと、ほとんどさせてもらえなかったじゃない」「約束は守ったつもりだ。予定が空いていれば、できる限り時間を作った」「家には一度も入れてくれなかったのに?」 ちくりと刺すような言葉に、俺は返す言葉を失った。「――これから行きたいの。日付が変わる前なら、まだ恋人って言えるでしょ?」「綾乃」 妖しく微笑む彼女。その強引さに、俺は思わず名を呼んで窘める。 それでは約束が違う。交際は今日まで――だからこそ、俺は条件を呑んだのだ。「そんな怖い顔しないで」 冗談めかして笑う綾乃だけど、瞳の奥は真剣で、揺れていた。「本当はね、もっと強引に迫ってもよかったのよ。帰りを待ち伏せするとか、毎日メッセージを送りまくるとか。でも、そんなことしたら漣が嫌がるってわかってたから……」 確かにその通りだ。彼女のことを一層疎ましく思っただろう。それを理解した上で抑えていた――そう言いたいのだ。 やがて彼女の表情が一変し、切実な響きを帯びる。「漣にもう一度好きになってもらえるなら、なんでもする。どうしたらいい? どうすれば振り向いてくれるの?」 悲痛な言葉に胸が痛む。いつも凛としていた彼女を、ここまで追い込んでしまったのは俺だ。「……ごめん。そんな風に悩ませて」 頭を下げながら、心の底から申し訳なく思う。「でも、わかってほしい。もう気持ちをごまかせない」「だから妹を選ぶってこと?」 選ぶ――その一言に、ヒヤリと背筋が冷えた。「……選ぶ、とかじゃない。ただ、自分の素直な感情を大事にしたいだけだ」 瑞希のことが好きだから、想いを伝えて付き合う――というような、単純な話じゃないのだ。 俺のこの感情は、愛莉への罪悪感がもたらした
last updateLast Updated : 2025-09-11
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【21】⑤

 真正面から本音をぶつけてくる綾乃に納得してもらうには、こちらも腹を割らなければならない――そんな気がしていた。「…………」 綾乃は俯いたまま沈黙し、グラスの中で溶けかけた氷が小さく鳴った。「……そう。そんなにあの子が好きなの」 やがて顔を上げた綾乃が、唇を噛みながら俺を射抜くように見つめた。「もし別れたらどうするの? 妹と――付き合うつもり?」「……そういうことは考えていない」 瑞希を想っているのは事実でも、軽々しく関係を進めることが正しいとは思えなかった。彼女を守るためにも、自分自身のためにも。 だが綾乃は、涙を帯びた瞳のまま、かすかに笑う。「そうよね。世間の目があるもの。隠し通そうとしたって、悪事は必ず露呈するわ」「……悪事、か」 その一言が胸を突いた。俺の想いは本当に『悪』なのだろうか。理性では否定できても、感情はどうしても消せなかった。 次の瞬間――綾乃がグラスをつかみ、残っていたアイスティーを俺の顔へとぶちまけた。「っ!」 反射的に腕で庇ったが間に合わない。冷たい液体が頬を伝い、シャツの胸元に広がっていく。氷のかけらが転がり落ちる音がやけに響いた。 綾乃は怒りとも悲しみともつかぬ表情で俺を見据え、テーブルにグラスを置くと、低く言い放つ。「――なにを言っても無駄なら……『今のところは』別れてあげる。でも、いつかきっと後悔する。頭を冷やして、よく考え直すことね。あなたは絶対に間違ってる」 吐き捨てるように言い残し、椅子を乱暴に引いて立ち上がる。 最後に鋭い視線を投げかけ、「じゃあね」と冷ややかに告げて店を出て行った。「…………」 残された俺は、周囲の視線やひそひそ声を無視しながら、ポケットからハンカチを取り出し
last updateLast Updated : 2025-09-12
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【21】⑥

 そのときまでは、本当に瑞希に自分の想いを告げようとは考えていなかった。 だが、実習の成果発表会の日――壇上で倒れる瑞希を見た瞬間、かけがえのないものが手のひらからこぼれ落ちるような恐怖に襲われた。 無我夢中で彼女に駆け寄りながら、俺は心の底から後悔していた。どうして「好きだ」と伝えなかったのか、と。 ――これは錯覚なんかじゃない。俺は瑞希を愛している。 その確信を得てからは、彼女に気持ちを伝え、ともに歩む未来を模索した。最大の課題は両親へのカミングアウト。 ……正直、恐ろしくないと言えばうそになる。 愛莉の死の兆候に気付けなかった俺が、今度は「妹」として守るべき瑞希と恋愛関係にあると知ったら、両親は深く失望し、裏切られたと感じるだろう。 兄失格。そう罵られても仕方がない。 だが、この想いは一時の気の迷いではない。俺には瑞希しかいない。 だから、これからも彼女と生きるために、家族である両親に理解してもらい、できることなら祝福してほしかった。 打ち明けると決めたのは、父の還暦祝いの日。 その一週間前、瑞希と都心の商業施設へと出かけ、父への贈り物を選んだ。 医師という立場上、俺を知る人間は思っている以上に多い。普段は人目を避け、俺の部屋で会うことがほとんどだった。 けれどその日は『親へのプレゼント』という大義名分があった。人混みに紛れれば誰の目にも止まらないと油断し、普通の恋人同士のように堂々と歩ける解放感に、俺も瑞希も浮き立っていた。 ――だから、つい、手をつないでしまったのだ。 休日の繁華街。誰もこちらを注目しているはずがないと思い込んでいたわけだが、それが過ちだった。 その夜、瑞希を送り届けた後、スマホが鳴った。画面に表示されたのは、別れてから連絡を絶っていた綾乃の名。 胸騒ぎを覚えつつも通話を取ると、開口一番、冷たい声が飛んできた。「漣……あなたには失望した」 張り詰めた声音に、思わず背
last updateLast Updated : 2025-09-12
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【21】⑦

「……考えが変わったんだ。俺たちの感情は『悪』じゃない。ふたりで未来を築けるなら、その道を選びたい」 瑞希を失いかけた恐怖で心境が変わったことを告げつつ、俺は綾乃と別れた夜の会話を思い出していた。 あのとき綾乃は、瑞希への想いを「悪」だと断じた。だが、どうしてもその言葉は飲み込めなかった。 もちろん、世間がそう考えるのも理解できるし、否定はしない。 だが俺と瑞希は戸籍上、きょうだいですらない。法を犯しているわけでもなく、結婚だって可能だ。障害になるのは周囲の偏見だけ。 ならば、それを乗り越える努力をするだけだ。「あなたたちは家族なのよ。血がつながっていなくても、汚らわしい。絶対に上手くいかない」 冷静さを装っていた綾乃の声は、次第に感情の色を帯びて荒くなる。「そう思う気持ちは否定しない。でも俺たちは理解してもらいたい。だから今、その準備をしているんだ」 どんな言葉を浴びても、怒りは湧かなかった。 綾乃の言い分が正しいのもわかっている。だが俺と瑞希は、別の答えを選んだのだ。「……ふうん。そう。わかった」 間を置いて綾乃は吐き捨てるように言った。「――理解してもらえるといいわね。まずは、大切なご両親に」 そして一方的に通話を切った。 その瞬間、胸に小さな違和感が芽生えた。だが深く考えようとはしなかった。◆◇◆ 今になって思えば、あの違和感の正体は綾乃の最後の言葉のなかにあった。『――理解してもらえるといいわね。まずは、大切なご両親に』 確かに俺は、いずれ両親に話すと決めていた。だが綾乃にそれを明言した覚えはない。 口にしていないはずの言葉を、なぜ彼女は断定するように言ったのか。 そして今日、実家に届いた匿名の手紙。瑞希との関係を暴露し、両親を揺さぶる内容。 ――偶然の一致だとは思えない。
last updateLast Updated : 2025-09-12
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【22】①

 図書館で試験勉強を終え、帰り際にようやくバッグの奥からスマホを取り出すと、母からの不在着信が何件も並んでいて驚いた。さらにメッセージも数件。 「何時ごろ帰ってくるの?」とだけあるけれど、それだけを確認したくてこんなに電話をしてくる母ではない。なにか、トラブルがあったに違いない。 折り返そうとした瞬間、漣くんからのメッセージが届き、さらに胸が忙しく騒ぐ。 ――私たちの関係を暴く手紙が実家に届いた?  ――今から漣くんが帰宅し、両親に説明する? 突如降って湧いた言葉に、ただただ狼狽するしかなかった。 けれど彼が「予定が早まっただけだ」と添えてくれたおかげで、すんでのところで気持ちを立て直す。  そうだ、もともと週末には打ち明けるつもりだったんだから。数日早まっただけで怯える必要はないんだ――そう、自分に言い聞かせる。 漣くんとやり取りできたおかげで、母への折り返しも冷静に応じられた。 「不審な手紙が届いた」と困惑する母に、すぐ帰宅することと、詳細は兄が着いたら話すことを告げ、電話を切った。 家に着くと、母だけでなく父もすでに待っていた。偶然早く帰れたのか、母が打診したのかは不明だけど、両親が揃っていることがいっそう空気を張り詰めさせる。 母ひとりを相手にする場面を想定していただけに、父の存在は緊張を倍増させた。 夕食の時間帯にもかかわらず、ダイニングには湯気も香りもない。 テーブルは手付かずで、これから始まる話が食事と一緒にできる類ではないことを、両親も理解しているのだろう。 だから先に帰った私にすら、なにも訊かない。すべては漣くんが揃ってから――そう決めているように。 やがてインターホンが鳴り、漣くんが現れた。軽く挨拶を交わすと、誰が言い出すでもなく四人は自然とリビングへ移動する。 L字のソファには母と父が並び、角を挟んで私が座る。その隣に置かれたスツールに漣くんが腰を下ろした。静寂の中、家具のきしみがやけに響く。「悪かったな。わ
last updateLast Updated : 2025-09-13
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【22】②

「で……電話でもよかったのよ。そんな大ごとにしなくても。ねぇ、お父さん」 張り詰めた空気を破るように、母が無理に笑って父へ話を振る。 父も調子を合わせ「あぁ」と短くうなずき、軽く咳払いをして口を開いた。「こういうイタズラを仕掛けそうな人間に、心当たりはないのか」 両親は手紙を事実無根の悪戯とみなし、「災難だったな」と言わんばかりの視線をこちらに向ける。 というより、そう思い込みたかったのだろう。祈るような色が瞳の奥に宿っていた。 私は漣くんと視線を交わし、わずかにうなずき合う。 ――ごまかさず、今ここで伝えなければ。 漣くんが私に「心配するな」と微笑みかけ、それから真っすぐ両親を見据えた。「本当は、こうなる前に話すつもりだったんだ。……手紙はイタズラじゃない。書かれていたことは事実だよ」「っ……!?」 突然の告白に、両親は絶句した。 沈黙のまましばらく漣くんを凝視し、理解を拒むように呆然としている。 その様子に胸が締めつけられる。予想していた反応とはいえ、両親を傷つけている現実が苦しい。「漣……あなた、自分がなにを言ってるかわかってるの?」 母の声が低く、硬く響く。「もちろん。……ふたりを動揺させて、本当に申し訳ない」「わかっていて、どうしてこんなことになってるの!?」 真摯に頭を下げる漣くんに、母は堪えきれず声を荒らげた。 普段は太陽のように明るく、朗らかな笑みを絶やさない母。 その母がネガティブな感情を露わにする姿を見るのは初めてで、私はただ震えながら見つめるしかない。漣くんも怯んだように言葉を失う。 母は視線を私と漣くんの間に行き来させ、さらに畳みかけた。「私たちは瑞希を実の娘と同じ気持ちで育ててきたのよ。瑞希はあなたの妹なの。漣だって、そ
last updateLast Updated : 2025-09-13
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【22】③

 母は兄としての役割を守らなかった漣くんに、強い憤りを感じているようだった。 言葉を選んでくれてはいたけれど、「期待を裏切られた」という感情がひしひしと伝わってくる。 ――でも、違う。きっかけを作ったのは。「漣くんを責めないで」 私は弾かれるように声を上げた。 その瞬間、母も父も漣くんも、一斉に私を見つめる。 両親の前で彼を名前で呼ぶのには躊躇いがあった。 けれど、もう「お兄ちゃん」と呼ぶほうがよほど不自然に思えた。「違うの。漣くんは悪くない。悪いのは私……漣くんは、何度も私を拒もうとしたんだよ。『きょうだいだから、そういう関係になってはいけない』って。『お父さんやお母さんを悲しませることになる』って。本当に、何度も」 漣くんは兄として繰り返し線を引いてくれた。その境界を曖昧にしたのは私のほうだ。 だから、彼ばかりが責められるのに耐えられなかった。 好きになってはいけない人だとわかっていたのに、抑えきれなかったのは私。立場を弁えなかったのは私だ。 私のせいで漣くんが悪く思われるなんて、絶対にいやだった。かぶりを振って、続ける。「朝比奈家に来てからずっと、漣くんは私を実の妹みたいに大事にしてくれた。ずっと……愛莉さんのことで、自分を責めてたんだよ。亡くなったのは自分が異変に気付けなかったせいだって。だから、愛莉さんのぶんまで、私をかわいがってくれたの」 口に出した瞬間、父と母がはっとしたように目を見開いた。 私が「愛莉さん」という名前を出すなんて、思ってもいなかったのだろう。家族でその名を語ることは、これまでなかったから。「……私が諦められなかっただけなの。漣くんは優しいから、私の気持ちを受け止めてくれただけ。だから、責められるとしたら私なんだよ」 兄としての自分と、ひとりの男性としての自分。 その狭間でずっと苦しんできた漣くんを思うと、なにも知らず
last updateLast Updated : 2025-09-14
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【22】④

 今度は父と母が顔を見合わせた。 そして、それまで沈黙を守っていた父が、ついに口を開いた。「……冷静に、ちゃんと話そう。いきなりこんなものが届いて、気が動転してしまったが……漣と瑞希の口から直接事情を聞きたい。母さんも、それでいいね?」 その声は低く落ち着いていて、この場の誰よりも冷静さを保っているように聞こえた。 となりの母が小さく「ええ」と答える。「ありがとう」 漣くんと私は、思わず同時に口にした。 まずは話を聞こうとしてくれる――それだけで、救われた気持ちになる。 それから漣くんが、静かに語り始めた。 お互いを異性として意識し始めたのはずっと以前からだったこと。けれど実際に気持ちを通わせたのは夏ごろで、まだ最近だということ。 私が何度も告白して、そのたびに漣くんが拒んだこと。彼自身も想いを抱きながら、愛莉さんへの罪悪感で「特別視しているだけではないか」と葛藤していたこと。 マンションに引っ越したのは、私と顔を合わせないためだったこと。それでも結局はお互いを必要とし合う気持ちが募り、打ち明け合ってからは漣くんの部屋で会っていたこと。 ……包み隠さず、話せることはすべて。 父と母は、言葉を挟まずに耳を傾けていた。「父さんと母さんがおどろくのは当然だし、信じられないのもわかる。……落胆させてしまって、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。でも、俺たちも悩んで、悩んで……その上で出した結論なんだ。いい加減な気持ちでこうなったわけじゃない。そこだけは、わかってほしい」 漣くんが言葉を結び、私に視線を向けた。次は私の番だ。「……今回のことで、お父さんとお母さんに申し訳ないと思ってる。わが子のように育ててもらったのに、裏切るようなことをしてしまって……ごめんなさい」 言いながら、頭を深
last updateLast Updated : 2025-09-14
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【22】⑤

 ひとしきり話し終えると、再び場がしんと静まり返った。 父も母も、私たちの言葉を真剣に受け止めてくれている。だからこそ、軽率な一言を口にすまいと慎重になっているのだろう。 ふたりは今の話を聞いて、なにを感じ、どう思っているのだろう。 理解してもらいたい。できれば応援してほしい。そんな願いは傲慢だとわかっている。 それでも、この世でいちばん私たちを愛してくれている父と母には、そう願わずにはいられなかった。「……ふたりの気持ちは、よくわかった」 父の神妙な声に、私と漣くんは同時に顔を上げる。父をまっすぐに見つめた。「まずは、話してくれてありがとう」 意外なことに、父は私たちに礼を言った。 いつもはおおらかな母にさえ詰られたあとだったから、私も漣くんも強い叱責を覚悟していた。だからこそ、「えっ」と小さく声を漏らしてしまう。 漣くんも驚きに目を見開き、次の言葉を待っていた。「手紙をイタズラとして片づけ、やり過ごすこともできただろう。だが、それをせずに真っ向から話してくれた。父親としては、それがうれしい。……そして、ふたりがどれだけ真剣に想い合っているのかが伝わってきた」 父はそう告げ、ふっと表情を緩めた。怯えて固くなっている私たちを安心させようとしてくれているのが伝わる。 だが、その声色には変わらず厳粛な響きがあった。「正直なところ、まだ現実に頭が追いついていない。だが、事実だけを言うなら、ふたりの言う通りだ。漣と瑞希に血のつながりはなく、戸籍上は他人。結ばれてはいけない理由はない。……ただし、それを快く思わない人間がいるのも確かだ」「……はい」 私と漣くんは同時にうなずいた。 誰よりも私たち自身が理解している。きょうだいとして育った者同士が恋人になったと知れば、多くの人は嫌悪を抱くだろう。社会的信用を失う可能性だってある。 それでも一緒にいたい。漣くんとの関係を認めてほしい
last updateLast Updated : 2025-09-15
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