「大丈夫、呑まないよ」 きっぱりと断言してくれたその声に安堵した。躊躇いがちに漣くんが続ける。 「……本音を言うと、瑞希にいやな思いをさせたくなくて、ほんの少しだけ考えた。でも、俺たちは罪を犯しているわけじゃないから」「そっか。……よかった」 思わず息を吐いて、握り締めていたマグをローテーブルに置いた。 けれど同時に、どうしてそんな大事なことを隠していたのか、わずかな引っかかりも残った。 表情に出てしまったのだろう、漣くんが苦笑する。 「ごめん。瑞希に黙ってたのは、心配させたくなかったからなんだ。綾乃を説得しようとしたけど、簡単にはいかなくて」 彼は何度かメッセージを送ったり、電話で話をしようと試みたけれど、拒否されてしまったらしい。 まるで「ふたりの別れ以外は認めない」と突きつけるみたいに。 「連絡が取れないなら、直接話す場を作れないかとも考えたけど……それも難しくて」 「……そうだよね」 ただでさえ命を預かる仕事で忙しくしているのに、無理はしてほしくない。 それに、強引に接触すれば逆効果になりかねない。新庄さんがさらに過激な手段に出たり、漣くんの立場が悪くなってしまったら……その方が怖い。「俺はどうにかして綾乃の気持ちを変えたい。俺たちのためだけじゃなく、綾乃のためにも」 まっすぐな声で漣くんが言う。「今さらだけど……瑞希に対する綾乃のハラスメントが院内で問題になってる。週明けには事情を聞かれるみたいだけど、本人は悪びれてなくて」 その報告に気持ちが重くなる。やはり彼女のなかで、私の対する敵意は消えていないのだ、と。 「綾乃のことだから、匿名の手紙が効かないことくらい承知のはずだ。だから、自分で裏付け
Last Updated : 2025-09-20 Read more