鼻先が触れそうな距離に兄の顔がある。 どうして――そう問う前に、兄の唇が重なった。 おどろきのあまり身じろぎすら叶わない。 目を閉じることもできず、兄の舌が私の口腔内をゆっくりと這い回る。「っ、んぅっ……ふ、ぅっ……」 舌先の感触に、ぞくぞくとした甘い快感が弾ける。 状況を理解するのに少し時間がかかった。 私、お兄ちゃんとキスしてる……? いったいどうして? お兄ちゃんは、ずっと、私を拒んでいたはずなのに―― ひとしきり口内を搔き混ぜられたあと、兄が私の唇を解放する。「……ごめん、瑞希」 それから、ひどく苦しげに眉根を寄せて、掠れた声で謝罪の言葉を口にする。「このまま、瑞希が遠ざかっていってしまうと思うと……触れずにはいられなかったんだと思う」 呆然と、まるで別の誰かのことを話すみたいな物言い 兄も自分自身の行動におどろいているみたいだ。「瑞希を傷つけたのに、こんなことをしてる俺は残酷なんだろうな」 兄の親指が、彼の唾液で濡れた私の唇をそっとなぞる。 私を傷つけたと言いながら、兄の方がずっと傷ついたような顔をしている。「っ、そんなことないっ……」 反射的に首を横に振った。「――わかっちゃった。私、やっぱりお兄ちゃん以外の人を好きになったりできない。今だって、こんなにドキドキしてるのに」 びっくりしたけど、キスされた瞬間、かつてない幸福感を覚えた。 触れ合った唇が熱く、甘く蕩けていきそう。 心臓が壊れてしまうかと思うほど激しく脈打っていた――今も、そう。 それで、わかった。私はまだ、兄のことを諦められそうにない。 こんなに好きなのに、兄以外の男性と恋愛を始めるなんて無理だ。「お願い。私をお兄ちゃんのものにして」 気が付くと、大胆な言葉が口を吐いた。 冷静さを欠いた台詞だとわかっていても、止められない。 私は兄の背中に腕を回して、ぎゅっと抱き着いた。 物理的にも、心理的にも、兄との距離がこんなに縮まったのは初めて。 この機会を逃してしまったら、永遠に兄の温もりを知ることはないのかもしれない。 そう考えたら切なくて、悲しくて……兄の手を、唇を、繋ぎとめておきたくなってしまったのだ。「――今だけでいいの。明日からはまた、
Huling Na-update : 2025-08-14 Magbasa pa