だから独占欲なんて芽生えたのか―― そう考えると腑に落ちる一方で、自分自身を嫌悪せずにはいられなかった。 戸籍上は他人でも、世間から見れば妹。異性として意識するなんて、正気の沙汰じゃない。 もし両親が知ったら? 瑞希自身が知ったら? きっと汚らわしいと軽蔑されるに違いない。 俺は精神医学で学んだ『愛着理論』の一節を思い出した。 失った家族への想いを、別の対象に無意識に置き換える――まさに、愛莉を失った俺が瑞希に愛情を注いでいるのは、その典型なんじゃないか。 瑞希を愛しているんじゃない。ただ心の安定のために、そう思い込んでいるだけだ。 このままではいけない。瑞希とは一定の距離を取らなければ。 そう決めてから、俺は意識的に女性に目を向けるようになった。 学生時代から声をかけてくれる相手はいたし、何人かとは付き合いもした。 けれど結局、どの恋も長続きしなかった。 どこかで瑞希と比べてしまうからだ。 それでも「本気で結婚を考えられる相手を探さなきゃ」と思い始めた矢先のことだった。医師になって最初の年、瑞希から突然告白を受けたのだ。「お兄ちゃんが好き」 正直、その瞬間の記憶はあまり残っていない。おどろきすぎて頭が真っ白になった。 毎日病院に詰め、瑞希と話す時間すら減っていたし、俺は兄として振る舞うことに必死だったはずだ。 それなのに、彼女は俺を男として見ていた。 一瞬、心が跳ねた。「同じ気持ちなんだ」と。 けれど理性が叫ぶ。 違う。兄妹としての一線を越えてはいけない。 両親や世間が知れば、瑞希がどんな目に遭うか。俺が守るべき存在を、俺自身が傷つけるなんてあってはならない。 それに、この想いは愛莉を失った罪悪感の裏返しなのかもしれない。俺は必死に言い聞かせた。『瑞希のことは大切だ。でもそれは家族だからだ』『今は恋だと錯覚しているだけだろう』 そうやって理性的な言葉で彼女を諭し、気持ちを封じ込めた。瑞希も一度は納得してくれた……はずだった。 ところが数年後、俺は再びその言葉を聞くことになる。 今年の春、俺が外科の専門医になったお祝いにと、瑞希が「二人でご飯に行きたい」と誘ってきた。 あのとき警戒すべきだったのかもしれない。だが、もう瑞希の気持ちは整理されたと思い込んでいたから、深く考えなかった。 食事を楽
Last Updated : 2025-08-19 Read more