All Chapters of 禁愛願望~イケメンエリート医師の義兄に拒まれています~: Chapter 41 - Chapter 50

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【11】⑥

「正直、がっかりしたんです。朝比奈先生の妹さんだっていうから、もっとしっかりしていると思ってたんですけど、期待外れだったみたいですね。……って、ああ、ごめんなさい。本当の妹さんじゃなかったんでしたっけ」「っ、どうして、それを?」 前半の言葉だけでも十分きつかった。妹失格の烙印を押され、胸に鋭い刃を突き立てられたみたいだ。 だけど後半を聞いた瞬間、意識を全部そちらへ持って行かれる。 なぜそのことを知っているのか。私は思わず訊ねていた。 アイラインを強めに引いた目元を細め、新庄さんがふふっと笑う。「さぁ、どうしてかしら?」 挑発するような声音。 ――なぜ?  私と兄が実のきょうだいでないことを知っているのは、親戚を含めたごく限られた人たちだけのはずだ。 両親も兄も、混乱を避けるために、私が里子であることを他人に言ったことはない。それなのに。 困惑する私を楽しむように、新庄さんはさらに瞳を細める。「血がつながっていないんじゃ、不出来でも仕方ないですよね。でも、この病院のスタッフは、みんなあなたを『本当の妹』だと思ってる。だからお兄さんの顔に泥を塗らないように気を付けることね」 丁寧な口調なのに、言葉の棘は鋭かった。ぐっと肩に手を置かれた瞬間、ぞくりとする。「――みんなが『本当の妹』だと思ってるうちは、それに見合う努力が必要でしょ?」 耳元で低く囁く声は氷のように冷たく、それでも顔は柔らかく微笑んでいる。その矛盾に背筋が凍りつく。 新庄さんは優雅に踵を返すと、何事もなかったように廊下を去って行った。 あまりの衝撃で、私は立ち尽くしたまま動けないでいた。 鼓動が乱れ、呼吸が浅くなる。「瑞希~? あれっ、先に行ってたんじゃなかったの?」 背後から翠の声。慌てて振り返る。「あっ、うん……ごめん、ちょっと考えごとしてて」 必死に笑顔を作る。 まだ心臓がバクバク
last updateLast Updated : 2025-08-22
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【11】⑦

 ここ数日は、新庄さんの前でいかに平常心を保てるか、そればかりに意識を割かれていた。 肝心の、実習に集中するという目的から大きく逸れてしまっているのが情けない。 大切なのは、自分をよく見せることじゃなく、学びと経験を得ること。 わかっているのに、あの昼休みに突きつけられた言葉が頭を離れない。『朝比奈先生の妹さんだっていうから、もっとしっかりしていると思ってたんですけど、期待外れだったみたいですね。……って、ああ、ごめんなさい。本当の妹さんじゃなかったんでしたっけ』 自分自身の至らなさは受け止めなければならない。 でも、私と兄に血のつながりがないことまで知っているとは―― 誰から聞いたんだろう?  この病院でその事実を知っているのは、翠と亮介、それに兄だけ。 翠も亮介も信頼できるし、他人に軽々しく話したりしない。 残るは兄。でも、わざわざ新庄さんに伝えるだろうか。 ――あ、そういえば。『お兄さんにはとても親しくしてもらっているんです』『仲のいいごきょうだいでとってもうらやましいです。朝比奈先生のそんな笑顔、私、初めて見ましたよ』 あの物言い。まるで兄と親しい関係であることを匂わせていた。 もしかして、兄の恋人?  なら、家族の話を共有されていてもおかしくない。 病院で会ったとき、兄は新庄さんに対してただの同僚のように振る舞っていたけど、仕事だから私情を出さなかったのかも。 ――でも待って。今、兄に恋人がいるなら、それを理由にお見合い話を断るはずじゃないだろうか? 考えても答えは出ない。はっきりしているのは、新庄さんが私たち家族の事情を知ったうえで、悪意を持っているということ。『――みんなが「本当の妹」だと思ってるうちは、それに見合う努力が必要でしょ?』 耳に焼き付いた低い声が蘇る。 指導ではなく、明らかに悪感情。理由がわからないからこそ恐ろしい。「相手は私なんだから、リラックスし
last updateLast Updated : 2025-08-22
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【11】⑧

「今、落とした電極をそのまま使おうとしましたよね?」「あっ、これは……申し訳ありません。焦ってしまって、つい」 手の中のパッドを見つめ、私は頭を下げた。「『つい』じゃ済みません。落としたものをそのまま使うなんて、実習以前の問題です。いったい講義でなにを学んできたんですか? 衛生観念を疑います」 冷たい声が胸に突き刺さる。新庄さんの怒りはもっともだった。 医療現場では感染や誤診断を防ぐため、一度落とした物品を再利用するのはタブー――そんなこと、私も重々承知している。 けれど、思考が真っ白になった瞬間、無意識に拾って使おうとしてしまった。 理由はわからない。動転していたのだ。「こんな低レベルなミスをするようでは、残念ですが医療従事者には向いていないんじゃないですか。患者さんの身体に直接触れる資格が、あなたにあるとは思えません」 矢継ぎ早に突きつけられる言葉。反論なんてできなかった。 ――その通りだ。私は現場の人間なら絶対にしてはいけない行為をしてしまったのだから。「まぁまぁ、新庄さん。そこまで言わなくても……」 張りつめた空気を和らげるように、小武さんが口を開いた。 柔らかな声音に、私と新庄さん、それからベッドの上で固まっている翠へも視線を配る。「現場で初めて実感できることもありますしね。失敗も学びに変わるのなら、実習の意義がありますよ」 静かで落ち着いた言葉だからこそ、怒気を孕んでいた新庄さんも受け止めざるを得なかったのだろう。彼女の表情から、ほんのわずかに鋭さが引いた。「……失敗というより、意識の問題な気もしますけれど。――別の班を見てきます」 そう言い残し、新庄さんは小武さんに一礼し、検査室を後にした。 残されたのは、私と翠、そして小武さん。重い沈黙が石のように降りてくる。「じゃあ、もう一度最初から仕切り直しましょう。電極は全部外しますね」
last updateLast Updated : 2025-08-23
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【12】①

 実習後はいつも翠と一緒に帰るけれど、この日ばかりはどうしてもひとりになりたかった。 「午後の実習をノートにまとめてから帰る」と彼女に告げ、私は病棟の職員用休憩室へ足を向ける。  そのとなりにあるロビーのベンチに荷物を下ろし、白衣のまま腰を下ろした。 この時間帯は利用者が少なく、人目に付きにくい。 しかもここは医師や技師がよく使う場所で、看護師の出入りが少ない。私にとってはちょうどよかった。 ――私って、なにをしてるんだろう。 うなだれてまぶたを閉じると、心電図実習での叱責が脳裏に蘇る。『こんな低レベルなミスをするようでは、残念ですが医療従事者には向いていないんじゃないでしょうか。患者さんの身体に直接触れる資格が、あなたにあるとは思えません』 新庄さんの言葉は辛辣だけど、反論できない。 考えれば考えるほど恥ずかしいミスだった。 落とした物品をそのまま使うなんて――現場では絶対に許されない。 わかっていたはずなのに、緊張で頭が真っ白になり、身体が勝手に動いてしまった。 目頭が熱くなり、膝の上で両手をぎゅっと握りしめる。 ……悔しい。情けない。 新庄さんの視線に怯えてミスをするのも、それに左右されてしまう弱さも。「……瑞希?」 ふいに名前を呼ぶ声がして、ぱちりと目を開けた。「っ、あ……朝比奈先生」 立っていたのは兄だった。 実家を出て以来、すっかり顔を合わせなくなった兄。スクラブに白衣という勤務中の姿を見たのは、これで二度目だ。 ――いつの間に来ていたんだろう。 思わず「お兄ちゃん」と呼びそうになって慌てて軌道修正すると、兄が堪えきれないというふうに吹き出した。「今なら誰もいない。普段通りでいいよ」 つられて周囲を見回すと、ロビーには私たち以外誰もいなかった
last updateLast Updated : 2025-08-23
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【12】②

 しゃくり上げて泣く私のとなりに腰を下ろした兄は、私の手からそっとグレーのハンカチを取った。 優しくまぶたに当てて涙を拭ってから、また私の手にそれを握らせる。「瑞希は昔から我慢強くて偉いけど……吐き出すことも大事だと思う。……あのときみたいに」「あのとき……?」「家に来たばかりのころ。夜、俺の部屋に来て泣いてただろ。『またひとりになるのが怖い』って」 ――あぁ、そうだった。 『朝比奈瑞希』になったばかりのころ。不安で押しつぶされそうになり、兄に泣きついた夜があった。 そのときも兄は「大丈夫だよ」と言いながら抱きしめてくれて、その温もりに救われたんだ。「瑞希さえよければ、なにがあったか教えて? 聞くだけになるかもしれないけど、少しでも力になりたい」「っ……」 無理強いしない優しい口調。 けれど、まっすぐな黒い瞳からは心底心配している気持ちが伝わってきた。  迷った末に、私は生理検査室での出来事を打ち明けることにした。 ただし事実だけ。普段から厳しい態度を取られていることや、私と兄が実のきょうだいではないことを彼女が知っている件には触れなかった。 前者は私の主観だし、後者は今ここで口にすることではないから。「そうか……」 一通り聞いた兄は、少し難しい顔で片手を口元に当てた。「口調は厳しかったけど……新庄さんが言ったことは正しかった。だから彼女を責めるつもりはないの。でも……こんな当たり前のルールすら守れない自分にがっかりして」 言葉にすると改めて、自分の失敗がいかに致命的だったかを痛感する。恥ずかしさで胸がいっぱいになった。「わかるよ、瑞希の気持ち」「お兄ちゃんにはわからないよ。……だって、デキるもん」 同
last updateLast Updated : 2025-08-23
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【12】③

 胸のもやもやがすっと消えていく感覚のなか、兄がいたずらっぽく笑った。「向いてないって言われたら諦めるのか? 瑞希には瑞希の信念があって検査技師を目指してるんだろ。外野の言葉なんて気にする必要はない。夢を諦める理由にはならないよ」「……ありがとう、お兄ちゃん」 責めすぎていたのかもしれない。兄のおかげで、それに気付けた。「話を聞いてもらって元気出た。……そうだね。誰になにを言われたって、夢は諦めたくない。なら、叶えるために頑張るしかないよね」 父や母、そして兄の背中を見て――医療に関わりたいと思った。 やるべきことは、嘆くことじゃない。次に同じミスをしないことだ。 私がそう言うと、兄は安心したように微笑んだ。「その調子。切り替えられたならよかった」「お兄ちゃんのおかげ。本当にありがとう」 もしひとりで考え込んでいたら、ずっと悶々としていたはず。自然と頬が緩んだ。 ……話を聞いてもらえて、うれしかった。「――っていうか、引き留めちゃったよね。仕事の途中だったんじゃ?」「いや、夕方の回診前の休憩だから大丈夫」「でも休めなかったんじゃない? ……ごめん」 日々タイトなスケジュールの兄に時間を使わせてしまって、罪悪感が募る。 けれど兄は「大げさだな」と笑い、私の頭をくしゃっと撫でた。「大事な妹が悩んでたら力になりたいと思うのは普通だ。気にしなくていい」「……ありがとう」 ――これはきょうだいとしての愛情。 わかっているけど、温もりに胸がどきどきする。兄は気付いていないのに。「ひ……ひとり暮らしはどう?」 手が離れると、表情に出ないよう努めながら話題を振る。「寝に帰るだけだからな。近くなった分、ちょっと楽になったくらい」
last updateLast Updated : 2025-08-24
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【13】①

「久しぶりに家族四人、集まれてよかったわね~」 七月初旬の土曜の夜。 二週間ぶりに朝比奈家が全員そろい、ダイニングテーブルで夕食を囲んでいた。 母の声はどこか浮き立っていて、嬉しさを隠せていない。「そんなに時間経ってないって」「母さんにとっては長かったんだろ。なぁ、瑞希?」 兄が茶化すと、父もにこやかにうなずき、こちらへと話を振る。「うん。今日が待ち遠しかったんだよね、お母さん」 兄が「週末に帰る」と連絡をくれた日から、母はずっとうれしそうだった。 私がからかうと、母は少し慌てて首を横に振る。「べ、別にそういうわけじゃないけど」「素直じゃないなぁ」 あれほどわかりやすくよろこんでいたのに。 思わず笑ってしまうと、父と兄もつられて声を立てた。 照れ隠しする母の姿が微笑ましく、胸がじんわり温かくなる。 本当は、私も兄が帰ってくるのを心待ちにしていた。  三人だけで食卓を囲むとき、いつも隣の空席が寂しく思えて仕方なかったのだ。 今夜はその場所に兄が座っていて、それだけで心が温かいもので満ちていく。「漣、ひとり暮らしは順調? なにか困ってない?」「特に問題はないよ」 箸を止めた兄が少し考え、肩をすくめる。「快適ならいいけど」「まぁ、多少の寂しさはあるかな。ひとりだと会話もないし。だから余計に家族のありがたみを実感してる」 言葉を聞いて、胸がちくりと痛む。 兄が家を出たのは――私のせいだ。 あの日がなければ、引っ越しなどしなかったかもしれない。 両親との距離まで作らせてしまったことに、罪悪感が込み上げる。「どうせご飯は適当でしょ。今夜はしっかり食べて、ゆっくりしていきなさい」「そうさせてもらうよ」 母は「家族のありがたみ」という言葉に満面の笑み
last updateLast Updated : 2025-08-24
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【13】②

 夕食を終えて入浴を済ませたあと、私は逃げるように自分の部屋へ戻った。 父と母は「せっかく漣が帰ってきたのだから」と、リビングにもう少しいるように促してくれたけれど、実習ノートをまとめるという口実で辞退した。 本当はもっと話したかった。でも、距離を取りすぎるくらいがちょうどいい――そんな義務感が心を抑え込んだ。 病院内で顔を合わせることもほとんどない今、こうして元気そうな顔を見られただけで十分だ。 明日は兄も休日で、昼頃までは実家にいるらしい。なら、楽しみは明日に取っておけばいい。 そう自分に言い聞かせてベッドに潜り込んだのに、会いたかった人がすぐとなりの部屋にいると思うと、なかなか眠気がやってこなかった。 ――お茶でも飲もうかな。 二階に上がってくる複数の足音をさっき聞いたから、両親も兄も解散して就寝準備に入ったのだろう。もうリビングは空いているはずだ。 静かに階段を下り、一階のキッチンに足を踏み入れる。冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスに注いでダイニングを抜けた。「……あ」 思わず声が漏れた。リビングのソファには、パジャマ姿の兄が座り、俯いたままスマホをいじっていたのだ。「お兄ちゃん、いたんだ」「ああ」 気持ちを取り繕うように明るく声をかけると、兄は顔を上げて軽くうなずいた。てっきり部屋に戻ったと思っていたから、胸が高鳴る。「……か、帰ってきてくれてありがとう。お母さん、すごくよろこんでたよ」「それはよかった」 私とは違い、兄は落ち着いた声色のまま。視線を向けられるだけで、胸の奥が熱くなる。 兄の着ているパジャマは、新居に移る前から使っていたもの。そして、今の私のパジャマも、あの夜と同じだった。 ――思い出さないようにしても、甘く危うい記憶が脳裏をよぎってしまう。 なのに、兄はいつも通り。私が特別に意識していることなど、まるで気づいていないかのように振る舞っている。「座った
last updateLast Updated : 2025-08-24
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【13】③

「いや、ちょっと妙だなと思って。検査室の技師から瑞希の評判を聞くと、みんな口をそろえて『真面目で優秀な学生』って言うんだ」 そう言ったあと、兄が「あ」と小さく声を漏らし、申し訳なさそうに眉を下げた。「ごめん。瑞希の言葉を信じてないとか、興味本位で探ろうとしたわけじゃないんだ」「うん、わかってるよ」 うなずくと、兄の表情に安堵が浮かんだ。 私が気を悪くしたと思ったのだろう。でも、そんな心配はいらない。 兄はただ純粋に、私を心配して調べただけ――それくらいのこと、確認するまでもなく伝わっていた。「厳しいことを言うのは、新庄さんだけなのか?」「えっと……」 告げ口みたいで迷った。 けれど、兄の目が「本当のことを」と促しているようで、控えめにうなずいた。「……そうか」 兄は小さくため息をついて黙り込む。その様子は、なにか心当たりを見つけたようにも見えた。「あの……お兄ちゃん。私も不思議に思ってることがあって」 今しか聞けない。そう思って、意を決して口を開いた。「新庄さん、私とお兄ちゃんに血のつながりがないって知ってるみたいなの。どうしてだと思う?」「…………」 返事はすぐには返ってこなかった。 その沈黙は、答えを探しているというより、打ち明けるかどうか迷っているように感じられ、心臓がいやな鼓動を刻む。 やがて、兄が意を決したように口を開いた。「実は……新庄さんとは――綾乃とは、少しの間だけ付き合っていたことがあって。そのときに瑞希のことも話したんだ」「……そうなんだ」 なんとなく予想はしていた。プライベートなことまで知っている時点で、親しい関係だったのだろうと。 だけど事実として耳に
last updateLast Updated : 2025-08-25
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【13】④

 ……いやいや。それこそありえない。 兄は私を二回もフっている。「妹としてしか見られない」とはっきり告げられて。 あの夜のことも私が懇願した結果であって、兄は押し切られただけに過ぎない。 兄が想い続けていた女性が私だったなんて、あまりにも私に都合がよすぎる展開だ。「瑞希が考えているので、合ってるよ」「えっ?」 まるで思考を読み取ったみたいに、兄が微かにうなずく。「……ずっと伝えないつもりだった。でも、瑞希が不合理につらい思いをしているのだと思うと……打ち明けなければいけない気がして」 兄がこれからなにを伝えようとしているのか、ちっともわからなかった。 いや、正確に言えば、うっすらと予測はついている。でも、それが実際に兄の口から述べられようとしていることが、信じられない。 兄の瞳が悲しげに揺れる。 言葉通り、伝えるべきではないとギリギリまで葛藤しているのが窺えた。 兄は苦渋の表情で、こう続ける。「俺もずっと、瑞希のことが好きだったんだ」「お兄ちゃん……」 兄が、私を、好き。 そうであってほしいと、どれほど願い続けていたか。 ――本当に? 私が、あの夜のできごとを忘れられなかったのと同じように、兄もまた忘れられずにこうして気持ちを打ち明けてくれたのだろうか?「瑞希……」 兄の手が私のそれを引くと、身体が前傾して距離が縮まる。 目の前には、兄の熱っぽい眼差しと形のいい唇。 空いた手をソファのL字の角に置いて支えにしながら、そうすることが当たり前であるみたいに目を閉じた。このまま、兄と唇同士が重なることを期待して。 でも――兄は震える手で私の肩をそっと抱くと、小さくかぶりを振って顔を背けた。「っ……でもこの気持
last updateLast Updated : 2025-08-25
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