思いがけない言葉に、胸が小さく跳ねた。 ――ふたりがいい? しかも土曜って……授業がない日を指定してくるなんて、まるで私と会うために時間を作ろうとしているみたいだ。 「え、あ……」 口ごもった私を、亮介は真剣な眼差しで見つめている。 お弁当のときみたいに「冗談だよ」と笑う気配はない。 「ち、違ったらごめん。ふたりで行くって……そういう意味?」 今まで亮介を異性として意識したことがなかったから、慎重に尋ねた。 彼はためらわず、こくんとうなずく。 「……やっぱり、そうなんだ」 おどろきが大きすぎて、うまく言葉が出ない。 まだ兄以外の男性を好きになる自分を想像できないし、亮介とふたりきりで出かける姿も想像できない。 「ごめん、正直なところ、亮介のことを男の人として見たことがなくて」 申し訳なさと戸惑いを抱えながら伝えると、彼は淡々とうなずいた。 「知ってるよ。瑞希は兄貴しか見てなかったもんな。でも、諦めるって決めたんだろ?」 「……うん」 まだ完全には吹っ切れていないけれど、兄のことは少しずつ忘れたい。 「それなら、俺とのことも考えてみてほしい。今すぐどうこうじゃなくていい。兄貴のことを忘れるきっかけにしてくれれば、それでいいから」「……亮介とのこと」 その優しさが、かえって胸にしみる。 「瑞希さえよければ、俺を利用していい。利用してくれて、その分笑顔が増えるなら大歓迎」 真っすぐな言葉に、息が詰まりそうになる。 「……本当に?」 つい確認してしまうほどだった。 亮介はふっと口元を緩め、「まさか気づいてなかったの?」と笑う。 「ぜ、全然……!」 私が慌てて首を振ると、彼は「マジか」と肩をすくめた。 「まぁいいや。兄貴一筋だった瑞希には、わかるわけないか」 「ごめん……」 「謝るなよ。そういうまっすぐなところを好きになったんだから」 その一言に、頬が一気に熱くなる。 ――サラッと「好き」なんて、亮介らしくない。 「じゃないと、瑞希には伝わらないから」 彼はカラッとした笑顔を見せ、続けて「翠にも言われたよ。『瑞希は鈍感だから』って」と笑う。「え、翠も知ってたの?」 「もちろん。今日だって気を利かせてふたりにしてくれたんだ」 知らなかったのは、どうやら私だけらしい
Huling Na-update : 2025-08-05 Magbasa pa