All Chapters of 魔女リリスと罪人の契約書: Chapter 71 - Chapter 80

秋の初日、アリアは統合教育実験校の門をくぐった。「きんちょうする」アリアが小さく呟く。五歳での早期入学は異例のことだった。「大丈夫よ」リリスが娘の手を握る。「エリカ先生がいるし、アリアならきっとうまくいくわ」校舎は新しく、明るい雰囲気に包まれている。魔女と人間の子供たちが一緒に学ぶための、特別に設計された建物だった。「ようこそ、アリアちゃん」エリカ園長、いや今日からはエリカ校長が出迎える。「今日から、あなたは一年生よ」「せんせい、よろしくおねがいします」アリアが丁寧にお辞儀する。「こちらこそ。さあ、教室に行きましょう」教室に入ると、すでに数人の子供たちが座っていた。「みんな、新しいお友達を紹介します」エリカが言う。「アリア・ヴァルストちゃんです」「はじめまして」アリアが緊張しながら挨拶する。「僕はユウキ」一人の男の子が手を上げた。黒髪に明るい笑顔の、人懐っこそうな子だ。「僕は魔法が使えないけど、機械を作るのが得意なんだ」「わたしはリナ」銀髪の可愛らしい女の子が続く。「わたしは風の魔法が使えるの」「僕はケイ」茶色い髪の少年が控えめに言う。「植物と話せるんだ」「私はミア」最後に、赤い髪の活発そうな女の子が立ち上がる。「私は炎の魔法が使えるわ！」様々な能力を持つ子供たち。魔法を使える子も使えない子も、自然に共存している。「アリアちゃんは、どんな魔法が使えるの？」リナが興味津々で尋ねる。「えっと……ひかりの、まほうです」アリアが小さく手をかざすと、美しい光が広がった。「わあ、きれい！」「すごい！」子供たちが歓声を上げる。「それに、ひとを、げんきにする、ちからもあります」光が子供たちを包むと、みんなが笑顔になった。心が温かくなる感覚。「本当だ！　元気になった」ユウキが驚く。「すごい魔法だね」「でも、アリアは、まだちいさいから……」アリアが遠慮がちに言う。「みんなみたいに、じょうずじゃないかも」「大丈夫だよ」ケイが優しく言う。「僕たちも、まだまだ勉強中だもん」こうして、アリアの新しい学校生活が始まった。最初の授業は、基礎魔法学だった。「それでは、魔法の基本原理について学びましょう」担当のミカエラ先生が説明する。魔女で、魔法理論の専門家だった。「魔法とは、自分の内なる力を

統合教育実験校に入学して一週間が過ぎた。アリアは毎朝、登校するのが楽しみで仕方なかった。「おはよう、アリアちゃん!」校門でユウキが待っていてくれる。最近は毎朝こうして一緒に登校するのが日課になっていた。「おはよう、ユウキくん」アリアが嬉しそうに駆け寄ると、ユウキが何か小さな箱を取り出した。「これ、見て。昨日の夜、作ったんだ」箱を開けると、小さな機械仕掛けの鳥が入っていた。ゼンマイを巻くと、羽を動かして可愛らしく鳴く。「わあ、かわいい!」「アリアちゃんにプレゼント。魔法で作った花のお返しだよ」先日、アリアがユウキの机に光の魔法で作った小さな花を置いていったのだ。それがとても嬉しかったらしい。「ありがとう。たいせつにする」アリアが機械鳥を大事そうに抱きしめると、ユウキが照れくさそうに頭を掻いた。教室に入ると、リナとミアが何やら話し込んでいた。「おはよう、ふたりとも」「あ、アリアちゃん! ちょうどいいところに」リナが目を輝かせる。「今日の実技の時間、一緒に新しいことに挑戦してみない?」「あたらしいこと?」「魔法の合体技よ!」ミアが興奮気味に説明する。「私の炎とリナちゃんの風、それにアリアちゃんの光を組み合わせたら、すごいことになるんじゃないかって」「やってみたい!」アリアが即座に答えると、三人は嬉しそうに顔を見合わせた。最初の授業は、ミカエラ先生の魔法理論だった。「今日は、魔法の共鳴について学びます」ミカエラ先生が黒板に複雑な図を描く。「複数の魔法使いが力を合わせると、単独の時よりも強力な効果を生み出せます。これを『魔法の共鳴』と呼びます」アリアは真剣にノートを取った。字はまだ少し歪んでいるが、一生懸命に先生の言葉を書き留めている。「でも、注意が必要です」ミカエラ先生が厳しい顔になる。「相性の悪い魔法を組み合わせると、暴走する危険があります。だから、必ず大人の監督の下で試すこと」「はーい」子供たちが元気よく答える。昼休み、子供たちは校庭に集まった。「アリアちゃん、一緒にお弁当食べよう」ケイが声をかけてくれる。彼はいつも物静かで優しい少年だ。「うん」五人で輪になって座り、お弁当を広げる。「わあ、アリアちゃんのお弁当、きれい」リナが感心する。リリスが丁寧に作ったお弁当は、彩り豊かで美味しそうだっ

週末が明けた月曜日、アリアの特別授業が始まることになった。「きんちょうする……」アリアが朝食を食べながら呟く。「大丈夫よ」リリスが娘を励ます。「エリカ先生が、とても優秀な先生を見つけてくれたそうよ」「どんなひと？」「それは、会ってからのお楽しみ」学校に着くと、エリカ校長が特別な教室に案内してくれた。「ここが、個別指導の教室です」扉を開けると、そこには見たことのない女性が立っていた。長い銀色の髪、深い青色の瞳。上品な黒いローブを纏い、手には古い杖を持っている。「初めまして、アリア・ヴァルスト」女性が優雅にお辞儀する。「私はセラ・アンドリーネ。今日からあなたの魔法指導を担当します」「はじめまして……」アリアが緊張しながら挨拶する。「セラ先生は、魔法学の専門家で、特に魔力制御の分野では第一人者なの」エリカ校長が説明する。「リリスさんの古い知り合いでもあるのよ」「ママの？」アリアが驚く。「ええ。リリスとは、長い付き合いなの」セラが柔らかく微笑む。「彼女から、あなたのことはたくさん聞いていたわ」エリカ校長が退室すると、二人きりになった。「さて、まずは自己紹介から始めましょうか」セラが椅子に座るよう促す。「私のことは、セラ先生と呼んでくれればいいわ」「はい、セラせんせい」「良い子ね。では、あなたのことを教えて」「えっと……アリアは、五歳で……」「年齢じゃないの」セラが優しく遮る。「あなたが、何を感じているか。魔法を使う時、どんな気持ちになるか」アリアは少し考えてから答えた。

学園祭まで、あと二週間。練習は順調に進んでいるように見えた。しかし、小さな問題が少しずつ積み重なっていた。「また失敗しちゃった……」ミアが落ち込んでいる。炎の制御がうまくいかず、三回目の失敗だった。「大丈夫だよ」リナが励ます。「まだ時間はあるから」「でも、本番まで二週間しかないのに」ミアの声に焦りが滲む。「私のせいで、みんなに迷惑かけてる」「そんなことないよ」ケイが優しく言う。「僕の植物だって、まだ完璧じゃないし」しかし、ミアの表情は晴れなかった。その日の午後、さらなる問題が起きた。「ユウキくん、機械が動かないよ」リナが呼びかける。「おかしいな……昨日まで動いてたのに」ユウキが必死に機械を調べている。「どこか壊れたのかな」「時間がないのに……」ミアがイライラした様子で言う。「ユウキくん、ちゃんと確認してた？」「してたよ！」ユウキが珍しく強い口調で答える。「でも、機械だって完璧じゃないんだ」空気が重くなった。「ごめん……」ミアが謝る。「私、イライラしてて」「僕も悪かった」ユウキも頭を下げる。その様子を見ていたアリアは、胸が苦しくなった。みんな、疲れている。プレッシャーを感じている。楽しかったはずの準備が、いつの間にか重荷になっていた。翌日、さらに深刻な問題が起きた。「リナちゃん、風が強すぎる」ミアが文句を言う。「私の炎が消えちゃうよ」「だって、ミアちゃんの炎が強すぎるから、バランス取ろう

統合教育実験校、初めての学園祭当日。朝から校舎は活気に満ちていた。各クラスの出し物の準備が進み、保護者や来賓が続々と集まってくる。「すごい人……」アリアが会場を見回す。体育館は満席で、立ち見の人もいる。「アリアちゃんのスピーチで有名になったから、取材の人も来てるんだって」リナが教えてくれる。「きんちょうする……」「大丈夫」ユウキが励ます。「僕たちは、もう準備万端だ」舞台裏では、最終チェックが行われていた。「植物の配置、完璧」ケイが確認する。「機械も問題なし」ユウキが頷く。「炎の火力も調整済み」ミアが自信を見せる。「風の魔法も準備OK」リナが親指を立てる。「アリアは？」みんながアリアを見る。「だいじょうぶ」アリアが深呼吸する。「アリアも、じゅんびできた」その時、エリカ校長が舞台裏にやってきた。「みんな、準備はいい？」「はい！」五人が元気よく答える。「素晴らしいわ」エリカ校長が微笑む。「では、あなたたちの番まであと十分。リラックスしていてね」校長が去った後、五人は円陣を組んだ。「最後に、もう一度確認しよう」ユウキが言う。「僕たちの目的は？」「みんなを、しあわせにすること」アリアが答える。「そう。完璧な演技じゃなくて、心を込めること」リナが続ける。「楽しむこと」ミアが笑う。「そして、虹を作ること」ケイが締めくくる。