All Chapters of ~スーパー・ラバット~ムーン・ラット・キッスはあなたに夢中: Chapter 121 - Chapter 130

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~第二十一話④~ 悪の計画は進む

 旧校舎の三階の奥にあるトイレ。放課後の部活動以外は、付近に生徒の姿はない。  だが今日の昼休憩の時間は違っていた。男子トイレで異様な光景が展開されていた。  トランクス一枚の姿にされ、全身に水をかけられた男子生徒が床にひざまずいていた。両手で顔を覆って泣いている。一年特進コース、備品管理委員の池戸だった。  周囲には、村雨龍を中心に、宇野、松下、鈴木ら六人の男子生徒がいた。  そしてトイレの出入口の前には、生徒会長の村雨春樹。胸のところで腕を組み、冷ややかな目を池戸に向けている。   「キモイんだよ、テメー」 宇野が思いっきり池戸を足蹴にする。池戸が床に転がって大声で泣き崩れた。松下がトイレのモップを池戸の顔面に押しつける。「すぐ言うこと聞いてりゃ、こんなことにならなかったんだ」 「いいか。チクったらテメーのブタ以下の姿を拡散してやっからな。分かったか」 龍が池戸の前に立つと、おごそかに告げる。「いいな。個人ロッカーのマスターキーを持ってくるんだ。お前、それしか道ないんだ」 龍はすぐに春樹のもとへと駆け寄る。「これでいいの?」 「痴漢を目撃したと言っただけでは警察が動くか分からないだろう。朝井のロッカーに女子のブルマが隠してあったら、もう言い逃れ出来ない」 「さ、さすが兄ちゃん」 「それで荒川が自分で書いた文章は手に入ったか?」 「天文部のヤツから『部活動ノート』を取り上げたんだ。荒川がボールペンで書いた文章があちこちにある」 「よーし、これで準備完了だ」
last updateLast Updated : 2025-11-02
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~第二十一部⑤~ 放課後の異変

 朝の騒ぎから三日経ち、特に何もないまま、六時間目が終了。帰りのショートルームまでの時間。一番後ろの窓際の席には悠馬と飛鳥が並んでいる。「今日も一緒にバスで帰るからね」 飛鳥が悠馬に話しかける。「当分、JRに乗らなければ大丈夫だから」 悠馬は困った顔。「遠山さんまでつきあわなくてもいいよ」「私、構わない」「でも……」「そんなことより……」 飛鳥が目を光らせる。「私、『悠くん』と呼んでるでしょう」 確かにそう呼んでいる。それは明日香自身が、勝手にそう呼び始めたのだ。「だったら私のことは『飛鳥』ってよんでね」 悠馬の頬が真っ赤に変わる。「変なこと言わないで。呼び捨てなんか出来ない」「私、そう呼んで欲しい」「やめよう。遠山さんも僕のことは名字で呼べばいいから」「ダメ、これからは『悠くん』『飛鳥』だから」 飛鳥はいつもと違って強引に悠馬に迫る。飛鳥にはアンラッキー、悠馬にはラッキーなことに、ちょうど教室のドアが開いて福島先生が入ってきた。 帰りのショートルームが始まったのだけれど、なぜか福島先生は落ち着かない様子であちこち見回し、何度も連絡を言い間違えたり、同じことを繰り返した。 ショートルームが終わり、生徒たちはさっさと教室から出て行く。悠馬と飛鳥も帰り支度を始める。 福島先生が極度に緊張した様子で近づいてきた。教室には悠馬と飛鳥しか残っていなかった。 正確に云うと、廊下から龍と真宮子、取り巻きの生徒たちが様子を伺っていた。龍がニヤニヤと、無気味な笑いを浮かべている。「ごめんなさい、朝井くん」 福島先生が蚊のように小さな声で呼びかけてきた。「あのね。このまま教室に残ってくれる。ちょっと用事があるの」 悠馬の顔が一瞬で青ざめる。間違いなく、列車で痴漢扱いされた事件のことだ。悠馬の体が大きく左右に揺れる。 飛鳥がすぐに悠馬の体を抱き止めた。 もういつもの飛鳥とは違う。堅い決意を胸に秘め、福島先生に宣言する。「私も悠くんと一緒に残ります」 福島先生が目を白黒させる。どうしたらよいのか分からず、途方に暮れた表情。「あのね。教室に残って欲しいのは朝井くんだけなので……そのね」 飛鳥が悠馬をしっかりと抱き締める。「悠くんをひとりなんかにはしません」 廊下から嘲りの視線が投げかけられる。飛鳥にはよく分かっていた。ひそ
last updateLast Updated : 2025-11-03
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~第二十一話⑥~ 悠馬が大切なことを話すとき

「遠山さん、ありがとう」 悠馬はあふれる涙をぬぐいもせず、飛鳥にお礼を言う。飛鳥ったら、悠馬の涙目が可愛らしく、思わずキスしたい思いに駆られていた。  重ねたい唇を何とか我慢し、悠馬の頭を愛おしそうになでる。「また遠山さんって言った。私は飛鳥」 ふたりとも笑った。ポロポロ涙を流しながら笑った。「悠くん、ペナルティ」 飛鳥が小声で呼びかける。「罰として、私の喜ぶ言葉を言ってね」 悠馬の心をいろいろな思いがグルグルと回っていく。過去、現在、未来……。  婚約までした年上の彩良先生はもう亡くなったと聞いた。うさ子さんは飛鳥という女性が関係しているなんて言ってたけれど、とても信じられなかった。  婚約者だと名乗る不思議な女性、うさ子も気になる。  けれども今、悠馬の心は、目の前に立つクラスメイトにしっかりと向けられていた。  彼女と一緒に強くなりたい。理不尽なことに負けない人生を送ってみたい。  悠馬は深呼吸した。飛鳥に今の思いを伝えようと、そっと口を開けた。  飛鳥が悠馬を見つめる。悠馬が大きくうなずく。  そして突然、校内放送のスピーカーから女性の声。「大変です! 臨時ニュースです。X国が日本に向けて弾道ミサイルを発射しました。すぐに逃げてください」 悠馬と飛鳥は驚いてスピーカーに目を向ける。「話なんかしている場合ではありません。ハグなんかしてる場合ではありません。何してるんです? 早く逃げてください。早く、早く」 悠馬の告白なんかどこかに吹っ飛び、悠馬と飛鳥はその場に立ち尽くしていた。「悠くん、逃げよう」 飛鳥が呼びかける。飛鳥の言葉を待ってたように、またもや校内放送か流れる。「間違いでした。すみません」 悠馬と飛鳥が驚く間もなく、教室に五人の男女が入ってきた。  悠馬の告白は完全にどこかへ吹っ飛んでしまった。何て絶妙なタイミング。まさか今の放送というのは、悠馬に告白させないためのフェイクだったのだろうか?  五人の男女が悠馬と飛鳥を取り囲む。そしてその場で警察手帳が突き付けられたのである。
last updateLast Updated : 2025-11-04
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~第二十一話⑦~ 刑事たちがやってきた

「警部補 高杉日美子」と書かれた手帳を持つ女性。  セミロングの髪型にパッチリとした大きな目。ネイビースーツにミニスカート。ブラウンのストッキング。上半身はスラリとした印象だが、ミニスカートの裾から覗く太腿はマシュマロのように大きく盛り上がっている。  その部分がブラウンのストッキングに包まれると、ストッキングの網目ごしに白く滑らかな太腿の肌が透けて見え、なまめかしくセクシーな雰囲気だった。  最初から最後まで上から目線の態度なのに、時々、自信なさそうな表情を見せた。 「巡査部長 白木文」の名刺を持つ女性。  黒のスーツにミニスカート、ブラックのストッキング。ボブの髪型に、ややつり上がった鋭い目を光らせている。  長く優美な曲線を描いた脚がブラックのストッキングに映え、ひときわ美しさを強調していた。  ふたりの後ろには、グレーのスーツ姿の男性。 手帳には、「警視庁捜査一課特別捜査班主任 警部 松山洋介」と書かれている。  エリートの誇りと威厳に満ちた男性だった。  飛鳥はハッとした。そうだ! 以前にネットのニュースで、この三人を見たことがある。この三人が、警視庁特別機動捜査班の強力なトリオと呼ばれているのだった。
last updateLast Updated : 2025-11-05
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~第二十一話⑧~ 悠馬は犯罪者?

「朝井悠馬くんというのは君ですか?」 警部補の日美子が悠馬に話しかける。厳しい目付きだった。  巡査部長の文が、日美子を押しのけるように、悠馬に優しく声をかけた。「ごめんね。怖がらせて……」 悠馬は礼儀正しく頭を下げた。文は悠馬に微笑みかける。すぐに挨拶を返す真面目な少年が、どうして痴漢なんかするだろうか? 文はハッキリ確信した。  日美子はと云えば、不機嫌に文をにらみつけている。「でもね。正式に被害届が出ていて目撃者の証言もあるんだ。だから私たちにお話を聞かせて欲しいの。これは君のためでもあるからね」 日美子は飛鳥の存在に気がついていた。「ちょっと! あなたは誰?」 飛鳥は悠馬をかばうように前に進み出た。「遠山飛鳥。朝井くんのカノ女です」 まだ正式につき合ってもいないというのに、いきなり飛鳥のフライング。刑事に囲まれ緊張の極限にある悠馬は、飛鳥の言葉を否定することもせず下を向いたまま。  これは間違いなく飛鳥の作戦勝利。「遠山さん、カノ女か何か知りませんが、あなたは席をはずしてください」 日美子が厳しい口調で通告してくる。「イヤです」 「関係ない人間は同席出来ません。教室を出てください」 飛鳥が首を左右に振る。日美子がイライラした表情で、福島先生に話しかける。「先生、何とかしてください。未成年ですから教師の立ち合いは認めます。ですが友人とか関係のない人間は、立ち会うことは出来ません」 日美子はヒステリックに叫んでいた。「私、朝井くんの婚約者です。朝井くんの関係者です」 飛鳥の声が大きくなる。悠馬が思わず顔を上げる。困ったような恥ずかしいような、そして泣き出しそうな複雑な表情を飛鳥や刑事たちに向ける。「あなた、いい加減にしないとね。」 日美子が飛鳥の前に仁王立ちにする。文が横から声をかける。「いいじゃありませんか、警部補殿。仲の良い友人がそばにいれば、捜査も進むかもしれません」 文の言葉に、日美子が冷笑。上から目線を文に向ける。「白木さん、捜査を優先しましょう。思いつきの軽率な言動は控えてください」 日美子の言葉にも、文は動じない。 「私、よく考えて発言しています。表彰状の数を比べてみましょうか?」「あなたね。いい加減なことを言うなら、警察OBの祖父や警察幹部の父、従兄弟たちに言いつけてね……。あなたなんか
last updateLast Updated : 2025-11-06
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~第二十一話⑨~ 悠馬への疑惑が深まる

 文が簡潔に事情を説明してくれた。 予想通りだった。通学の列車の中で、悠馬が春日が丘高校の女子に、胸などを触る痴漢行為を働いた容疑がかけられていた。女子生徒が友人ふたりと共に被害届を提出したのである。 悠馬は真っ青になって下を向いている。床には涙の池が出来ていた。「キモいぞ、クラス委員」「ヘンタイヤロー」「退学だ、退学」 教室の窓が開き、龍や宇野、松下たちが大声で叫ぶ。クラスメイトが一斉に拍手。悠馬の涙が滝になってこぼれ落ちる。嗚咽が漏れた。 警官があわてて窓を閉めた。松山が重々しく口を開く。「君らも聞いたことがあるかもしれない。痴漢などの強制わいせつ罪は、現在重大な岐路に立っている。裁判の結果、証拠不十分で無罪が確定する事例が増えている。判決で、ハッキリと被害者の言動への疑問が指摘された例も少なくない。警察庁では管区を通じて、各警察署に強制わいせつ罪への慎重な捜査を通達するに至った」 松山が一同を見渡す。「とはいえ、痴漢などの強制わいせつ罪が、今も全国のあちこちで起きている事実も存在する。今回は未成年の少年に疑いがかかったこともあり、絶対に捜査に誤りは許されない。そこで僕らの出馬となった訳だ」 文が悠馬に声をかける。「朝井くん、君は全く身に覚えがないんだよね」 だが悠馬は下を向いて泣くばかりだった。文も困った顔をしている。飛鳥が悠馬の前にたちはだかった。「悠くんは痴漢なんか絶対にしません」 日美子が冷ややかに飛鳥に視線を向ける。「それはあくまで、あなたの個人的意見でしょう」 飛鳥も負けてはいない。「悠くんが痴漢をしたというのも、春日が丘の三人の個人的意見じゃありませんか。どうして三人の言うことだけ信じるんですか? 通達に逆らうんですか!」 日美子の顔面が真っ赤にする。何か言いかけたが口を閉じる。ブルブルと肩を震わせる。「三人のことをもっと調べてください」 飛鳥は三人の女子生徒が、春樹のマンションに出入りしていたことを思い出す。「君の言いたいことはよく分かる。だがね、朝井君の行為を目撃したというクラスメイトの証言があるんだ」 松山の説明には、悠馬も飛鳥も驚くばかり。一体、誰があの車両にいたというのだろう。「誰なんですか、目撃者というのは?」 飛鳥が問いただす。「そんなこと言えるわけないでしょう」 日美子が嘲笑う
last updateLast Updated : 2025-11-07
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~第二十一話⑩~ もはや弁解は出来ない

 悠馬は下を向いたままだった。「どうなの? きちんと答えてください」 日美子が厳しく悠馬に詰め寄る。文が眉をひそめた。すぐ悠馬に助け舟を出そうとしたが、その必要はなかった。悠馬が顔を上げたのである。「スペアキーを持っているのは僕だけです。だからスペアキーでロッカーを開けるのは、僕ひとりしか出来ません」 声は小さいがしっかりした口調だった。文がそっと悠馬の方に目を向けると、飛鳥が悠馬の肩にそっと手を置いているのが見えた。文は思わず口元に笑みを浮かべていた。「それではまず朝井君の机の中、それからロッカーを点検させてもらう。朝井君、立ち会ってくれるね」「はい」 松山が教室前方のドアに目を向ける。ドアが開き、三人の鑑識員が入ってきた。「よろしくお願いします」 松山が挨拶する。「遠山さん、あなたは離れてください」 日美子が飛鳥に命令口調で伝える。飛鳥は悠馬から離れた。「そのままドアの方に行ってください」 飛鳥は逆らうことも出来ず、教室後方のドアに向かった。制服警官が声をかけてくる。「あなた、遠山飛鳥さん?」「はい」「さっき一年の生徒だと思うけど手紙を預かりました」 そう言って封書を手渡す。 飛鳥が封筒を開けると、便せんが折り畳んで入っていた。見慣れた文字だった。便箋の一番最後に「荒川京華」と記されていた。確かに荒川先生の自筆だ。飛鳥はそう信じ込んだ。<今、手が離せなくて助けることが出来ません。情勢が不利なら隙を見て逃げてください。以前に天文観測を行った町はずれの空地覚えていますね。私を信じて、まっすぐそこに来てください> 飛鳥はあわてて手紙をしまう。春樹が誰にも見えないようにニヤニヤ薄笑いを浮かべている。 エブリー・スタインの言葉を思い出していた。「ニセの手紙で町はずれの空地におびき寄せるのです。教室から逃げ出したら、誰でも犯人だと思い込む。それが狙いです。そしてあなたたちが先回りをしてふたりを捕まえれば、ますます学校での評価が上がるというものです」 飛鳥はまだ知らない。この手紙が巧妙なニセモノだという事実を……。
last updateLast Updated : 2025-11-08
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~第二十一話⑪~ 春樹たちの計画は完璧?

 春樹は飛鳥が手紙を読んだことを確認し、他人には気づかれないように薄笑いを浮かべた。荒川先生の筆跡を真似たニセ手紙だと全く気がついていない。(エブリー・スタインの言う通りだ。たとえ無実でも、ここから逃げ出せば有罪と自白するようなものだ。町はずれの空地でふたりを捕まえれば、オレたちの名声も上がる) 春樹はエブリー・スタインと相談したときのことを思い出した。 春樹はエブリー・スタインから受け取った計画書を読み終えると、いつもの自信家が不安そうな表情を浮かべた。「荒川の筆跡を真似るのは簡単だけど、あとで荒川がそんな手紙を書いていないと言い出したら、面倒なことになるんじゃありませんか?」 エブリー・スタインはあわてなかった。「私からの計画書をもう一度、見てください」 エブリー・スタインの自信たっぷりの言葉を聞き、春樹は計画書のプリントされたA4の用紙に目を落とした。「えっ?」 いつも冷静な春樹が大声をあげた。 A4の用紙は、いつのまにか白紙に変わっていた。エブリー・スタインが白紙の用紙と化した計画書を自分の手に収める。「まあ、こういうワケです。荒川先生の手紙自体、存在しなくなるのです。彼等は自分の意志で学校から逃げ出した。そういうことになるのです」 エブリー・スタインが金色のボールペンを取り出した。「このペンで手紙を書き、すぐに封筒に入れてしっかり封をしてください。封筒から手紙を取り出せば、約十分後には自然と文字が消えてしまいます。日本で販売されているフリクションシリーズとは違って、直射日光に当てる必要はありません」 春樹はエブリー・スタインに指示された通りに行動し、ついに悠馬や飛鳥を破滅させるところまできた。(もうすぐだ、もうすぐだ) そして教室前の廊下では、龍のカノ女の真宮子が一年の女子生徒を冷たい目で見据えていた。「手紙、おまわりに渡したんだよね」 女子生徒はおびえた表情でうなずく。「じゃあ、サッサと消えてよ。あんたなんかキモイし……」 女子生徒は背中を向けると小走りに去った。 
last updateLast Updated : 2025-11-09
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~第二十一話⑫~ エブリー・スタインは勝利を確信する!

 清水市のはずれ、光頭山のふもとの空地。その空地には、セレネイ王国の戦闘型宇宙船、ムーン・レーカーがそびえている。 ここはムーン・レーカー司令室。三百六十度に広がる巨大な窓からは、周囲の光景がよく見渡せる。そしてここには、ムーン・レーカーの頭脳とも云える銀河系宇宙最新のコンピュータが設置されているのだ。 そしてセレネイ王国が開発した「パール・ハバーズ」と呼ばれるミサイルの発射装置が置かれている。大都市を一瞬のうちに消滅させるすさまじいパワーを持つと云う。 ムーン・レーカーは、セレネイ王国で開発した「ブラインドリバーシステム」という最新の防御装置を作動させているため、ムーン・ラット・キッス女王からは、この宇宙船を見ることも出来ないし、宇宙船内部での会話などの音声もキャッチ出来ない。そうエブリー・スタインは考えていた。 今、エブリー・スタインは、コンピュータの前に立ち、勝利を確信する笑みを浮かべていた。 すぐ後ろにはドメル副官が控えている。だがその表情は沈痛だった。「ムーン・ラット・キッス。あのババア、どこかに隠れてオレたちの様子を伺っているんだろう。だが『ブラインドリバーシステム』が作動している限り、オレたちの宇宙船は見ることが出来ない。そしてオレたちの会話もキャッチできない。オレたちの計画も分からない。お前がご執心の朝井悠馬が空地で追い詰められれば、必ずお前は助けに現れる。そのときこそ、『ムーン・レーカー』の総攻撃が始まるのだ」 悠馬と飛鳥を空地におびき寄せたのは、村雨兄弟に手柄を立てさせるためではなかった。どこにいるのか分からないムーン・ラット・キッスが悠馬を助けに現れたとき、一瞬でその場に倒すためだった。「ドメル」 エブリー・スタインが振り返った。「ババアが現れたら『パール・ハバーズ』を発射する。いつでも発射できるように準備をしておけ」 自分の父親くらいの年齢のドメルに対して、エブリー・スタインは横柄な言葉を投げかけた。「お待ちください。『パール・ハバーズ』はあくまで最終兵器のはずです。核兵器よりも環境や生物体系への影響が大きいことをご存知でしょう。地球の核兵器を理由に地球総攻撃を主張しているのに、それでは全く筋が通りません」 すぐにドメルが反論する。血を吐くような必死の叫びだった。「年齢をとると、何でも
last updateLast Updated : 2025-11-10
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~第二十一話⑬~ 悠馬にはもう明日は来ない

 教室の後ろにズラリと並ぶ生徒たちのロッカー。マスターキーが差し込まれる。悠馬のロッカーの扉が開かれる。  ロッカーに押し込められていた何かが、教室の床に散乱する。廊下に面した教室の窓が一斉に開けられる。まるで何が起きるのか、あらかじめ分かっていたかのようである。  女子生徒たちの悲鳴。「オオーッ」 松山が驚きの叫びをあげる。思わず一歩前に進み出る。「寄らないでください。まず鑑識で調べます」 鑑識員が思わず大声で叫ぶ。「失礼なことを言うな! 僕は近寄ってなんかいない」 松山の怒号。彼の視線の先には、十枚以上の女子のブルマ。悠馬のロッカーから飛び出してきたのだ。この状況は、どう考えても(考えなくても)悠馬が女子のブルマを盗みだし、自分のロッカーに隠していたということ。  龍を中心にして、男子生徒たちが大声で叫ぶ。「おい、見たか」 「特進のクラス委員は性的犯罪者だぞ」 「テメー、優等生の陰で、こんなことしてたんか?」 「今度、新聞に載るぞ」 「ヘンタイ少年A」 「ヘンタイ、ヘンタイ」 「逮捕だ」 廊下から「ヘンタイ」の大合唱が湧きおこる。  騒ぎを聞きつけて、ほかのクラスの生徒たちも駆けつける。警官たちも制止しようがない。  一番、ショックを受けたのは悠馬だった。体が大きく前に揺れる。   「ち、違います。僕は何も知りません。本当に、本当に知らないんです」 飛鳥があわてて悠馬の体を支える。悠馬が両手で顔を覆う。そのまま大声をあげて泣き出した。飛鳥も涙をポロポロ流しながら、しっかりと悠馬を抱きしめる。  悠馬が震える声で飛鳥に呼びかける。「離れて。遠山さんに迷惑かけちゃう。早く遠くへ行って」 飛鳥の涙は滝のように床に流れ落ちた。悠馬を好きになってよかった。それが飛鳥の本心。もう絶対に後悔しない。「遠山さん。早く離れて」 飛鳥は悠馬を前よりもしっかりと抱きしめる。絶対に離れることなんかないと悠馬に語りかけているのだ。  
last updateLast Updated : 2025-11-11
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