All Chapters of わたしを殺した騎士が、記憶を失って“好きだ”と言ってきた。: Chapter 81 - Chapter 90

90 Chapters

北への旅路、試される絆と覚悟

一週間が過ぎた。私たちは出発の準備を整えていた。北の山脈への長い旅路。未知の敵との戦いが待っている。「リア」マーサが執務室に入ってきた。「各地から情報が集まりました」彼女は分厚い報告書を机に置いた。「影の教団について、少しずつ分かってきたことがあります」「教えて」私は身を乗り出した。「組織は思っていたより大規模です」マーサが資料を開いた。「各地に支部があり、少なくとも百人以上のメンバーがいると思われます」百人以上……予想以上の規模ね。「そして」マーサが別のページを指差した。「彼らのリーダーは『暗黒卿』と呼ばれています」「暗黒卿……」不吉な名前。「顔を見た者はいません」トムが続けた。「常に仮面をつけて、正体を隠しているそうです」「まるで、かつての仮面の術者のようね」私は昔の敵を思い出した。「でも、それより強力かもしれません」カイルが険しい顔で言った。「真の支配者の思想を受け継いでいるなら、ただの魔法使いではない」その時、扉がノックされた。「入って」若い伝道師の一人、アレンが入ってきた。「リア先生、装備の準備が整いました」「ありがとう、アレン」私は彼に微笑みかけた。アレンは以前の遺跡での戦いで、勇敢に戦ってくれた。今回も同行を希望している。「でも、アレン」私は真剣な顔で言った。「今回の任務は、さらに危険よ」「分かっています」アレンが力強く頷いた。「でも、愛を守るためなら、どんな危険も厭いません」その目に宿る決意を見て、私は頼もしく思った。新しい世代が育っている。愛の騎士団の未来は明るい。「では、明日の朝、出発しましょう」私は全員を見渡した。「カイル、マーサ、トム、アレン、そして他の四人の伝道師たち」「総勢八人で北へ向かいます」「はい」みんなが同時に答えた。会議が終わって、私は一人で愛の学校の屋上に上がった。夕日が美しく街を照らしている。平和な光景。でも、この平和が脅かされようとしている。「守らなければ」私は拳を握った。「この街を、この国を、そしてすべての愛を」「一人で抱え込むな」背後からカイルの声がした。振り返ると、彼が穏やかな笑顔で立っていた。「心配してくれてありがとう」私は彼に歩み寄った。「でも、大丈夫よ」「本当に大丈夫か?」カイルが
last updateLast Updated : 2025-10-25
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雪山の試練、影が蠢く暗闇の中で

朝日が山脈を赤く染める中、私たちは登山を開始した。雪に覆われた急斜面。冷たい風が容赦なく吹きつける。「足元に気をつけて」カイルが先頭を歩きながら言った。「滑りやすくなっている」私たちは一列になって、慎重に登っていった。重い荷物を背負って、雪の中を進むのは想像以上に過酷だった。「リア先生、大丈夫ですか?」後ろからミアが心配そうに声をかけてきた。「大丈夫よ」私は息を整えながら答えた。「あなたこそ、無理しないで」「はい」でも、ミアの顔色は良くなかった。標高が上がるにつれて、空気が薄くなっている。「少し休憩しましょう」マーサが提案した。「このままでは誰かが倒れます」カイルが頷いて、平らな場所を見つけた。私たちはそこで休憩を取った。「寒い……」アレンが震えながら言った。「防寒着を着ていても、この寒さは厳しい」「魔法で暖を取りましょう」マーサが小さな炎を作り出した。みんながその周りに集まる。「まだ、登り始めたばかりなのに」トムが不安そうに言った。「この先、どうなることやら」「大丈夫」私は励ました。「私たちには愛の力がある」「そうですね」ミアが微笑んだ。「愛があれば、何でも乗り越えられます」休憩を終えて、再び登山を続けた。でも、三時間ほど登ったところで、異変が起きた。「何か……いる」カイルが立ち止まった。剣に手をかけている。「敵?」「分からない」カイルが周囲を警戒した。「でも、確かに何かの気配がする」その時、岩陰から黒い影が飛び出してきた。「うわあ!」アレンが叫んだ。黒いローブを纏った人影。顔は見えないが、敵意が伝わってくる。「影の教団!」私は指輪に手をかけた。「みんな、戦闘態勢!」黒いローブの人影は一人じゃなかった。岩陰から次々と現れる。五人、いや六人。「偵察部隊か」カイルが剣を抜いた。「ここまで追ってきたのか」「あなたたちの行動は、すべて監視されていた」黒いローブの一人が低い声で言った。「愛の騎士団よ」「この先に進むことは許されない」「許されない?」私は強く言い返した。「あなたたちに、私たちを止める権利はないわ」「では、力ずくで止めるまで」黒いローブが手を上げた。「行け」六人が一斉に襲いかかってきた。「みんな、下がって!」カイルが前に
last updateLast Updated : 2025-10-26
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闇の要塞へ、愛が切り開く希望の道

夜が来た。私たちは建物から少し離れた岩陰で野営することにした。「明日の朝、突入します」カイルが作戦を説明した。「正面からと裏口から、二手に分かれる」「正面は私とトム、マーサ」「裏口はリアとアレン、ミア、他の若い伝道師たち」「待って」私は反論した。「私も正面に行くわ」「危険だ」カイルが首を振った。「正面は激戦になる」「だからこそ、私の力が必要でしょう」私は譲らなかった。「指輪の力で、敵を倒せるわ」「でも……」「カイル」私は彼の目を見つめた。「私を信じて」「一緒に戦いたいの」カイルが長い沈黙の後、頷いた。「分かった」「でも、無理はしないでくれ」「約束するわ」作戦が決まった。正面はカイル、私、トム、マーサ。裏口はアレン、ミア、他の四人。「裏口組は、捕らわれている伝道師たちを救出してください」私は若い仲間たちに言った。「戦闘は避けて、逃げることを優先して」「分かりました」アレンが力強く頷いた。「必ず、仲間を助け出します」その夜、私は眠れなかった。明日、何が待っているのか。暗黒卿とは、どんな人物なのか。すべてが不安だった。「リア」カイルが隣に座った。「眠れないのか?」「ええ」私は正直に答えた。「不安で」「俺もだ」カイルが私の手を取った。「でも、君がいるから大
last updateLast Updated : 2025-10-27
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愛と闇の最終決戦、砕け散る仮面の奥に

暗黒卿が両手を上げた瞬間、部屋全体が震えた。窓ガラスが割れる音。床に亀裂が走る。黒い霧が天井から降り注いできた。「みんな、離れて!」カイルが剣を構えた。でも、霧はあっという間に部屋を満たした。視界が奪われる。「カイル!」「ここだ!」彼の声が聞こえた。霧の中、私は必死に彼を探した。「手を!」カイルの手が私の手を掴んだ。温かい。この感触だけが、今の私の頼り。「トム! マーサ!」カイルが叫んだ。「無事か!」「何とか!」トムの声が遠くから聞こえた。「でも、敵が見えません!」霧の中で、何かが蠢いている。黒い影。複数いる。「幻影か」カイルが呟いた。「いや、実体があるぞ」影の一つが、私たちに襲いかかってきた。カイルが剣で斬りつける。ザシュッ!影が一瞬で消えた。でも、また別の影が現れる。「キリがないわ」私は指輪を掲げた。「この霧を晴らさないと」「愛の光よ!」青い光が指輪から放たれた。霧が少しだけ晴れる。でも、すぐにまた満ちてくる。「くっ、足りない……」「リア、無理するな」カイルが私を庇った。「俺が何とかする」彼の剣が光り始めた。あれは……愛の波動?カイルの中に宿った、愛の力が剣に宿っている。「喰らえ!」カイルが剣を振り下ろし
last updateLast Updated : 2025-10-28
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解き放たれた魂、新しい絆の始まり

暗黒卿——いや、彼の本名はアーサーと言った。私たちが山を降りる途中、彼はぽつりぽつりと自分の過去を語り始めた。「俺の妻は、エルミナと言った」アーサーの声が、風に溶けていく。「美しくて、優しい女性だった」「戦争で失ったのですね」マーサが優しく尋ねた。「ああ」アーサーが頷いた。「あの戦争は、愛する者を次々と奪っていった」「俺の妻も、俺の子どもも……すべて」カイルが黙って彼の肩に手を置いた。男同士、言葉はいらない。その沈黙が、すべてを語っていた。「だから、愛を憎んだ」アーサーが続けた。「愛があるから、失う苦しみがある」「ならば、最初から愛など存在しない方がいいと」「でも、それは間違っていたわ」私は彼の前に立った。「愛を失う苦しみは確かにある」「でも、愛があったからこそ、幸せな思い出も残る」アーサーが私を見つめた。「お前は……本当に強いな」「強くないわ」私は首を振った。「ただ、愛を信じているだけ」「信じる……か」アーサーが空を見上げた。青く晴れ渡った空。「エルミナも、同じことを言っていた」「愛を信じて、って」その言葉に、私の胸が熱くなった。エルミナさんも、きっと愛の人だったのね。山を降りきると、そこには影の教団の本拠地から解放された人々が待っていた。アレンたち裏口組が、見事に伝道師たちを救出してくれたのだ。「リア先生!」アレンが駆け寄ってきた。「全員無事に救出できました!」「よくやったわ、アレ
last updateLast Updated : 2025-10-29
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償いの日々、街に芽吹く赦しの花

アーサーたちが愛の学校に来て、一週間が過ぎた。元影の教団のメンバーは、全員で三十人ほど。みんな、真剣に愛の教えを学んでいた。朝から晩まで、熱心に。「愛とは、相手の幸せを願う心」私が教室で教えていると、アーサーが一番前で真剣にメモを取っている。かつての暗黒卿とは思えないほど、素直な生徒だった。「質問があります」一人の元メンバーが手を挙げた。若い男性で、名前はダニエルと言った。「どうぞ」「俺たちは、多くの人を傷つけました」ダニエルの声が震えていた。「そんな俺たちが、愛を語る資格があるんでしょうか」教室が静まり返った。みんな、同じことを考えているのだろう。「資格なんて、ないわ」私は正直に答えた。「でも、それでいいの」「え?」「愛に資格なんていらない」私は教壇を降りて、彼らの間を歩いた。「大切なのは、今この瞬間から愛を実践すること」「過去は変えられない」「でも、未来は作れる」「あなたたちが愛を広めれば」「それが最大の償いになるわ」ダニエルの目から涙が溢れた。他のメンバーたちも、泣いている。「ありがとうございます……」「俺たち、頑張ります……」その日の午後、問題が起きた。元メンバーたちが街に買い物に行った時のこと。「あれは……影の教団の連中だ!」一人の男性が叫んだ。「なぜ、こんな所にいる!」街の人々が集まってきた。怒りの声が飛び交う。「出て行け!」「人殺し!」「俺の息子を返せ
last updateLast Updated : 2025-10-30
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新たな伝道師たち、愛は連鎖する

火事から二週間が過ぎた。元影の教団のメンバーたちは、もう完全に街の一員として受け入れられていた。「おはよう、アーサーさん」朝から市場に行くと、八百屋のおばさんが笑顔で声をかけてくれる。「おはようございます」アーサーが丁寧にお辞儀した。「今日も元気そうね」「おかげさまで」アーサーの笑顔は、もう本物だった。かつての暗黒卿の面影は、どこにもない。「リア先生」振り返ると、ダニエルが駆け寄ってきた。「今日の授業の準備、できました」「ありがとう」私は彼の成長を嬉しく思った。ダニエルは、愛の教えを学ぶのが誰よりも熱心だった。「先生、一つ質問があるんですが」「何かしら?」「愛を伝えるって、どうすればいいんでしょうか」ダニエルが真剣な顔で尋ねた。「言葉だけじゃ、足りない気がするんです」いい質問ね。「行動よ」私は答えた。「愛は、行動で示すもの」「言葉も大切だけれど、行動がもっと大切」「行動……」ダニエルが考え込んだ。「例えば?」「困っている人を助ける」「悲しんでいる人に寄り添う」「孤独な人に友達になる」「小さなことでいいの」「それが積み重なって、大きな愛になる」ダニエルの目が輝いた。「分かりました」「俺、もっと街の人たちのために働きます」「その意気よ」私は彼の肩を叩いた。「あなたたちが変わったことを、行動で証明してね」愛の学校では、元メンバーたちが授業を受けていた。
last updateLast Updated : 2025-10-31
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遠い地からの便り、愛は国境を越えて

アーサーたちが旅立って、三ヶ月が過ぎた。時々届く手紙が、私たちの楽しみだった。「また手紙が来たわ」私はカイルに手紙を見せた。「アーサーからね」「読んでくれ」カイルが作業の手を止めた。私は手紙を開いた。『リア様、カイル様へお元気ですか? 私たちは、西の大陸で元気に活動しています。最初は大変でした。見知らぬ土地で、誰も私たちを知らない。信頼を得るのに、時間がかかりました。でも、諦めませんでした。毎日、街の掃除をして。困っている人を助けて。病人を看病して。少しずつ、少しずつ。人々の心が開いていくのを感じました。そして、一ヶ月前のことです。ある事件がありました。街で大きな地震が起きたのです。多くの家が倒壊して、人々が瓦礫の下に……私たちは必死に救出活動をしました。自分の命も顧みず、瓦礫をどかして。気づけば、三日三晩休まず働いていました。その姿を見た街の人々が、私たちを認めてくれたのです。「あなたたちは、本物だ」「本当に、人のために働いている」涙を流しながら、そう言ってくれました。今では、街の人たちから愛の伝道師として尊敬されています。毎日、多くの人が愛の教えを学びに来てくれます。リア様、私は幸せです。かつて、世界を憎んでいた私が。今は、世界中の人々を愛している。この変化を与えてくれた、あなたに感謝します。愛は、本当に世界を変えるんですね。アーサー』手紙を読み終えて、私の目には涙が浮かんでいた。
last updateLast Updated : 2025-11-01
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永遠の絆、愛が紡ぐ最後の旅

あれから五年が過ぎた。私とカイルは六十代になっていた。体は以前ほど動かない。でも、心は変わらない。愛する人がいる。守るべきものがある。それだけで、毎日が輝いている。「おばあちゃん!」孫のリアが駆け寄ってきた。もう十五歳。立派な少女に成長した。「ねえ、また旅の話を聞かせて」「また?」私は微笑んだ。「何度も話したでしょう」「でも、何度聞いても飽きないの」リアが目を輝かせる。「おばあちゃんとおじいちゃんの冒険」「愛で世界を変えた物語」カイルが私の隣に座った。「じゃあ、今日は特別な話をしようか」「特別な話?」「ああ」カイルが遠くを見つめた。「俺がリアに出会った日の話だ」私の心臓が跳ねた。あの日の話……「聞きたい!」孫のリアが身を乗り出した。カイルが語り始めた。記憶を失っていた自分が、目覚めた時に最初に見たものは、美しい少女の顔だったこと。「君は……誰だ?」と尋ねたこと。そして、その少女――私が涙を流していたこと。「でも、おじいちゃんは、自分が何をしたか覚えてなかったんだよね」孫のリアが言った。「うん」カイルが頷いた。「記憶がなかった」「でも、心は知っていた」「この人を守りたいって」私は彼の手を握った。「私もよ」「憎むべき人だったのに」「なぜか、愛してしまった」孫のリアが目に涙を浮かべている。「素
last updateLast Updated : 2025-11-02
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永遠の愛、そして新たな始まりへ

それから十年が過ぎた。私とカイルは七十代になっていた。海辺の小さな家で、静かに暮らしている。「おじいちゃん、おばあちゃん!」ある日、孫のリアが訪ねてきた。もう二十五歳。立派な愛の伝道師になっていた。「リア!」私は彼女を抱きしめた。「久しぶり」「会いたかった」「私も」リアが微笑んだ。「ずっと会いに来たかったんだけど」「忙しかったの?」「ええ」リアが頷いた。「世界中を回ってたの」「愛を伝えるために」それを聞いて、私は誇らしかった。孫が、私たちの意志を継いでくれている。「どうだった?」カイルが尋ねた。「旅は」「素晴らしかったわ」リアが目を輝かせた。「どこに行っても、おじいちゃんとおばあちゃんの話をしてくれる人がいるの」「『愛の騎士団』の伝説」「『記憶を失った騎士と、殺された王女の物語』」「みんな、憧れてる」私は恥ずかしくなった。「そんな大げさな」「でも、本当よ」リアが真剣な顔で言った。「二人の愛が、世界を変えたの」「今、愛は世界中に広がってる」「戦争はほとんどなくなった」「人々は笑顔で暮らしてる」「それは……」私は言葉に詰まった。「私たちだけの功績じゃないわ」「みんなの力よ」「でも、始まりは二人だった」カイルが言った。「君の勇気が、すべてを変えた」その夜、三人で食卓を囲んだ。
last updateLast Updated : 2025-11-03
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