All Chapters of わたしを殺した騎士が、記憶を失って“好きだ”と言ってきた。: Chapter 41 - Chapter 49

49 Chapters

憎しみに支配された王女と愛の対峙

王宮の地下から続く石段を上がっていくと、だんだん声が大きくなってきた。冷たくて、怒りに満ちた女性の声。オリヴィア王女の声。「愛などこの世に不要だ」その言葉が、石の廊下に響いている。「愛は人を弱くする」「愛は人を苦しめる」「愛は……偽りだ」私の胸が痛んだ。なんて悲しい言葉。きっと、心の奥では愛を求めているのに。「リア」カイルが私の手を握ってくれた。「大丈夫か?」「ええ」私は頷いた。「でも、あんなに愛を憎んでいる人を、本当に癒やせるのかしら」「癒やせる」エリザベス姉が確信を込めて言った。「オリヴィアは、元は愛に満ちた子だった」「きっと、心の奥では愛を求めている」セラフィナも同意した。「愛を憎むのは、愛に傷ついたから」そうね。愛を知らない人は、愛を憎めない。愛の素晴らしさを知っているからこそ、それを失った時の絶望も深い。私たちは王座の間への扉に着いた。重厚な扉の向こうから、オリヴィア王女の声が聞こえてくる。「愛を禁ずる法を作れ」「愛を口にした者は処罰せよ」「この国から、愛を根絶するのだ」根絶……なんて恐ろしい言葉。でも、その声に滲む悲しみを、私は感じ取った。「入りましょう」私は扉に手をかけた。「愛を取り戻しに」扉を開くと、王座の間が見えた。豪華な装飾が施された広い部屋。でも、なぜか暗くて冷たい印象。王座には、一人の女性が座っていた。オリヴィア王女。エリザベス姉によく似た美しい顔立ち。でも、その瞳は氷のように冷たい。愛を失った人の瞳。「誰だ」オリヴィア王女が私たちを見た。「エリザベス……まさか」「オリヴィア」エリザベス姉が前に出た。「久しぶりね」「なぜここに」オリヴィア王女の声が震えた。「お前は愛に溺れて、国を捨てた女だろう」「捨ててなんかいない」エリザベス姉が首を振った。「愛があるからこそ、国を守りたいの」「嘘を言うな」オリヴィア王女が立ち上がった。「愛は人を盲目にする」「愛は人を弱くする」「愛は……」そこで言葉が詰まった。「愛は、人を傷つける」最後の言葉が、かすれていた。きっと、自分の経験を言っているのね。愛する人を失った痛みを。「オリヴィア」私が前に出た。「あなたも愛を知っていたのね」「誰だ、お前は」オリヴィア王女が私を睨んだ。
last updateLast Updated : 2025-09-10
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大導師ザイヴァス

オリヴィア王女が愛を取り戻してから一週間が過ぎた。王都は、以前の活気を取り戻していた。街角では恋人同士が手を繋ぎ、家族が微笑み合っている。愛の禁止令が撤回されて、人々の心にも愛が戻ってきた。「素晴らしい変化ね」私は王宮のバルコニーから街を見下ろしていた。「みんな、幸せそう」「君のおかげだ」カイルが隣に立った。「愛の騎士団のおかげよ」私は彼の手を取った。「みんなで頑張った結果」この一週間、私たちは王宮で愛の騎士団の本格的な活動を始めていた。オリヴィア王女とエリザベス姉の協力で、正式な組織として認められた。「リア様」セラフィナが慌てて駆けてきた。「大変です」「どうしたの?」「街の外に、不審な集団が現れました」不審な集団?「どんな人たち?」「黒いローブを着た魔術師たちが……」私の血の気が引いた。ついに、真の黒幕が動き出したのね。「人数は?」カイルが鋭く尋ねた。「約二十人ほど」「武装は?」「杖と短剣を持っているようです」魔術師集団……組織の本隊が来たのね。「オリヴィア王女に知らせて」私は指示を出した。「街の人たちを避難させましょう」「分かりました」セラフィナが急いで駆けて行った。「リア」カイルが私の肩に手を置いた。「ついに来たな」「ええ」私は頷いた。「でも、今度は準備ができてる」「愛の騎士団がいるからな」「みんなを集めましょう」私たちは急いで愛の騎士団の本部に向かった。王宮の一角に設けられた部屋。そこに、仲間たちが集まっていた。マーサ、トム、ソフィア……今では三十人を超える立派な組織になっている。「皆さん」私が声をかけると、みんなが振り返った。「ついに、真の敵が現れました」「真の敵?」マーサが尋ねた。「組織の本隊です」私は説明した。「魔術師たちが、王都を攻撃しに来ました」みんなの顔が緊張した。でも、恐怖はない。むしろ、決意に満ちている。「戦いましょう」トムが立ち上がった。「愛のために」「でも、相手は魔術師よ」ソフィアが心配した。「私たちに勝ち目があるのかしら」「あります」私は確信を込めて答えた。「愛の力があるから」私は指輪を見せた。石が温かく光っている。「この指輪の力と、みんなの愛があれば必ず勝てます」「そうですね」マーサが微笑ん
last updateLast Updated : 2025-09-11
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愛と憎しみの激突、母の真実

ザイヴァスの杖から、黒い雷が放たれた。空気を引き裂くような轟音と共に、邪悪な魔力が私たちに向かってくる。「みんな、下がって」私は愛の騎士団を守るため、前に出た。指輪の光で、黒い雷を受け止める。光と闇がぶつかり合い、激しい衝撃が走った。「ぐっ……」魔力の反動で、膝をつきそうになる。ザイヴァスの力は、想像以上に強大だった。「リア」カイルが私を支えてくれる。「一人で戦うな」「でも……」「俺たちも戦う」カイルが剣を抜いた。「愛のために」「私たちも」オリヴィア王女とエリザベス姉も前に出た。「妹を守るため」「愛を守るため」愛の騎士団のみんなも、それぞれ武器を手に取った。パン屋のトムは包丁を。学校の先生は鉛筆を。みんな、愛を守るために立ち上がった。「無謀な」ザイヴァスが嘲笑した。「素人が束になっても、我には敵わぬ」「素人じゃありません」私は立ち上がった。「愛の戦士です」「愛の戦士だと?」ザイヴァスの瞳に、かすかな動揺が浮かんだ。「お前の母も、同じことを言っていたな」母?「母のことを知ってるの?」「知っているも何も」ザイヴァスが不敵に笑った。「リリアン王妃を殺したのは、この私だ」やっぱり。母は、ザイヴァスに殺されたのね。「なぜ……なぜ母を?」「邪魔だったからだ」ザイヴァスが冷たく答えた。「あの女は、愛こそが最強の魔術だなど
last updateLast Updated : 2025-09-12
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愛の伝道師として新たな旅立ち

ザイヴァスとの戦いから一ヶ月が過ぎた。王都は、完全に平和を取り戻していた。街角では恋人たちが手を繋ぎ、家族が笑い合っている。愛に満ちた、美しい光景。「みんな、本当に幸せそうね」私は王宮のバルコニーから街を見下ろしていた。「あなたたちのおかげよ」オリヴィア王女が隣に立った。「愛の騎士団の活動が、みんなに希望を与えた」「でも、まだやることがありそうね」私は遠くの山々を見つめた。「他の国にも、愛を憎む人がいるかもしれない」「そうですね」エリザベス姉も合流した。「隣国のガルバニア王国から、不穏な報告が届いています」不穏な報告?「どんな?」「愛を禁止する法律が制定されたとか」また、愛を禁止する法律?「それは……」「ザイヴァスの影響が、他の国にも及んでいるのかもしれません」セラフィナが資料を持ってきた。「調べてみたところ、ガルバニア王国では三週間前から愛に関する法律が厳しくなっています」三週間前……ちょうど、ザイヴァスが活動していた時期ね。「つまり、彼の魔術が他の国にも広がっていたということ?」「可能性があります」カイルが地図を広げた。「ガルバニア王国は、隣国だから影響を受けやすい」「でも、ザイヴァスはもう改心したのよ」私は混乱した。「なぜまだ影響が?」「魔術には、術者が改心しても効果が持続するものがあります」ザイヴァスが部屋に入ってきた。この一ヶ月で、彼は愛の騎士団の重要なメンバーになっていた。「私が過去に行った記憶操作の魔術が、まだ残っているのです」「消せないの?」
last updateLast Updated : 2025-09-13
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ガルバニア王国の愛なき世界

ガルバニア王国に足を踏み入れた瞬間、異様な空気を感じた。街は確かに美しい。石造りの建物が立ち並び、花壇には色とりどりの花が咲いている。でも、人々の表情が暗い。まるで感情を失ったような、虚ろな目をしている。「おかしいわね」私は街を歩きながら呟いた。「みんな、生きてるのに生きてないみたい」「愛を失うと、人はこうなるのか」カイルも眉をひそめていた。「まるで魂が抜けたようだ」私たちを案内してくれている男性……彼の名前はアランといった……も悲しそうに頷いた。「三週間前から、みんなこんな感じなんです」「愛を表現することを禁じられて……」「いえ、禁じられただけじゃなくて……」アランが言いにくそうにした。「愛そのものを、感じられなくなったんです」愛を感じられない?「どういうこと?」「言葉で説明するのは難しいんですが……」アランが頭を抱えた。「家族を見ても、恋人を見ても、何も感じない」「まるで、心に穴が開いたみたいに」これは……記憶操作よりも深刻ね。愛の感情そのものを奪われている。「でも、あなたは愛を感じてるじゃない」私はアランを見つめた。「恋人を救いたいという気持ちも愛よ」「そうなんです」アランが不思議そうに言った。「なぜか、僕だけは愛を感じられるんです」「他の人たちは、みんな……」街の人々を見回した。確かに、誰も笑っていない。手を繋いでいる恋人もいない。親子でさえ、よそよそしい距離を保っている。「恐ろしい状況ね」マーサが震え声で言った。「愛のない世界なんて……」「でも、必ず治せます」ザイヴァスが確信を込めて言った。「この魔術は、私が作ったものだから」「本当に?」「はい」ザイヴァスが重い口調で答えた。「『愛情感受阻害術』……愛を感じる能力を一時的に封じる魔術です」「なぜ、そんな恐ろしい魔術を?」ソフィアが憤った。「愛は人間にとって最も大切なものなのに」「当時の私は……」ザイヴァスが自分を責めるように言った。「愛こそが苦しみの元凶だと思っていました」「だから、愛を感じなければ苦しまないと……」愚かな考えね。愛がなければ、確かに愛の苦しみはない。でも、愛の喜びもない。人間らしさそのものを失ってしまう。「その魔術を解く方法は?」私は尋ねた。「術者である私が、直接解呪すれ
last updateLast Updated : 2025-09-14
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王宮潜入と失われた愛の記憶

夜の帳が降りた王宮は、昼間よりもさらに不気味だった。月明かりに照らされた白い石壁が、まるで墓石のように冷たく見える。「ここが裏門です」アランが小声で私たちを案内した。「侍女たちが使う通用口」確かに、正面門よりもずっと小さくて目立たない扉があった。「警備は?」カイルが周囲を警戒しながら尋ねた。「夜は一人だけです」アランが答えた。「でも、その衛兵も……」「愛を失っているのね」私は頷いた。「でも、きっと心の奥では覚えているはず」私たちは静かに裏門に近づいた。予想通り、一人の衛兵が立っていた。でも、その表情は虚ろで、まるで生きた人形のよう。「どうやって通り抜けましょう?」マーサが困った顔をした。「力づくは避けたいですが……」「私に任せて」私は指輪に手をかけた。「愛の力で」指輪が静かに光り始めた。でも、今度は強い光ではなく、優しく温かな光。その光が衛兵を包み込む。「……なんだ……この感じは……」衛兵がぼんやりと呟いた。「温かくて……懐かしい……」「思い出して」私は優しく語りかけた。「あなたが愛した人のことを」「愛した人……」衛兵の目に、かすかな涙が浮かんだ。「そうだ……俺には……娘がいる……」「可愛い娘が……」愛の記憶が蘇っている。「その娘さんを思い浮かべて」「きっと、あなたの帰りを待ってるはず」「娘……マリア……」衛兵が娘の名前を呟いた。その瞬間、彼の表
last updateLast Updated : 2025-09-15
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氷の王と愛の奇跡

王の私室に足を踏み入れた瞬間、空気が凍りつくような寒さを感じた。部屋は豪華な装飾に満ちているのに、まるで氷の洞窟のよう。そして、部屋の奥の玉座に一人の男性が座っていた。ガルバニア王国の新王様。年齢は三十代前半。端正な顔立ちだけれど、その表情は氷のように冷たい。瞳には一切の感情がない。完全に愛を失った人の目。「誰だ」王様が機械的な声で言った。「許可なく王室に入るとは」「私たちは愛の騎士団です」私は一歩前に出た。「あなたにお話があって参りました」「愛の騎士団?」王様が眉をひそめた。「愛などという不健全な言葉を使うな」やはり、完全に愛を否定している。でも、不思議なことに威圧感がない。怒りも憎しみも感じられない。ただ、空虚なだけ。「愛は不健全なものではありません」私は優しく言った。「最も美しく、大切なもの」「愛は苦しみの元凶だ」王様が立ち上がった。「愛があるから、人は傷つく」「愛がなければ、平和になる」その言葉に、深い悲しみを感じた。この人も、愛で傷ついた経験があるのね。「でも、愛がなければ喜びもありません」私は続けた。「愛があるから、人は幸せになれるんです」「幸せなど幻想だ」王様が玉座の横にある杖を手に取った。それは……魔術師の杖?「この杖で、愛の苦しみから人々を解放した」やはり、この杖が術式の中核ね。「解放したのではありません」私は強く言った。「人間らしさを奪ったんです
last updateLast Updated : 2025-09-16
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世界に広がる愛の輪と新たな脅威

ガルバニア王国での成功から一週間が過ぎた。私たちは王都に戻る途中、各地で素晴らしい光景を目にしていた。街道沿いの村々で、人々が愛を語り合っている。恋人たちが手を繋ぎ、家族が微笑み合っている。愛の輪が、確実に広がっていた。「すごいわね」私は馬車の窓から外を眺めていた。「ガルバニア王国の話が、もう他の村にまで伝わってる」「愛を取り戻した話は、人々の心に希望を与えるからな」カイルが微笑んだ。「君たちの活動が、世界を変え始めてる」確かに、変化を感じる。人々の表情が明るくなった。愛を語ることを恥じなくなった。素晴らしいことね。「リア様」セラフィナが資料を持ってきた。「各国からの報告が届いています」「どんな?」「愛の騎士団の活動に感銘を受けた人たちが、各地で愛を守る活動を始めているとか」各地で愛を守る活動?「具体的には?」「東のアルヴェリア王国では『愛の祭り』が開催されました」「南のベルガディア共和国では『愛の学校』が設立されたそうです」愛の祭り、愛の学校……素敵な響きね。「私たちが蒔いた種が、あちこちで花を咲かせてるのね」「でも」ザイヴァスが困った顔をした。「気になる報告もあります」「気になる報告?」「西のノルディア帝国から、不穏な動きがあるとか」ノルディア帝国……聞いたことのある名前ね。確か、大きな軍事国家だった気がする。「どんな動き?」「愛の騎士団を『危険な組織』として警戒しているそうです」危険な組織?私たちが?「なぜ危険なの?」「『愛は人を弱くする』『軍事力を削ぐ』と考えているらしいです」なんて偏った考え。愛は人を弱くするどころか、強くするものなのに。「それに」セラフィナが続けた。「ノルディア帝国は、近隣諸国への侵攻を計画しているという噂も」侵攻計画?「つまり、戦争を起こそうとしてるということ?」「可能性があります」「そして、愛の騎士団の活動が、その計画の邪魔になると考えている」これは……深刻な問題ね。愛を広げる活動が、戦争の引き金になってしまうかもしれない。「どうしましょう?」マーサが不安そうに尋ねた。「活動を控えた方がいいのでしょうか」「いえ」私は首を振った。「むしろ、もっと積極的に活動すべきです」「でも、危険では?」「危険だからこそ、愛が必要なの
last updateLast Updated : 2025-09-17
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鋼鉄の帝国と愛を拒む皇帝

ノルディア帝国の国境に到着したのは、朝もやに包まれた時刻だった。目の前に聳える巨大な要塞都市。高い城壁と、無数の監視塔。まるで戦争に備えているような、物々しい雰囲気。「すごい要塞ね」私は城壁を見上げていた。「まるで愛を拒絶してるみたい」「軍事国家らしい光景だな」カイルも緊張していた。「ガルバニア王国とは大違いだ」確かに、ガルバニア王国は美しく開放的だった。でも、ノルディア帝国は閉鎖的で威圧的。愛とは正反対の雰囲気。「でも、きっと中の人たちは優しいはず」私は希望を捨てなかった。「どんな人でも、愛を求める心があるから」国境の検問所に近づくと、重装備の兵士たちが現れた。全身を鎧で覆い、表情は見えない。でも、その威圧感は凄まじい。「止まれ」兵士の一人が冷たい声で言った。「身分を明かせ」「私たちは愛の騎士団です」私は丁寧に答えた。「皇帝陛下にお会いしたくて参りました」「愛の騎士団?」兵士たちがざわめいた。明らかに、私たちのことを知っている。そして、警戒している。「貴様らが、例の危険な組織か」「危険じゃありません」私は首を振った。「私たちは愛を広めているだけです」「愛は帝国にとって有害だ」兵士が剣の柄に手をかけた。「立ち去れ」有害?愛が有害だなんて、なんて悲しい考え。「お話だけでも聞いてください」私は一歩前に出た。「愛の素晴らしさを」「聞く必要はない」
last updateLast Updated : 2025-09-18
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