王宮の地下から続く石段を上がっていくと、だんだん声が大きくなってきた。冷たくて、怒りに満ちた女性の声。オリヴィア王女の声。「愛などこの世に不要だ」その言葉が、石の廊下に響いている。「愛は人を弱くする」「愛は人を苦しめる」「愛は……偽りだ」私の胸が痛んだ。なんて悲しい言葉。きっと、心の奥では愛を求めているのに。「リア」カイルが私の手を握ってくれた。「大丈夫か?」「ええ」私は頷いた。「でも、あんなに愛を憎んでいる人を、本当に癒やせるのかしら」「癒やせる」エリザベス姉が確信を込めて言った。「オリヴィアは、元は愛に満ちた子だった」「きっと、心の奥では愛を求めている」セラフィナも同意した。「愛を憎むのは、愛に傷ついたから」そうね。愛を知らない人は、愛を憎めない。愛の素晴らしさを知っているからこそ、それを失った時の絶望も深い。私たちは王座の間への扉に着いた。重厚な扉の向こうから、オリヴィア王女の声が聞こえてくる。「愛を禁ずる法を作れ」「愛を口にした者は処罰せよ」「この国から、愛を根絶するのだ」根絶……なんて恐ろしい言葉。でも、その声に滲む悲しみを、私は感じ取った。「入りましょう」私は扉に手をかけた。「愛を取り戻しに」扉を開くと、王座の間が見えた。豪華な装飾が施された広い部屋。でも、なぜか暗くて冷たい印象。王座には、一人の女性が座っていた。オリヴィア王女。エリザベス姉によく似た美しい顔立ち。でも、その瞳は氷のように冷たい。愛を失った人の瞳。「誰だ」オリヴィア王女が私たちを見た。「エリザベス……まさか」「オリヴィア」エリザベス姉が前に出た。「久しぶりね」「なぜここに」オリヴィア王女の声が震えた。「お前は愛に溺れて、国を捨てた女だろう」「捨ててなんかいない」エリザベス姉が首を振った。「愛があるからこそ、国を守りたいの」「嘘を言うな」オリヴィア王女が立ち上がった。「愛は人を盲目にする」「愛は人を弱くする」「愛は……」そこで言葉が詰まった。「愛は、人を傷つける」最後の言葉が、かすれていた。きっと、自分の経験を言っているのね。愛する人を失った痛みを。「オリヴィア」私が前に出た。「あなたも愛を知っていたのね」「誰だ、お前は」オリヴィア王女が私を睨んだ。
Last Updated : 2025-09-10 Read more