悪役令嬢は星に誓う〜婚約破棄と契約結婚で愛と運命を逆転させる〜 のすべてのチャプター: チャプター 71 - チャプター 80

98 チャプター

第二章:ロジータの掲げる正義

この小説の諸悪の根源、ジャコモが王国兵によって連行されていく。 なんとも不思議な気持ちだった。 リーアが原動力としていた理由が、今ここで消えるのだから。 そもそもジャコモが欲のために自分の娘を王太子妃にしようとしなければ、この悲劇は起こらなかった。 しかしまだ『星の刻印』についての真相は未解決のまま———「お父様、どうか罪を償ってください。」一つの家門を破滅させ、ヒロインを奴隷にした罪は重い。 処刑か、運がよければ流刑。 これから調査や裁判が始まるにしろ、すでに罪は明白で、彼は公爵としての地位を失うだろう。 一度も愛してくれなかったこの世界の私の実父。 それでも血のつながりのある父親を断罪したと思うと、胸が痛まないわけではなかった。 ただ……彼には悪いが、スカルラッティ家はこれで終わるわけにはいかなかった。 再び私はマルツィオに向き直って訴えた。 打ち合わせ通りに。「陛下。私からお願いがございます。」唐突な私の発言に周囲がまた騒ぎ始めた。「なんだ?ロジータ、申してみよ。」玉座に座るマルツィオの表情が険しくなる。 そこにタイミングよく、私の継母であるスカルラッティ公爵夫人とその息子、まだ10代の異母弟が現れた。 二人は私の隣に並びマルツィオに丁寧に頭を下げて挨拶をする。 二人と顔を見合わせ、私は会場中に聞こえるように大声を張り上げた。 奥でルイスが静かにそれを見守っている。「私、ロジータ・スカルラッティは今この場でスカルラッティ公爵家の嫡子としての権利、立場を放棄いたします! その代わり、ここにいる異母弟に公爵位を引き継がせてくださいませ!」実はこれもルイスと話し合い、事前に決めていたこと。「もしも異母弟が公爵位を引き継ぐことができ、スカルラッティ家の血筋を残すことをお許し頂けるのでしたら、今後スカルラッティ家の忠誠はルイス様でもエルミニオ様でもなく、国王陛下となるでしょう!」見上げると、鋭い鷹のような目をするマルツィオと目が合った。 相変わらず表情は読めないが、彼にとってこれが上手い話であるのは間違いなかった。 断る理由がない。 だからこそ事前に、マルツィオにもこの話を通しておいたのである。 つまり彼は今、演技をしているに過ぎなかった。 これが断罪劇で準備しておいた全てだ。「そういうことであれば、許そう
last update最終更新日 : 2025-11-11
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第二章:波乱の新婚旅行

ルイスの悲劇的運命を回避するため、私はとある提案を持ちかけた。「ルイス、私と新婚旅行に行きましょう!」原作では、エルミニオの生誕祭の翌日に、ルイスがリーアを監禁するという例のあの事件が起きる。きっかけは、その生誕祭でエルミニオがリーアを王太子妃にするという発表をしたから。それを聞いたルイスがついに壊れてしまったのだ。リーアが自分のものにならないならと……これまで必死に堪えていた歪んだ感情が暴走してしまうのだ。ただ、今のルイスは原作とは違ってだいぶ落ち着いてきているとは思う。けれど用心するに越したことはない。生誕祭は今から5日後。そこで私はこの悲劇を完璧に回避するため、最初からエルミニオの生誕祭に行かなければいいと考えたのだ!「な、なん……なんだと?しん、しんこん、新婚りょこう?俺が、お前と新婚旅行に??」いいと思って提案しただけだったのに。なぜかルイスが過剰反応して顔を真っ赤にして……「ちょっとルイス?これはあくまであなたの悲劇的運命を回避するための策なのよ?」私は真剣なのよ、分かっているの?と迫るとルイスはますます挙動不審になる。詰め寄れば詰め寄るほど彼は慌てふためく。もちろん、こんなに変なルイスでも文句なしに可愛いけれど!「ゴホンッ……分かったよ、ロジータ。俺のためなんだな、ありがとう。そうか、じ、じゃあ、旅行に行くならお前はどこに行きたいんだ?」「え?私が決めていいの?」「もちろんだ。これまで色々と大変だったし……少しくらい羽を伸ばしたってバチは当たらないだろう。」「それじゃあ私、イスラ・アウロラ・フォッリア、別名『暁紅葉の島』に行きたい!ずっと昔から憧れていたの。これからの時期だと、紅葉と夕暮れに染まるビーチがきれいだと聞いたことがあるわ!」「ああ、父上が所有しているあの孤島か。ヴィスコンティの王族だけが行ける別荘地。父上が、亡くなった母上と若い頃にしょっちゅう行っていた場所だと聞いている。」「そうなの?ロマンティックね!」かつて私もエルミニオと結婚し、王族になれば島に行けると思っていた。だからもう一生縁がないものだと。それなのに……!どうやらその願いは、スパダリのルイスが叶えてくれそうだ。「そうだな。お前が行きたいなら父上に許可を取るようにしよう。あそこは別荘を管理するため、王
last update最終更新日 : 2025-11-12
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第二章:波乱の新婚旅行

王家が所有する船で出航すること、約半日——— ついに見えてきた。 真っ青な海に浮かぶ孤島、イスラ・アウロラ・フォッリア。 別名『暁紅葉の島』。「ルイス、着いたわ!暁紅葉の島に!」「おい、船から身を乗り出すと危ないぞ、ロジータ!」「あ、ごめん!つい嬉しくて。」いま私たちが乗っているのは王家が所有する豪華なガレージ船。 その船の手すりから身を乗り出す私を、ルイスが背後から抱きしめる。 ドジして私が落ちると思ったんだろう。 相変わらず逞しい腕に、ダブレットから甘い匂いがふわっと香る。 すっかり保護者のような顔。 けれどルイスのあの独り言……はっきり覚えている。 『俺はお前が隣に寝てるというだけで全然眠れないというのに。 たまには俺を男と意識してくれたって………』って。 ねえ、でも待ってルイス。 私だって、あなたが隣にいると思うと全然眠れなかったのよ? あなたを意識して、馬鹿みたいにドキドキしていたのは私だけじゃなかったの? 船から見た島はすでに、全体的に赤みを帯びていた。 ここまで見事な紅葉は前世でも見たことがない。 まさに記憶に残る絶景!「ロジータ様、着きましたね、お荷物お持ちいたします。」港に着くと、背後に立っていたアメリアが爽やかに言った。 今日は私もバカンス用のドレスを着ていたが、アメリアもいつもの侍女服とは違って、軽装だけれどおしゃれなドレス姿だ。「ルイス様、到着しましたね。 俺たちまで楽しみになってきましたよ〜、ね? ロジータ様。」「ふふ。そうね、マルコ。 これから1週間、あなたたちも仕事は忘れて、ぜひ一緒にバカンスを楽しみましょう!」「いいですね、お任せ下さい♪ 俺が海での特別な楽しみ方をお教えしましょう!」一緒に同行したマルコはいつもの騎士服だったが、顔は旅行が楽しみで仕方がないといった感じだった。 港には、事前に連絡を受けた別荘の使用人たちがずらっと待機していた。 その中から進み出てきた男性。 彼は別荘の最高管理責任者だという。「お待ちしておりました、ルイス殿下、ロジータ妃殿下。ヴィスコンティ王家の別荘で、離宮『ヴィッラ・スキウマローザ』へご案内いたします。」みんな穏やかな顔で私たちを歓迎してくれる。 ここにも私の悪評は届いていそうだけど、最近の評価も聞いているのだろうか?「ルイ
last update最終更新日 : 2025-11-13
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第二章:波乱の新婚旅行

温泉は少し白っぽく濁っていて、これなら見られる心配はない。 だけど、このシチュエーションが駄目なのよね! 掛け湯をしている間も、背中ごしのルイスの存在がとても気になる。 それにさっきからずっと無言だし、何だか居た堪れない。 やはりルイスも意識しているのかしら? あの時言ったみたいに…… 湯気と一緒にいらない汗まで流れてきた。 まんまとマルコの策略に乗って、ちょっとだけ後悔。「ロジータ、こんなことしてても始まらない。 せっかく温泉に来たんだから入ろう。」「そ、そうね。じゃあルイスからどうぞ。」「ああ。分かった。」意識して少し距離を取っているはずなのに、彼が音を立てるたびに緊張してしまう。 シンとした浴場で、ルイスがポチャンと温泉に浸かる気配がした。「ロジータ、この温泉は最高だ。 早くお前も入るといい。」「わ、分かったわ。」断るわけにもいかないので、私も速やかに温水に浸かる。 浴槽は広くて、お陰でルイスとは離れることができた。 だが入ったとたん、さっきまでの緊張は何だったのかというくらい溶けそうになった。 温泉は快適な温度だった上に、しっとりしたお湯が一気に体を包み込む。 久しぶりに感じる心地良さに、ついため息がこぼれる。「気持ちいい。温泉なんていつぶりだろう?」「いつぶりって、ロジータは温泉に浸かった経験があるのか?」少し離れた場所からルイスが尋ねてくる。「ええ、前世の七央だった頃に。 あの頃は温泉が大好きだったわ。」「お前の前世の名前は、『ナナオ』というんだな。 そう言えば、これまであまりお前の前世について聞いたことがなかったな。 その頃のお前は、どんな女性だったのだ?」「うーん、何というか。 ロジータとして生きていた頃とは大違いだったわ。 わりと元気で、趣味は幅広かったわ。 読書にスノボー、観光名所巡りとかも好きだった。 バイトも勉強も頑張ってたわ。 でも……」そこまで言いかけて口をつぐむ。 今、理佐貴の話はしない方がいいだろう。「でも?」「何でもないわ、気にしないで。」「……?そう言えば、お前は前世に恋人がいたと言っていたな。」せっかく人が隠そうとしていたのに、ルイス、タイミングが良すぎでしょ。「あ、ええ、まあね。」「……好きだったのか?彼のことが。」なぜかルイスの声が小声に
last update最終更新日 : 2025-11-14
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第二章:波乱の新婚旅行

駄目……!心臓が爆発しそうよ!お湯に濡れた私たちは、気がつけばガウン一枚で抱き合っていた。ひゅっと一瞬息を呑む。頭が真っ白になり、謝罪の言葉すら引っ込んでしまった。「ふう……ロジータ、お前……っ。」いつもの調子でルイスはため息を吐いた。だがその仕草一つさえ艶かしかった。ルイスの栗色の髪はわずかに湿り、お湯に濡れた体はガウンからやや透けて見えている。まさに今私が手を置いてしまっている胸板も、抱かれている腕もきれいな肌色で、とても立派。普段は着痩せしてるから分からなかったけれど、まさかここまで逞しい体つきだったなんて。かろうじてお湯に浸かっている部分は見えないけれど……。しかも今の私は胸に巻いているいつもの包帯を外しているわけで。谷間付近まで見えてしまう状態に。こんなの恥ずかしすぎるわ!一体どうして毎回こんなハプニングに見舞われるのよ!何もかもが情けないやら恥ずかしいやらで、私はルイスの顔を直視できなくなっていた。「ごめんね!ルイス、本当にごめん!毎回ごめん!」慌ててルイスから離れようとするけど、独特なお湯のせいで面白いくらいにツルツルと滑る。いらないわよ!そんなハプニングも演出も私には必要ないのに!「だからロジータっ、俺の忍耐力を試すなって言っただろ……!」「え?」低い声でルイスに叱られたかと思うと、一瞬でくるっと視界が反転する。またバシャンとお湯が跳ね、頬にかかった。一体何が起きたのか分からず、目を見開くと……ルイスに、浴槽の床に上半身を押し倒されていた。蒸気やお湯で湿った床が背中に当たっている。「え……?」気がつけばルイスの顔が至近距離に。彼の額からつううっと汗が滴っては滑り落ちる。え?今私、ルイスに押し倒されてる?「ロジータ。これに関しては、煽ってきたお前が悪い。」「ル、ルイス……?」両手首を掴まれて上からルイスに覗き込まれてるこの展開には、さすがの私も心臓が止まってしまいそうだった。だが、ルイスが片手をさっと解いた。解放されるのかと思ったら、なんと今度は片手だけで両手首を拘束されてしまうという。解けた片手は、今度は私の首筋に触れた。「ひゃああっ!」思わず変な声がでてしまった!それを見てルイスは微笑し、今度は私の髪を一掴みしてそっとキスを落とした。混乱する私をよそに、彼の目線は胸元に
last update最終更新日 : 2025-11-15
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第二章:波乱の新婚旅行

孤島での晩餐の席。念のため、プライベートだからと他の使用人は全員下がらせている。豪華なシャンデリアが頭上で輝き、食堂にはあらゆる場所にロマンティックなアロマキャンドルや、色とりどりの花が飾られている。窓際からは寄せては返す波の音が響く。各々のテーブルの上には見たこともない海産物や豪華なステーキなどが並んでいる。本来の私なら、大喜びで食べていたはず。「あれ?お二人なんか、おかしいですねえ。もしかして温泉で何かあったんですか?」プライベートだからと同席を許可され、一緒に食事をしているマルコがわざとらしく言う。「マルコ様、あまりお二人を困らせないでください。」同じく同席して食事中のアメリアが、マルコの野暮な詮索を叱りつける。「な、何を言っているんだ、マルコ……!食事中だぞ?ば、馬鹿なこと言ってないで早く食べろ。」「あれあれ〜〜?否定するのがますます怪しいですね、ルイス様。」ふにゃっと緩んだ顔のマルコに、ルイスが完全に振り回されていた。だが、マルコと似たように、私もまた油断すると顔がふにゃっと緩んでしまう。そのせいで、食事がなかなか喉を通らずにいた。頭の中はルイスでいっぱい。さっきのキス……正直嫌じゃなかった!温泉の湯気の中、近づくルイスの色気たっぷりの顔。初めのそよ風のような優しいキス、その後のまるで恋人のような深いキス。恋人繋ぎされる両手。力を入れた時に浮かび上がるルイスの逞しい筋。はだけたガウン、胸元、引き締まったお腹……思い出すたびにふにゃっと溶けてしまいそうで。だから目の前で食事をしているルイスを、直視できずにいた。「そう言えば、この島は夜の海も素敵らしいですよ。ここの浜辺は白発光石と言う石が混じっているそうで、夜でも足元を眩く照らしてくれるんだそうです。浜辺いっぱいそれが続くそうですから、なんとも幻想的なんだとか。昔は陛下たちも好んで散策などをなさっていたそうですよ。ルイス様、ロジータ様、この後ぜひ行かれてみてはいかがですか?」「んんっ……!?」マルコの分かりやすい意図に私は思わずむせてしまう。「大丈夫ですか!?ロジータ様!」「だ、大丈夫よ、アメリア。気にしないで。」純粋なアメリアはすぐに背中を叩いてくれるけれど、咽せながら私はマルコを見上げた。(マルコ〜〜、何で必要以上に私とルイスをくっ
last update最終更新日 : 2025-11-16
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第二章:波乱の新婚旅行

私が七央として覚醒してからずっと理佐貴のことを考えていた。あまりにも彼に雰囲気がよく似たルイスとの間で何度も感情が揺れた。“期待しないほうがいい”。ずっとそう思っていたけれど、期待してしまう自分がいて———。お願い、ルイス名前を言って。お願い、女性の名前を『七央』だと言って。「実は、名前は分からないんだ。思い出せないというか……元々彼女は、俺の夢の中に現れる人だったから。」誤魔化しているような感じでもなく、淡々と話すルイス。とたんに肩から力が抜ける。「そう……。」「ロジータ?」ほら、みなさい。期待するだけ無駄なのよ、この世界にいるのは私以外は小説の中の人々。物語通りに動く人ばかり。私と、巻き込まれたルイスが異質なだけ。あの理佐貴がルイスに転生しているかもなんて、ただの願望に過ぎない。でも、ここで私が気を落としていたって始まらない。せめてルイスの前では明るく笑わないと。「偶然ね。実は私も、前世で似たような記憶があったの。前世の恋人と、こうして砂浜を歩いたことがあるわ。あの時はすごく暑い日だったけれどね。」「夏?それなら同じだが……っ、前世の恋人と?それは、妬けるな。」「ぷっ、何言っているのよ、ルイス。それを言うならあなたもでしょう?長い黒髪の女性とデートしていたイメージが浮かんできていたんでしょう?」「そうだが、俺のはあくまで夢なのか何なのか全く分からない現象であって……!」「怪しいわね。だってルイスは前世の記憶なんかないのでしょ?それなら、もしかしてリーアを好きになる前に、誰かとデートでもしたのでは?ただ忘れているだけで。」「そんなことあるはずないだろう。俺の初恋はリ……いや、あれは物語のせいだったしな。だとすると俺は、初めて誰かに夢中になったということか。」「え!?誰!?もしかしてルイス、リーア以外に好きな人でもでき……」そこまで言っておきながら、食いつくように見つめたルイスの赤面顔を見て気づいてしまった。「ロジータ、お前の鈍さには感心するよ。よく考えてみるんだな。なぜ俺が時々お前を無償に抱きしめたがるのか。なぜ俺が、温泉でお前にキスをしたのか。そして、今もキスしたいと思っているのかを。」キス。確かに温泉でのルイスのキスは情熱的だった。いいえ、思えば結婚式の時も、初夜の時だって。け
last update最終更新日 : 2025-11-17
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第二章:波乱の新婚旅行

どうしてここにエルミニオが———!! 明日から自分の生誕祭で大忙しのはずが、なぜこの男が暁紅葉の島にいるのか。 おそらくルイスも私と同じで開いた口が塞がらないはずだ。 だが彼はさほど動揺しているそぶりもなく、馬上にいるエルミニオに尋ねた。「兄さん、なぜ島に?明日から生誕祭で忙しいはずでは?」「それが今年は特別に、この島で俺の生誕祭をしようということになったんだ。」白発光石に照らされたエルミニオは、漆黒の髪をかき上げ、銀灰色の鋭い瞳で私たちを見つめていた。耐えきれずに私は彼に問いかける。「どういうことです?王太子殿下。 毎年生誕祭は、王宮で派手に行っていたじゃないですか。 それに、陛下に許可を取ったのですか?」生誕祭と言えば、エルミニオはいつも王宮で派手なパーティーを開き、そのたびにリーアをそばに置いて自慢していた。 それなのに今年に限って限定的な島でするなんてあり得ない。「なぜ俺が、王家専用の島に来るのにいちいち父上の許可など取らなければならない? 俺は王太子だぞ。 自分の生誕祭を開く場所など自分で決める。」馬が小さく鳴き声を上げた。 それを宥め、エルミニオは平然と私を睨みつける。 最近嫌な思いばかりさせられているから、はっきり言って顔も見たくなかったのに。 見られているのが癪で、慌てて視線を逸らした。 隣のルイスが私の手をぎゅっと握りしめる。 さっきまでいい雰囲気だったのに! エルミニオのせいで、全て台無し!「兄さん。あくまで島は父上のものです。 それを許可もなく好き勝手上陸したとなれば、軽い罰では済まないと思いますよ。」呆れ果てたようにルイスがため息を吐く。 本当に彼の言う通りだ。 新婚旅行だと言って、私たちはマルツィオにしっかり許可を取ったというのに。 この見事なまでの傲慢さ。 まるで自分がヴィスコンティの王にでもなったかのよう。 続けてエルミニオはふと、鼻で笑った。「とにかく、俺たちはしばらくこの島に滞在する。 偶然にもお前とロジータもいたことだし…… ふたりとも明日の生誕祭に参加するんだ、いいな?」わざとらしくエルミニオが口角を上げる。 俺たち……?しかもそんな馬鹿な話がある? 何のために私たちがこの孤島に来たのか! どう考えても、このタイミングでエルミニオが島に来るのはおかしい!
last update最終更新日 : 2025-11-18
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第二章:エルミニオの奇妙な執着

幸せな雰囲気がエルミニオによって一瞬にして壊されてしまった。 それでもルイスは構わず、私の手を強く握りしめた。「兄さんたちには驚かされてばかりだが…… それでも関係ない。 ロジータ、俺は本気だ。 好きだよ。 だからどうか、原作の力に怯えて俺の前から消えないでほしい。 俺はお前以外に新しく誰かを好きになる気はないし、妃を迎える気はさらさらない。 お前が怖がらなくてもいいように、絶対に守るから。 兄さんからも、どんな危険からも。」「あ、ありがとう……ルイス。 そんな風に言ってくれて。」顔から湯気が出そうなくらい熱い。ルイスの顔が見れない。 あれほど絆されては駄目だと誓ったのに。 この最悪小説から抜け出すにはヴィスコンティから少しでも遠くに離れることだと。 お互いの目的が果たされたら、気持ちよく離婚しようと。 離婚したら、ルイスには素敵な女性と再婚してもらおうと思っていたのに。 どうして自分の気持ちに気づいてしまったの? しかもルイスの気持ちも知って…… それが唇が緩むほど嬉しくて、もうどうやったって誤魔化せない。 これでは、いざ別れようと思った時にもう完全に別れられなくなってしまう。 これでいいの?七央。 理佐貴は尊い思い出としてしまっておくつもり? たくさん葛藤はあるけれど、もう気づいてしまった気持ちに嘘はつけない。 例えエルミニオが何か仕掛けてきたとしても、リーアが何か企んでいたとしても。   「私もルイスを守るわ。 エルミニオ様からも、そしてリーアからも。 どんな悲劇的運命が近づこうと、あなたを守るから。 あなたのそばで、できればずっと。」「———!ロジータ、それって?」「さっき言いかけてた言葉。 どうやら、私もあなたが好きみたい。」   驚くほど自分の口から情熱的な言葉が飛び出す。 一瞬ルイスは泣きそうな表情をし、その後すぐに微笑んで、私の額に自身の額をくっつけた。「嬉しいよ、ロジータ。俺たちこれで“本物の夫婦”だな。 ああ。二人で生き残ろう。 そして———俺は絶対にお前を幸せにする。」もう、その言葉だけで心臓が止まりそう。 –−– 宿泊部屋へ戻ると、アメリアが心配そうに駆け寄ってきた。 宮殿に到着したエルミニオたちが騒いでいたらしく、使用人たちからすでに情報を得ていたようだ。
last update最終更新日 : 2025-11-19
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第二章:エルミニオの奇妙な執着

それに積極的すぎて、正直いい意味で戸惑っている。 今はお互いの気持ちを確認し合い、甘い脳内物質が出てしまっている状態だ。 こうして二人でベッドに横たわっていても、普段とはまるで違う。 世界があまりに煌めいてる。 照明に照らされたルイスの横顔も、あまりに美しい。 本来なら厄介なエルミニオや、リーアのことに危機感を抱いてなければならないのに。「止まってくれないと困るわ、ルイス。」「どうして?お互いの気持ちを確認し合ったのに? それともまだ、俺と本物の夫婦になるのが怖いのか?」そっとルイスの手が私の頬に触れる。 鼓動が早まり、その後は早かった。 ぐいっと体を引き寄せられ、逞しいルイスの腕に包み込まれる。 こんなのもう完全に恋に落ちてしまう! 抱きしめられて、感情を狂わせながら私はルイスの胸元で呟いた。「ええ。怖いわ。 完全にルイスに恋して、抜け出せなくなってしまうことが。 恋は盲目と言う通り、またエルミニオ様みたいに執拗に追いかけて困らせてしまうのではないかって…… 最終的にルイスに嫌われたら私、きっと今度こそ生きていけないわ。」自分でも驚く、何を気弱なことを吐いてるのだろうと。 前世の記憶もあって、ルイスの不幸を回避するために今ここにいるのに。 まるで以前の執拗なロジータのよう。 ここまで駆け足で強気できたのに情けない。「執拗に俺を追ってくれるのか? それ、俺からしたら最高のことだな。 だって好きな女が俺を束縛してくれるんだろう? ……ご褒美じゃないか。」「ル、ルイス?ご褒美って……」甘い言葉で完全に落とされた後、顎を持ち上げられ、ルイスに優しくキスされる。 肩がびくっと跳ね上がるけどすぐに力が抜ける。 ルイスの唇が本当に熱い——— 意識も体もぜんぶ溶けそう。「ロジータ、好きだ。 もう他に何もいらないくらい好きだ。 自分でも気づかないうちに、こんなにもお前のことを好きになっていたなんて……」ぎゅううっと、ルイスが私を宝物みたいに強く抱きしめてくる。 逃さないとでもいうように。「わ、私もルイスが好きだけど少し落ち着いて。」「だから……っ、落ち着けないって言ってるだろう。 好きな女を抱きしめてキスしたら、止められないのは当たり前だ。 一晩中、お前を独占したい。」キスが終わってからもルイスの熱い告
last update最終更新日 : 2025-11-20
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