覚醒市を後にして六日後。八人は奇妙な現象に遭遇した。前方から白い霧が迫ってくる。それは普通の霧ではなかった。「何か……変よ」セリアが警戒する。霧が八人に触れた瞬間、異変が起きた。「あ、あれ……言葉が……」ユウリが口を開くが、声が出ない。いや、正確には声は出ている。しかし、意味を持たない音になっている。「ああああ……うううう……」トアが必死に何かを伝えようとするが、言語として機能しない。『これは……』ティオの心の声だけが辛うじて聞こえる。『言葉を奪う霧です』八人は言葉を失った。文字を書こうとしても、意味のない線になってしまう。手話をしようとしても、ジェスチャーの意味が失われる。コミュニケーションの手段が、完全に封じられた。霧の向こうから、人影が現れた。灰色のローブを纏った老婆だった。「ふふふ……また犠牲者が来たわね」老婆が嘲笑う。彼女の言葉だけは、なぜか八人に届く。しかし、八人は何も言い返せない。「私は『沈黙の魔女』サイレンシア」老婆が名乗る。「言葉を奪い、沈黙を強いる者よ」「ああ……ああああ!」ユウリが抗議しようとするが、やはり意味を成さない。「無駄よ」サイレンシアが冷たく笑う。「私の霧に触れた者は、二度と言葉を取り戻せない」『なぜこんなことを!』ティオの心の声が怒りを込める。「なぜ?」サイレンシアの表情が歪む。「言葉が憎いからよ」空間に、彼女の過去が映し出される。若き日のサイレンシアは、美しい詩人だった。しかし、彼女の言葉は誤解され、曲解され、武器として使われた。「私の詩は愛を歌ったのに」若きサイレンシアが泣く。「人々は
Last Updated : 2025-10-12 Read more