本館の最奥から現れた人影は、ゆっくりと光の中を歩いてきた。その姿を見た瞬間、六人全員が息を呑んだ。それは——カイだった。しかし、以前の偽物とは明らかに違う。深い悲しみと絶望を湛えた瞳、やつれた頬、そして全身に刻まれた無数の傷跡。これは確実に、本物のカイ・アグナその人だった。「久しぶりだね、ユウリ」カイの声は昔と同じだったが、その響きには底知れない疲労があった。「カイ……本当に、お前なのか?」ユウリの声が震える。「ああ、間違いなく僕だよ」カイが苦笑いを浮かべる。「死んだはずの、カイ・アグナ」ナイヒルが驚愕する。「まさか……あなたが『黙詩派』の真の創設者だったとは」「そうだよ」カイが頷く。「魔法事故で死んだ後、魔法図書館の最古の黒頁に魂が取り込まれた」「そこで僕は、『死をほどく言葉』を探し続けていたんだ」六人は戦慄した。これまでの敵の背後にいた真の黒幕が、ユウリの親友だったとは。「でも、なぜ黙詩派を……」セリアが困惑する。「最初は違った」カイが遠い目をする。「僕も君たちと同じように、言葉の力を信じていた」空間に映像が浮かび上がる。それは死後のカイが、図書館の奥で研究を続ける姿だった。「『死をほどく言葉』を見つければ、もう一度ユウリと話せると思った」「でも、何年探しても、そんな言葉は見つからなかった」映像の中のカイが、だんだんと絶望に侵されていく。無数の魔導書を読み漁るが、求める答えは見つからない。「そして気づいたんだ」カイの声が冷たくなる。「言葉なんて、結局は人を苦しめるためのものだって」「愛を伝える言葉も、希望を語る言葉も、すべて嘘だった」「本当は、誰もが心の奥で孤独で、言葉では救われない」『それは違います』ティオの心の声が反論する。『言葉は確かに人を救えます』「救える?」カイが嘲笑う。「なら、なぜ僕は救われなかった?」「なぜユウリは、あの時僕に声をかけてくれなかった?」ユウリが絶句する。カイは、あの時の沈黙を覚えていたのだ。「君が一言でも声をかけてくれていれば」カイの瞳に涙が浮かぶ。「僕は、こんなに絶望しなかっただろう」「カイ……すまない……」ユウリが謝罪する。「もう遅いよ」カイが首を振る。「僕はもう、言葉を信じることができない」「だから、すべての言葉を消去
Last Updated : 2025-09-08 Read more