天音が顔を背けると、蓮司は彼女の首筋に強くキスをした。彼特有の爽やかな香りが彼女を包み込む。かつてはその香りが好きだったのに、今は息苦しいほど嫌だった。彼女は必死に身を捩り、彼に触れられないよう抵抗した。天音の抵抗は、蓮司を激怒させた。蓮司は彼女のドレスを乱暴に捲り上げ、スカートの中に手を突っ込みながら、唇を鎖骨から胸元へと滑らせていった。彼の意図を悟った天音は、さらに激しく抵抗した。彼の横暴さに耐えかねて、「蓮司、やめて!」と叫んだ。天音の取り乱した叫び声を聞いて、蓮司は顔を上げた。彼の目は充血し、表情も強張っていたが、天音の目尻からこぼれ落ちる涙を見ると、蓮司の心が揺らいだ。そして、慌てて天音の涙を拭いながら、「お前が悪いわけじゃない」と呟いた。「あいつがお前を誘惑したんだ。お前が愛しているのは俺だけだ。他の男のことなんて、見向きもしないよな?」彼はすべて聞いていたんだ。彼女だって告白されたことがないわけじゃない。だが、いつも軽く受け流して、真剣に考えたことは一度もなかった。しかし、さっきは、戸惑って固まってしまった。蓮司の黒い瞳に浮かぶ深い傷と、今にも壊れてしまいそうなほど脆い様子が、天音の心を揺さぶった。彼もようやく裏切られた痛みを知ることになったのだ。けれど彼女は裏切ってはいない。ただ、他の男から愛を告げられ、賞賛されただけだったがそれすら彼には耐えられなかったのだ。じゃあ、彼がこっそり恵里と会っていた時は、自分の気持ちを考えたことがあるのかしら。天音は蓮司を強く突き飛ばし、涙を隠すように顔を覆い、書斎から飛び出して寝室へ逃げ込んだ。バスルームに入り、服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びた。必死に肌を擦っても、蓮司の触れた跡は消えなかった。それは、骨の髄まで刻まれた烙印のようなものだった。「奥様、ドレスとヘアメイクさんが到着しました。蓮司様より、奥様も渡辺様の婚約式へ出席なさるよう、ご用意をとのことです」天音は動きを止め、生気のない顔でバスタブに横たわり、返事をしなかった。瑞穂はさらに言った。「白樫市で話題の佐伯先生と息子さんも出席されるそうです。蓮司様は、奥様も出席して、きちんと話をつけるようにと」天音は手近にあったボディソープをガラスのドアに叩きつけた。「バンッ」という大きな音
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