蓮司は、要が優しく天音に語りかけ、拗ねる想花を宥めている様子を眺めていた。この光景は、見覚えがあるだけに、胸が締め付けられるように痛かった。かつて、自分と天音も、大智を連れて、こんな風に過ごしたのだ。蓮司は拳を握りしめ、天音の前に歩み寄った。充血した目で、DNA鑑定書を天音の前に突き出した。「想花が、俺の娘じゃないだと?」天音は蓮司を冷たく見つめた。「また何かたくらんでるわけ?今度は想花の髪の毛を盗んだの?」動揺のあまり体が震える蓮司は、天音を抱きしめたい気持ちを抑えながら言った。「山本先生の奥さんがお前の中絶薬をすり替えたんだ。お前は子供を身ごもったまま出て行ったんだ」「私たちの娘は、どうしていなくなったの?あの薬をあなたに飲まされて、大量出血したのよ。それで、その子はどうなると思うの?」天音は、生まれたばかりの想花が、紫斑病で集中治療室に運ばれた時のことを思い出した。あの時、側にいてくれたのは、要だった。天音の怒りと冷たさに満ちた視線を受け、蓮司の胸は張り裂けそうだった。自分が天音を傷つけたことは、分かっていた。だけど……「こいつだ!」蓮司は要を睨みつけ、怒りをぶつけた。「お前が俺の元を去って、流産した直後、こいつはお前を……」天音がどれほどの苦しみを味わったのか、想像もできなかった。そんな状態の天音を、要は妊娠させたのだ。「お前は、あいつに騙されているんだ」蓮司は震える手で天音の手に触れようとしたが、できなかった。「天音、俺を許さなくていい。復縁、考え直してくれないか?もっと良い人がいるはずだ」天音のためなら、蓮司はこれまで許せなかったことも受け入れてきた。彼女のそばに他の男がいるのは我慢できるけど、要のような偽善者だけは絶対にダメだ。いや、一生かかっても、彼女にふさわしい男なんて見つかるはずがない。天音を一番大切にできるのは、自分しかいない。「蓮司、何様のつもりで私の人生に関わってくるの?」天音は、彼の悲しみの表情を見た。「お前のお母さんの遺言だよ。俺が一生、お前の面倒を見るようにって、はっきり書かれていた」蓮司が一歩近づくと、天音は息が詰まるほど苦しくなった。それでも、彼と向き合わなければならなかった。「母は、あなたに騙されたのよ」天音は、十年も見続けて
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