天音は意識が朦朧とするなか、ある部屋で目を覚ました。想花とベビーシッターがいないことに気づいて、緊張しながらあたりを見回すと、菖蒲の冷たい視線が突き刺さった。「うちの娘は?ベビーシッターさんはどこ?」天音は不安げに聞いた。「あの二人には興味ないわ」菖蒲は冷たく言い放った。天音はほっと息をついた。でも、意識を失う直前に車が道路からガードレールに突っ込んだことを思い出した。想花たちは連れ去られてはいないだろうけど、もしかしたら怪我をしているかもしれない。「松田さん、私たちの車にぶつけて、私をこんなところに連れてきて何をするつもり?」天音は聞いた。菖蒲は天音を見つめた。菖蒲の美しい瞳は、怒りの炎で燃え上がっていた。「私が何をすると思う?」天音は驚いて後ずさった。「落ち着いて」「落ち着いてって?」菖蒲は冷たく笑った。「もしあなたが私だったら、愛する婚約者を奪われて、冷静でいられるかしら?」「私と隊長は、もう何の関係もないわ」天音は数歩後ずさり、背中が壁にぶつかった。「まだ私を騙す気?」菖蒲は目を充血させ、ズボンのポケットに手を入れた。「松田さん、落ち着いて」天音の目には、菖蒲が拳銃のようなものを取り出そうとしているのが見えた。突然、部屋のドアが開けられた。大輝の声が聞こえた。「菖蒲、気でも狂ったのか?」大輝は菖蒲の手を掴んで、そのまま部屋の外へ引きずり出した。天音はその隙に窓を開け、自分が山荘の中にいることに気づいた。窓から下を見ると、二階くらいの高さがあった。飛び降りれば、手足を骨折するだろう。大輝のこれまでの行いを思い出し、天音は背筋が凍る思いだった。天音は目を閉じて飛び降りた。すると、後ろから大輝の驚いた声が聞こえた。「やめろ!お前は俺の妹だ!」水しぶきが上がった。天音は裏庭の池に飛び込んだ。水が衝撃を和らげてくれたが、池は浅すぎた。底の硬い石に体をぶつけてしまった。足首を捻挫して、激しい痛みが走った。背後から足音が近づいてくる。天音は痛みをこらえ、池から這い上がり、山荘の奥へと逃げ込んだ。足音はどんどん近づいてくる。大輝が叫び続けているのが聞こえた。「お前は俺の妹だ!出てこい!傷つけたりしない!」天音は、大輝は蓮司に殴られて頭がおかしくなったんじゃないかと思った。自分
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