傷の手当てが終わると、蓮司は大智に言った。「おいで」大智は怖かったけれど、おとなしく蓮司のそばへ歩いていった。そばに寄ると、蓮司は大智を抱きしめた。「ごめんな、大智。パパが怖がらせちゃったな」大智の目から、たちまち大粒の涙があふれ出た。後頭部を蓮司に抱かれ、蓮司の肩に顔をうずめる。我慢できずに彼の首にしがみついて、声をあげて泣きじゃくった。パパにこうして抱きしめてもらうのは、本当に久しぶりだった。蓮司は続けた。「パパに教えてくれないか。ママは、どうやってあの遠藤おじさんとキスをしていたんだ?」……天音は、一睡もせずに新しいシステムの開発に没頭し、翌日はそのまま会社へ向かった。心配した由理恵は、暁に電話をかけた。離婚届を提出まであと二十日、要の就任式も近づいてきた。要は、かつてないほど多忙を極めていた。彼が望むのは、どちらか一方を選ぶことではない。地位も、不知火基地も、誰にも奪わせるつもりはなかった。それは天音に対しても同じで、諦めることなど考えられなかった。地位も、妻も、両方手に入れる。就任の正式発表はまだだが、要専属のチームが既に庁舎に入っている。毎日、数えきれないほどの案件で要の決裁が必要となり、会議は朝から晩まで続いている。それでも、要は時間を作って天音に会い、想花の幼児教室の選びも手伝っていた。天音が口にする言葉の一つ一つを、要は真剣に受け止めていた。暁が由理恵との電話を終えて戻ると、要は基地の上層部とビデオ会議中だった。瑠璃洋周辺諸国の動向を踏まえ、防衛体制の調整を行っていた。要は少し間を置いて、暁の方を見た。暁は要のそばに寄り、声をひそめた。「夏川さんからの電話です。加藤さんが……」要は冷たく言い放った。「分かった、下がっていい」暁は、予想外のことに思いながらも会議室を出た。隊長の広報担当として女性が必要になり、今朝の会議で達也が澪を強く推薦した。反対されると思ったが、まさか隊長はあっさり同意した。澪の能力は申し分ない。なんといっても隊長自らが育てたのだから。しかし、澪が犯した過ちは天音と関係がある。そして今、隊長は天音のことを一切聞きたがらない素振りを見せている。これがいい兆候なのか悪い兆候なのか、暁には判断がつかなかった。暁は、達也や澪よりも長く隊長に
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