「おい、要。俺の話を聞いてるのか?」大地は要の手から書類をひょいと取り上げた。「もう三十分もこれを見てるじゃないか。お前をここまで悩ませるなんて、一体どんな難題なんだ?」大地が書類を見ると、なんとそれは白紙だった。驚いていると、要がふと顔を上げた。その視線を追うと、ドアの前に天音が立っていた。「何だよ!こんなに遅くまで起きてると思ったら、そういうことか。なるほどな……」天音を待ってたわけか。あの何事にも動じないはずの要が、天音の一挙手一投足にこれほどまで心をかき乱されるとは、大地は思いもしなかった。結局、男は綺麗な女には勝てないってことか?大地は眉をひそめる。それにしても、天音はあまりにも無神経すぎるだろ。「おい、うちの要のことをちゃんと旦那だと思ってるのか?子供を連れて元夫に会うなんて大事なことを、要にひと言も相談しないなんてな」大地の厳しい言葉に、天音が顔をこわばらせる。要が不快そうに口を開いた。「出ていけ」大地は大きな伸びをした。「ああ、今夜は俺も十分働いた。たしかにそろそろ休まないとだな」天音の横を通る際に、大地はふと思った。この女、まさか要に何かしたんじゃないのか?今の要は、まるで何かに取り憑かれているみたいだ。大地は病室を出て、ドアをパタリと閉めた。どうやら大地は、要に全てを話してしまったようだ。天音は急に緊張し始めた。「こっちへ来ないのか?」要は白紙の書類を閉じるとテーブルに置き、静かに天音を見つめた。今の天音は白いワンピース姿だった。服を着替えたらしく、石鹸の香りと天音自身の甘い匂いが混じり合ったいい香りが、部屋中にふわりと広がっている。天音が要のそばに歩み寄ると、要はすっと腕を伸ばし、天音を懷に抱き寄せた。天音を自分の膝の上に座らせると、もう片方の手でその小さな顔を持ち上げる。目の縁は赤く、腫れ上がっていたので、泣いたのだと、すぐにわかった。「俺のこと夫だと思ってくれていないのか?」要は冷静に尋ねた。天音が首を横に振る。「夫だと思っているわ」その声は、涙で掠れていた。「じゃあ、なぜ今日のこと俺に言ってくれなかったんだ?」「私一人でなんとかできると思ったから……それに、ほら?みんな無事だったでしょ?蓮司に会う前には、ちゃんと警察にも連絡して
Read more