長年の友人?天音の表情から笑顔がすっと消える。なんとか椿の手に自分の手を差し出した。「初めまして、私は……」要の妻。「存じ上げておりますよ、加藤さん」椿は天音の言葉を遮った。「隊長はよくあなたの話をしていますから」要が、椿に自分の話をしている?そんなに頻繁に?誰に対しても無口なはずの要が?椿が手を離すと、天音の手は力なく体の横に落ち、指先をかすかに丸めた。耳には、割れんばかりの拍手が鳴り響く。天音は呟いた。「どんな話を……」でも、口に出した途端、聞くべきじゃなかったと後悔した。そこへ、暁がこちらへ歩いてくるのが見えたので、天音はそちらに向かった。しかし、背後から椿の声が追いかけてきた。冗談めかした口調で、「隊長を困らせているようですね」と。天音は足を止め、瞳を見開いて椿を振り返った。一方の椿は、少しも態度を崩さず、優雅に天音を見つめている。「奥様、隊長から警察署での事情聴取に同行するよう言われておりますので」暁はそう言うと、天音の背後に視線を移した。「平野先生、隊長の新しいオフィスはまだご覧になっていませんよね?」暁は椿とも顔見知りのようだ。「部下に案内させましょう。隊長もお待ちですよ」「ありがとうございます、小島さん」椿は淡々と応えると、暁が手配した案内の者に従ってその場を去った。椿の後ろには、二つのスーツケースを引く人物が付き従っていた。椿は泊まる場所も決めずに、まっすぐ要に会いに来たようだった。会いたくてたまらなかったのか。それとも、要がすべて手配してくれると分かっていたからか。「奥様、車に乗りましたら、まず聴取内容の確認をしましょう」暁が淡々と予定を告げる。天音は頷き、暁と共に庁舎を後にした。シャンパンゴールドのポルシェの横に立った天音は、ドアハンドルに手をかけたまま動きを止めた。天音の視線は庁舎の、要のオフィスがある階へと向けられた。そこは煌々と明かりが灯っている。要は今夜、とても忙しいはずだ。それでも椿に会うなんて。一体何のために?天音は寂しげな表情で、車のドアを開けた。助手席に乗り込んだ暁が言った。「奥様、安西さんを拉致した件については、話す必要は……」しかし、天音は突然ドアを閉め、庁舎に向かって大股で歩き出した。天音はエレベーターに
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