すると要は人混みをかき分け、ネクタイを外すと、大股で外へと向かって歩き出した。美優は呆然とその場に立ち尽くし、遠ざかっていく一才迷いのない要の後ろ姿を見つめていた。我に返った大地が要を追いかける。続いて暁、そして要の側近たちと言うふうに、誰もが要を追い何とか引き止めようとした。「要、俺はまだ何も言ってないじゃないか」「天音がいなくなったんだろ?子供たちも連れて行った。違うか?俺一人を残して!」大地は呆然としていた。要は回廊に立ち、遥か彼方の群衆を見下ろしている。すると裕也が要の前に立ちはだかった。「要、行ってはならん!行くとしても、就任式が終わってからにしろ!」要は冷ややかに裕也を見つめた。要の感情の読めない目は、普段から人を寄せ付けない冷たさがあったが、今は非情ささえ感じさせた。「すでに知ってたのか?」桜子はすぐに自分のシステムを起動し、天音の足取りを追う。焦りで手汗がすごかった。「隊長、何も見つかりません……天音さんはすべてを隠してしまったようです……飛行機のチケット情報も、電車の乗車記録も……全てありません」要は桜子を一瞥した。しかし、桜子は突然叫んだ。「隊長!空港へ向かう道路で信号機の異常が報告されてます。何者かにハッキングされたようです!」要は裕也に向かって一歩踏み出した。その目は底知れぬほど深く、まるで目に映るすべてのものを飲み込んでしまうブラックホールのようだった。怒りは感じられずに、ただ静かで冷たかった。裕也は一瞬、息子の中に今は亡き父の面影を見たような気がした。かつて一世を風靡した、偉大な官僚であった父の姿を。裕也は思わず一歩後ずさった。「要!行って!」玲奈は夫の体を支え、要に言った。「天音を連れ戻しに行きなさい。こんな役職辞めたっていいんだから」要は振り返り、幕僚たちを見下ろすように目を細めた。声には冷たい嘲笑が滲む。「俺は行ってもいいのか?」二秒ほどの沈黙が流れる。そして、皆の予想通り暁が最初に口を開いた。「隊長、行ってはなりません!あなたは、奥様だけのものじゃない。あなたは、もう『自分一人だけの存在』じゃないんです!あなたは我々全員の期待を背負っているんですよ。それなのに、なぜ行けると仰れるのですか?」「期待?何を期待しているんだ?富?
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