All Chapters of 嘘つきの義妹に婚約者を寝取られ、婚約破棄されましたが、何故か隣国の王子に求婚されています。私の作った薬が必要と言われても: Chapter 11 - Chapter 20

24 Chapters

私は偽物の婚約者を演じます

私達はホテルのロビーでヴィンセントの両親と面会します。「……きたきた。ヴィンセント。だ、誰なんだ!? その女性は」 ヴィンセントの父親。流石にヴィンセントの父親だけあって若くてかっこいい素敵なお父さんだった。「ま、まあ。誰なのヴィンセント。その女性は?」 お母さま――これまた大きい子供がいるとは思えないほど若くて綺麗な麗人であった。 二人とも驚きます。当然です。なぜなら両親には全く話を通していないのです。驚くのも当然の話と言えましょう。「はじめまして。アイリス・ギルバルトです」「彼女は同じ宮廷で働いている薬師のアイリスさんです」「そ、そうですか……私がヴィンセントの父です」「母です……」「そ、それでどういう関係なんだ? これから見合いなのはわかっているだろう? なぜその女性を!?」 当然のようにヴィンセントの両親もただならぬ意味を感じ取っていた。だが一応は口で聞いておかなければおさまりがつかないのだ。「お父様、お母様。彼女は私の婚約者なのです」「「婚約者!?」」 両親は驚いたように口を開ける。「はい。婚約者です」「で、でもどうしていきなり」「あなた私達に何も言っていなかったわよね」 両親は戸惑っていた。「彼女は最近この王宮で薬師として働く事になったのです。私が彼女の専属執事に任命され、その過程でお互いに愛し合うようになり、自然と婚約を結ぶ事になった次第であります」 ヴィンセントはそう説明する。婚約した事以外は真実だった。嘘を作る時は真実の中に僅かな嘘を入れた方が良い。その方がリアリティが出るからだ。「で、でも……どうするんだ!! そんな事知らないから僕たちも見合い相手を用意してしまっていたんだ」「そ、そうよ。何も知らなかったから」「見合いですから。断ればいいだけの事でしょう」 冷静にヴィンセントは告げる。「聞き捨てなりませんわ」 その時であった。凄い美少女がやってきた。ただ目のきつい、強気そうな少女だ。「ヴィンセント様……お初にお目にかかります。私はフランソワーズ家の令嬢。名をローズと申します」 ローズはそう挨拶してきた。「はじめまして。ヴィンセントと申します」「さっきから二人の様子はどことなくおかしいんですの。あなた達、本当の婚約者ですか?」 ぎくっ。という感じになった。核心をつかれたのだ。「ええ。
last updateLast Updated : 2025-07-29
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私の作った薬は高値で取引されているようです

「国王陛下、なんでしょうか?」 私は国王陛下に呼び出されてしまいます。「実はアイリス様の作った薬、国内にも行き渡らない状態なのに、世界中から購入者が殺到していて、今価格が大変高騰しているんだ」「へ、へー。そうなんですか」「命あっての物種というからね。今世界中の富豪が命おしさにアイリス様の薬を購入しようとしているらしい。だからその薬ひとつで家一軒の値段がついているそうだよ」「ま、まあ! そんなに!」「勿論、我々としても規制はしているが、どうしても人の手に渡った後のことは管理しきれない。闇市のようなところに流れ、売りさばかれているらしい。命よりお金を優先する人たちは確実に存在しているからね」「わ、私はどうすれば……やはり私の作っている量が少ないからですよね?」「そういうわけではないよ。これ以上働かなくていい。アイリス様はよくやっている」「ただ我々もそういうことが起きているとあなたに説明したかったのよ。気を負わないで。あなたは今まで通りのペースで仕事をしていればいいのよ」 国王と王妃はそう説明してくれました。私の作った薬が高値で取引されているというのも変な気分です。 ◇ 私はその日お休みを頂き、街に出ようとしました。久々の外出です。その時です。エル王子に呼び止められてしまいます。「どこに行こうとしているんだい?」「それは街にいこうと」「何を言っているんだ? 君は? 一人で行こうとしているのかい?」「え、ええ……何かいけませんか?」「君は自分の価値をわかっていないようだね。貴重な薬を作れる君は当然重宝される。誘拐くらいされるかもしれない」「ま、まあ! そうなんですか!」 薬を作ること以外頭にない私には考えつきもしないことでした。「だから僕も行くよ。何かあったとしても君は僕が守る」 返ってよかったのかもしれません。こうしてエル王子と二人きりで街へ出向くことになったのです。 ◇「アイリス様だ!」「薬師のアイリス様だ!」「それにエル王子も!」 私たちを見て、国民たちが声をあげます。「もしかして私って有名なんですか?」「王国を救う救世主、聖女だって有名になっているよ」「ええっ!? 本当ですか。私が!?」 私は驚きました。「お姉ちゃん!」    その時、私の目の前に子供が現れました。男の子です。「どうしたの? 僕?
last updateLast Updated : 2025-07-29
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執事ヴィンセントの偽の婚約者に!?

私が宮廷で薬師として働くにあたって、専属執事としてヴィンセントさんが付いてくれる事になりました。ヴィンセントさんは背が高くてかっこいい理想の執事さんです。料理から洗濯、お掃除までなんでもできます。まさしく完璧な執事さんです。それでも仕事上の事で、本人曰くプライベートはだらしないと教えてくれました。完璧な人なんていません。そういうところがあった方が親しみを持てます。「はぁ~~……」 そんなヴィンセントさんが手紙を手に取り、溜息を吐いていた。「どうしたんですか? ヴィンセントさん」「アイリス様……」「何か悩み事でもあるんですか?」「いえ。これは私個人のプライベートな問題です。アイリス様に無駄な時間を取らせるわけには」「そんな事言わないでください。ヴィンセントさんには普段お世話になっているんです。私に協力できる事なら何でも言ってください」「実は――」 ヴィンセントは身の上話を語り始めた。元々ヴィンセントもまたそれなりの名家の出自らしく、年齢的にも見合い話を持ち掛けられてるらしいのです。「ええ!! お見合いですか!!」「はい。何度断っても見合いをしろとうるさいのです。私はこの王宮で執事として働きたいにも関わらず、いい加減身を固めろと」「それは大変ですね」「それで両親がこの王国まで来るそうなんです」「ええ!? それは本当ですか!?」「そうなんです。見合い相手を連れてきて。それでもう私には結婚して執事の仕事をやめるようにと、うるさくて聞かないのです。どうにか諦めさせたいものですが……」 そんな時の事です。私の頭の中に名案が浮かんできたのです。「そうです! だったら私とヴィンセントさんが婚約者だって事で両親に説明するんです! そして諦めて貰いましょう!」「アイリス様……で、ですがいいのですか。アイリス様には……」「あっ……」 最後まで言わずともわかりました。ヴィンセントさんはエル王子の事を気にしていたのです。「だ、大丈夫だと思います。ただの振りですから。振り。それでご両親はいつ来るんですか?」「もう今日すぐにでも来るらしいです。見合い相手を連れて」「ええ!! もうそんなすぐに来るんですか!!」「はい。そうなります。ですがいいのですか? アイリス様。お仕事が」「国王様にも王妃様にも働きすぎだから休むように言われています。私もヴ
last updateLast Updated : 2025-07-29
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【義妹SIDE】治療薬を買う為に屋敷を売り払う

「ごほっ……げほっ! ごほっ!」「ごほっ! ごほっ! げほっ!」 ディアンナのマリアは相変わらず床に伏せっているだけであった。容態は日に日に悪くなっていく。このままでは座して命を落とす事になるであろう。「お、お母様! ……私達、このまま死ぬの」「い、嫌よ。嫌な事言わないでよ……私だってまだ死にたくないのよ。げほっ!」「ごほっ! ごほっ! げほっ!」 その病床には父であるレーガンの姿もあった。ついには父も流行り病にかかり、床に伏したのである。「仕方ない……マリア、ディアンナ、聞いてくれ」「お、お父様……どうされたのですか?」「アイリスはもう戻ってこない。私達のために薬を作ってはくれないだろう。王宮に頼み込んでも取り付く島もないんだ。どうしようもない」「……ええ。それでどうするというのですか? あなた。ごほっ、げほっ」 マリアは咳き込む。そして一家は苦渋の決断を強いられる事となる。「こうなったら仕方ない。この屋敷を売り払って治療薬を買おう」「「な、なんですってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!! ごほっ! ごほっ! げほっ!」」 親子は病気である事も忘れるくらい、大声で叫んでいった。そして盛大に咳き込む。「聞いてくれ。今薬は大変高額で取引されているらしい。一個で家一軒程の金額だ。三個分購入するにはこの屋敷を売り払わなければ足りないだろう」「で、ですがお父様!! この屋敷を売り払ってどうやって生活するのですか!? ごほっ! ごほっ!」「そ、そうよ!! 屋敷で生活できなくなるなんて、そんな平民みたいに暮らせというの!! ごほっ! ごほっ!」 二人はせき込む。「このまま死んでは何の意味もないだろう。命あっての物種だ。それに背に腹は代えられない。その後の生活は命が助かってから考えればいいんだろう」「ど、どうしてこんな事に……」 ディアンナは嘆いていた。あの根暗女を追い出してからというもの、不運の連続だった。全てが順調だと思っていたのに、なぜこうまで歯車が狂っていくのか。「あの根暗女――義姉を追い出したからですの……だからってなんでこんな事に。私達は何も悪い事してないのに!! ふざけるんじゃありませんわよ!! ごほっ! ごほっ! げほっ!」 ディアンナは嘆いた。しかし時は既に遅かったのである。 こうし
last updateLast Updated : 2025-07-29
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レオ王子に突然キスをされてしまいます

【第二王子レオ視点】 日の光が差し込んできた。チュンチュンチュン。小鳥のさえずりが聞こえてくる。「うっ……俺は」 レオは目を覚まします。体には包帯が巻かれていた。「俺は……そうだ。あの時軍事演習の時俺は、馬に吹き飛ばされて、それで」 最後に覚えている光景。それは杭に落ちる自分の姿。「すーっ……すーっ……すーっ」 規則正しい寝息が聞こえてきた。ベッドに顔を伏せて眠っていたのは例の彼女であった。「こいつは……あの地味女……俺をずっと看病してくれていたのか」「はい。その通りです。レオ王子」「お前は……ヴィンセント」 レオの前にヴィンセントが姿を現す。「彼女は付きっ切りであなたを看病していたのです。様態が落ち着いたから使用人が代わるといったのですが、様態が急変するかもしれないと一晩中看病を代わりませんでした。その結果、朝には疲れ果てて眠ってしまっていたのです」「俺は……この女に助けられたのか」「ええ。その通りです。ですからどうか命の恩人を『地味女」など呼ばない事です。いくら王子でもバチが当たりますよ。それではしばらく彼女の事はそのまま眠らせてあげてください。王子の看病で余程疲れているようですから」 そういってヴィンセントは去っていく。「俺は……間違っていたのかもしれねぇな。兄貴の事も、この女の事も」「すーっ……すーっ……すーっ」 規則正しい寝息。愛らしく無邪気な寝顔にレオは微笑を浮かべた。「ったく、この地味女、そんな寝方してると風邪ひくぞ」 レオは羽織ものをかける。「って、また『地味女』って言っちまったな。アイリスだったか」 レオは笑った。 ◇「うっ……ううっ……ここは。私、眠っていたのですか」 私はどうやらレオの看病をしていた時に眠むってしまっていたようです。私は目を覚まします。「よっ。おはようアイリス」 レオ王子が私にそう挨拶をしてきます。「レオ王子……体の具合はよくなったんですか?」「ああ。見ての通りだ。ピンピンしてるぜ」 レオは無理に体を動かそうしていました。元気だというアピールがしたいようです。「よかった。ですが無理をしないでください。それだけの重傷だったのですから」「アイリス、ありがとうな。あれだけこっぴどく地味だのなんだの言っていた俺を助けてくれて、本当感謝しているよ」「何を言っているんですか
last updateLast Updated : 2025-07-29
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レオとエルが決闘を始めてしまいます

「はぁ~…………」 あの日から私は頭の中がいっぱいになってついぼーっとするようになってしまいました。あんな事とは当然レオ王子の介抱をしていた時の事です。  まさかレオ王子がそんな事をするとは思ってもみなかった事で大変びっくりとしてしまいました。  それだけではありません。心臓がドキドキとして、聞こえてきてしまう程でした。 その事に気を取られて、調薬の仕事も手が付きません。注意力散漫です。仕事がはかどらないのです。「どうかしたのかい? アイリス」 そんな時でした。私の仕事場にエル王子が来たのです。きっと一晩中介抱をしていた私の事が気になったのでしょう。「エル王子……」「大丈夫かい? どこか調子が悪そうだけど。顔も赤いし。熱でもあるんじゃないか?」「い、いえ……そんな事ないと思いますけど」「見せてごらん」「あっ……」 エル王子は私の額に自分の額を重ねてきました。反則です。エル王子のかっこいい顔がすぐ目の前にあります。唇だってすぐそこに。触れてしまいそうなほど近く。  兄弟そろって私の心拍数を上げすぎです。「やっぱり、熱があるみたいだ」 人の病を治す薬師が風邪をひいては本末転倒です。「ち、違います! 風邪じゃないんです。私の体が熱くなったのは」 仕方ありません。私は大人しくエル王子に事情を話す事にしました。 ◇「なんだって……それは本当か、アイリス」「え、ええ……それで唇を。その上でいきなり求婚されまして。私ドキドキしちゃって」 私はエル王子に事情を説明しました。「くっ……レオのやつめ。アイリスになんてことを」「き、気にしないでください。私の唇なんて別に。減るものじゃないですから。何か酷い事されたわけではないですし」「気になっているのは僕の方だ! レオの奴め」 そういって、エル王子はどこかに向かいました。嫌な予感がします。私はエル王子のあとをつけていく事にしました。 ◇ レオ王子は庭で寝ていました。日向ぼっこをしています。そこに、エル王子が現れます。手には剣を握っています。それも木剣などではなく実際の剣のようです。その剣が二本その手には握られています。「んっ? なんだ? 用か? 兄貴」「細かい話は良い。剣を持て、レオ」「なんだよ、いきなり」「俺と勝負をしたかったんだろ? レオ。お前の望みを叶えてやる」「へっ
last updateLast Updated : 2025-07-29
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レオ王子の治療をします

なんでしょうか。随分と慌ただしいです。使用人達は大慌てです。「どうかしたのでしょうか? 随分と皆焦っているようですね」「何かあったようです。他の使用人に聞いてきましょう」 私はいつも通り部屋で調薬をしていました。それが私のお仕事ですし、この場にいる意味ですから。お城にいる大抵の時間は調薬をして過ごしています。    ヴィンセントは他の使用人に話を聞きに行きました。「どうでしたか? ヴィンセントさん」「た、大変です! アイリス様! レオ王子がっ! レオ王子がっ! なんと――」 普段冷静沈着な印象を受けるヴィンセントが大慌てをしているのです。私は直感的にこれはもうただ事ではない事が起こったのだと理解しました。きっとこれは良くない事が起こったのです。「レオ王子が軍事演習中の事故でお怪我を負われたそうです!」「な、なんですって! レオ王子がお怪我を!」 確かに私は色々と悪口を言われましたが、それでもレオの心が真っ直ぐだからこそ発せられたものなのだと理解しておりました。本心はとても良い子のはずなのです。だからその不幸を喜ぶような卑猥な感情は微塵も抱きませんでした。ただただ私はレオの事が心配になったのです。「は、はい。どうやらその通りです」「どこにいるのですか?」「今、ベッドで横になっているとの事。出血が酷く、止血をしても中々血が止まらないとの事で」「ヴィンセントさん、私もすぐに向かいます!」 私は出来るだけの治療薬を持って、レオの元へ向かうのでした。 ◇「レオ王子! しっかりしてください! レオ王子!」「ううっ……ううっ」 レオを中心に、使用人数名が輪を作っていた。「今、医者を呼んできますから! レオ王子!」 止血をしつつ、使用人達は大慌てをする。あまり意味の無い事だ。朦朧としているレオには言葉は届いていないであろうし、大声がストレスになっている事だろう。 気が動転している使用人達もそこまで気を配る事ができていないのだ。「退いてください!」 治療薬を抱えた私は輪の中に飛び込む。「あ、あなたは薬師のアイリス様!」「皆様、静かにしてください。騒ぐだけで何事も解決するわけではありません」 私が言うと使用人達は沈黙した。 私は状況を観察しました。傷は深い、ですが心臓や肺は避けられているようです。怖いのは感染症でしょうか。
last updateLast Updated : 2025-07-29
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エルとレオが兄弟喧嘩を始めてしまいます

「久しぶりだな、兄貴……元気にしてたか? じゃなくて。元気になったんだな」 エルとレオは再会しました。気になった私とヴィンセントは何となくその様子を覗き見します。「レオか……騎士団との軍事遠征から帰ってきたのか」「まあな。兄貴、俺また一段と強くなったぜ。今度また剣の試合やろうぜ」「今はそれどころではない。国中、いや、世界中が伝染病の猛威に苦しめられている。その為我々王族も何かと雑務に追われてるんだ」「ちっ。なんだよ、つれなーな。俺に負けるのが怖くなったのか? 兄貴」「よく言う。昔から俺に勝てなくて、何度も泣きべそをかいて挑んできたではないか」「う、うるせぇ!! それは小さい時の話だろうが!! 今は違うんだよ!! 今は!!」「どうだかな……」「それよりなんだよ、兄貴。あの地味な女は」「地味な女?」「あのアイリスとかいう薬師だよ。あいつがいると宮廷の空気が重くなるぜ。地味すぎてよ。じみじみとしめってくらぁ」 エルの表情が明らかに険しくなった事を感じる。「貴様!」「んっ」 エルはレオの胸倉をつかんだ。そして拳を固く握った。今すぐにでも殴りかかりそうになる。温和なエルが滅多に見せない、怒りに満ちた表情だ。だがエルは何とか自制し、暴力に訴えるのをとどまっていた。「なんだよ? 兄貴……まさか命を救われたあの地味女に惚れたのか?」「だとしたらなんだ?」 エルは真面目な顔で聞き返す。「ぷっふっふ。マジかよ、兄貴。兄貴ってやっぱ頭よさそうに見えて、実は結構単純なんだな」 笑った後、レオは急に真面目な表情になる。「やめとけよ……周りだってよく思わないだろ。王族が王族以外と結ばれる事は通常ない事だ。俺達にとっては結婚ひとつとっても自由にできないのが当たり前の事だ。それに兄貴とあの地味女じゃ、明らかに釣り合ってないだろ」「き、貴様!! またアイリスを地味だのなんだの!」 我慢の限界だからか、エルは拳を振り下ろそうとした。「や、やめてください!」 覗き見ていた私は思わず姿を現す。そして叫んだ。「喧嘩はやめて、やめてください!」「ちっ……なんだ。いたのか、地味女。じゃねぇ、アイリスだったか」 レオはエルから離れ、私の方に歩み寄ってきた。「あんたもなんか勘違いしてないよな?」「か、勘違いってなんの事ですか?」 レオは私を見下してくる
last updateLast Updated : 2025-07-29
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レオ王子が怪我をしてしまいました

 その日から私達は宮廷での日常を過ごしていきます。私は調薬をする毎日です。そしてエルもまた仕事があります。あの日から私もまた、レオの言葉が気にかかるようになりました。  エルと私ではそもそも身分が異なるのです。今は薬師として重宝されていますが、将来それが続くとも限りません。世の中から病がなくなる事はありませんが、それでも沈静化される事はあると思います。 そうなると私も大事にはされなくなるかもしれません。十分にあり得る可能性でしょう。そうなるとエルと私が結婚する時、王族でもなければ貴族でもない身分ですから。あくまでも結婚とは可能性の話です。王族でも貴族でもない私との結婚を、保守的な貴族が反対するでしょう。  仮に国王と王妃が認めたとしてもです。そうなのです。二人の関係は茨の道なのです。 だから恐らくこのままの距離がいいのでしょう。王子と薬師。それで構いません。エルは素敵な男性だとは思いますが、きっと世の中にはもっとお似合いの女性がいるはずです。  ですから彼が幸せになれるような人と結ばれればよいのではないか。  私はそう考えています。そして、私をかき乱した問題のレオはまたもや騎士団と軍事演習を行っているそうです。お城の近くに演習場があり、そこで騎馬戦を行っているらしいです。安全には気をつけてはいるとの事ですが、戦争の練習をするのです。危険はゼロにはできません。 家でおままごとをしているわけではないのです。何となく私はレオの事を考えながら窓から青空を見あげました。 ◇ レオは考え事をしていた。実の兄エルの事。そしていきなりやってきた薬師アイリスの事。王宮に入ったのは百歩譲って許すとしよう。だが、エルと恋人関係になるような真似は容認しがたかった。 一時的な感情でそういう関係になってもきっと後悔するだけだ。なぜなら王族とそれ以外の立場の人間では身分が異なる。異なった身分の人間との恋は大抵上手くいかない。    天秤の釣り合いだ。片方が軽すぎても重すぎても均衡は保てない。分相応というものがあった。(兄貴……どうしてあんな地味女の事をそこまで)兄であるエルがそこまで執心する理由がわからなかった。どこにでもいそうな地味そうな女だ。確かに顔は整っていて、品はあるがそれでも王族のような派手さはない。あの程度の女、兄は四六時中アクセサリーのように身に
last updateLast Updated : 2025-07-29
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【義妹SIDE】薬を必要とした義妹一家はアイリスを呼び戻そうとします

「うっ……うう。眩暈がしますわ。頭痛が」 ディアンナは病魔に苦しんでいた。「こ、こんなはずではないですわ。なぜ私が! 私が何をしたというのですかっ! こほっ!」 散々アイリスを虐げ、無実の罪を着せた。その上婚約者まで寝取り、さらには追い出しておいて。それでよくもここまで言えたものだという感じだった。  だがディアンナは本気で自分を悪いと思わない、そういう性格をしていたのである。  だからなぜ善良な自分にこうまでの不運が。ディアンナはそう思っていた。「マリア、ディアンナ。聞いておくれ」 父は言う。マリアとは母の名前である。「お前達がかかっている伝染病は世界各国の医者や薬師が苦闘している原因不明の難病らしい」「な、難病……」「ど、どういう事ですの!! 私達もう治らないんですの!! そんな、このまま死を待つしかないんですの!」「ひとつだけ方法があるらしいんだ」「ひ、ひとつだけ!! なんですのそれは教えてください!! 私なんでもしますわ! まだ死にたくないんですの!」「それがなんでもその治療薬の調薬に成功した薬師が一人だけいるらしい」「だ、誰なんですの!! その薬師を連れてきてくださいまし!!」 ベッドで悶えるディアンナは叫ぶ。「実はだな……」 父は悲痛な顔で告げる。「な、なんですの。お父様、もったいぶって、早くおっしゃってくださいまし!」「その薬師は実は私達が追い出したアイリスなんだ!!」「な、なんですってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」 病気で体力が奪われているにも関わらず、ディアンナは叫んだ。余程ショックだったに違いない。「ぜぇ……はぁ……ぜぇ。肺が苦しいのについ大声で叫んでしまいましたわ。な、なぜあの根暗……いえ、間違いました。お義姉さまの名前が」「アイリスは薬師だった母の意志を継ぎ、薬の研究に没頭した。何でも母が亡くなった原因も、原因不明の病気のせいだったらしい。それからあいつは幼い頃から躍起になって、薬の研究をしていた。それでつい最近、その研究に成功したんだ」 父は涙した。やはり血の通った子供は違うらしい。 「あいつはそれだけ大きな仕事をしていたんだ。そんな尊い研究をしているとは知らなかった。それなのに私があの子が毒を作っていたなどという戯言に騙され、ううっ!」「なんですのっ! お
last updateLast Updated : 2025-07-29
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