海人は興味をそそられた。「なぜだ?」「来週にしてくれ」竜也は質問には答えなかった。あの万年筆の件で、彼はまだ貴大に借りがある。その顔を立てなければならない。海人が念を押した。「一真も来るだろうな」「いいだろう」竜也はイヤホンから聞こえる均一で長い寝息に耳を傾けながら、ドアの方を一瞥した。その瞳は底知れぬ闇を湛え、意味深長だった。彼と彼女の間は、今やこの一枚のドアだけが隔てている。海人は彼の言葉に隠された意図を読み取り、ふっと笑った。「一真にお前の下心を見抜かれるのが怖くないのか?」問いかけてから、我ながら余計な質問だと思った。竜也という男が、何かを躊躇したことなどあっただろうか。案の定、竜也は答える気もなさそうに腕時計に目をやると、立ち上がって帰れと促した。「話は終わっただろう。もう帰れ」「……」海人は思わず舌打ちをしたが、動こうとはしない。「今夜、一体何の用があるんだ?」言わないほど、怪しい。竜也は彼を相手にするのも面倒だとばかりに、バスルームへと入っていった。海人はどうにも奇妙に思い、犬の頭をガシッと撫でた。「ユウユウ、こっそりおじさんに教えてくれ。お前の父ちゃんは一体何をしようとしてるんだ?」竜也と自分との間に、いつから秘密なんてものができたのだろうか?しかし、ユウユウは人見知りをするのか、まったく頭を撫でさせず、ぷいと首を振って引っ込めてしまうと、悠々と窓際の犬小屋に寝そべってしまった。「お前、それは……」竜也がシャワーを浴び、着替えを済ませて出てくると、海人はようやく何が奇妙だったのかを悟った。「どうやって、こんなに早くあの子をデートに誘い出せたんだ?」こいつは普段、その整った容姿をいいことに、いつもオーダーメイドのスリーピーススーツを身にまとい、髪型もきっちりとセットしている。それが今日は、珍しくカジュアルな服装で、髪は無造作に見えて計算されており、腕時計までわざわざ付け替えている。三十歳の男が、まるで男子大学生のような格好をしている。どう見ても、あの子の年齢に合わせようとしているのが見え見えだ。竜也は意外そうに彼を一瞥し、眉を上げた。「デートって何だ?」デートではない。しかし、相手は確かに年下の女の子だ。海人はからかった。「じゃあ何だ?親
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