「大丈夫?」綾香が心配そうに尋ねた。「平気だよ」梨花はコップ一杯の牛乳を一気に飲み干し、立ち上がって自室に戻った。本当のところ、どう切り出していいのか分からなかった。もともと車にいた時、竜也がただ自分を屈服させたくて「お兄ちゃん」と呼ばせたいのだと思っていた。だが、夜になってベッドに横たわると、考えれば考えるほど何かがおかしいと感じていた。ある考えが、彼女の心の中で雑草のように、絶えず根を張り、芽吹いていく。でも……彼は「お兄ちゃん」なのだ。梨花も、自分が考えすぎなのかどうか分からなかった。幼い頃から、他の人に代わって竜也に渡したラブレターだけでも、百通とは言わないまでも、数十通はあった。送り主は学園の人気者だったり、名家の令嬢だったり。竜也が望めばどんな相手でも見つかるはずで、表向きは既婚者の自分に興味を持つはずがない。その上、彼はこの前、自分はもう独り身ではないと言っていた。そう思い至った時、梨花はふっと息を吐き、やはり自分が考えすぎていただろうと思い直した。翌朝早く、梨花はクリニックへ行く前に、まず綾香を空港まで送っていった。彼女の昇進に関わるこの案件は、証人を説得するため、自ら他県へ出張する必要があるのだ。昼休み、またしても一真が駐車場で彼女を待ち伏せていた。雪がまだ溶けていない中、男性は長いコートを着て彼女の車のそばに立っていた。すらりとした体つきで、顔立ちも整っており、穏やかで上品な様子だ。梨花は眉をひそめた。彼と桃子が一体何を企んでいるのか分からなかった。二人が交代で自分を待ち伏せしている。とはいえ、桃子がお守りに対する執着は梨花の想像をはるかに超えていた。もしかしたら、一真から答えが得られるかもしれない。彼女は早足で近づいた。「直接クリニックに来ればいいのに」「仕事の邪魔になるかと思って」一真は紳士的に、穏やかな口調で言った。「食事はまだ? 近くにいい店があるんだが……」「結構よ」梨花は仕事が終わるのが遅く、食堂の食事提供はすでに終わっていたので、まだ何も食べていなかった。だが、一真と食事に行く義理もない。「何の用?」彼女の冷たい態度を見て、一真はなぜか胸が詰まった。やはり、夫婦は別居すべきではないのかもしれない。以前の梨花はこんな
Read more