梨花は不意に足を止めた。彼女は振り返った。「何ですって?」善治は顔色一つ変えず、淡々とした口調で彼女を見据えた。「俺たちが手を組めば、黒川家を地獄に送ってやれますよ」抑えた口調とは裏腹に、その瞳には強烈な憎悪が渦巻いていた。彼女は眉をひそめた。「竜也に恨みでも?」善治は首を横に振り、薄い笑みを浮かべた。「あなたと同じです。黒川家そのものに恨みがあって、根絶やしになければいけないんです」その言葉に、梨花は背筋が凍るような思いがした。思わず二、三歩後ずさりする。「私は、あなたとは違いますわ」「どこが?」善治は彼女を見つめた。口調は穏やかだが、その言葉は鋭い刃のように迫ってくる。「ああ、確かに少し違いますな。黒川家が殺したのは俺の母だけだが、あなたは両親とも殺されているんですから。俺よりあなたの方がよほど惨めなんです。それなのに、まだ黒川家に情けをかけてて、梨花さん、本当にお人好しですね」一言一句が、彼女の過去を完全に把握していることを示していた。しかし梨花にとって、彼は名前しか知らない見ず知らずの他人だ。明らかに、下調べを済ませてきている。梨花は拳を握りしめた。「あれはお祖母様がやったことです。黒川家全体の罪ではないのです」もしそんな理屈が通るなら、彼女が開発したこの新薬は、自身の理想を叶えたと同時に、敵に塩を送ったことになってしまう。善治は鼻で笑った。「黒川お祖母様があなたの両親を殺すために使った権力や人脈は、黒川家のものじゃありませんか? 梨花さんは物事を単純に考えすぎているようです」続く言葉は、さらに彼女の心をえぐった。「それとも、竜也と深い仲ですから、事実を認めたくないだけですか?認めざるを得ないはずです。黒川家のために開発したこの薬が、あなた自身の復讐をより困難にしたという事実をね」梨花は手のひらに爪が食い込むほど拳を握りしめた。反論する気力もなく、逃げるように背を向け、化粧室の方へと歩き出した。だが、彼の言葉は呪いのように脳裏に焼き付いて離れなかった。復讐すべき相手は、篤子個人なのか、それとも黒川家そのものなのか。以前の自分の考えが単純すぎたのか、それとも今、他人の言葉に惑わされて複雑に考えすぎているのか、分からなくなってきた。
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