All Chapters of もう遅い、クズ夫よ。奥さんは超一流ボスと再婚して妊娠中!: Chapter 411 - Chapter 420

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第411話

それを聞いて、梨花は思わずハッとした。あの連中が投獄されたのは二十年前。善治がM国に行ったのも二十年前。善治は養子に出されており、DK製薬を継いだのもここ数年のことだという。彼女は思考を巡らせ、核心に迫ろうとした。「つまり、DK製薬の本当の黒幕は、別にいる可能性があるってことですか?」「鋭いですね」彰人は、彼女がわずかな断片情報から問題の核心を突いたことに感心した。「ところで、母がここ数日、紅葉坂へ戻ることになって、往診の件は少し先延ばしにしてもらえますか」梨花は頷き、少し考えてから尋ねた。「奥様はどれくらい紅葉坂に滞在されるんですか?治療の効果が出始めたところなので、あまり間隔を空けたくないんですが」彰人の声は、玉のように滑らかで穏やかだ。「一週間くらいです。祖父の誕生日祝いが済めば戻ってきます」「わかりました」梨花は承諾した。それくらいの期間なら、大きな影響はないだろう。実のところ、梨花自身も紅葉坂へ帰るつもりでいた。あと二日で両親の命日なのだ。夜、帰宅してそのことを話すと、綾香は額を叩いて悔しがった。「しまった、うっかりしてた。数日待ってくれたら、仕事片付けて一緒に行けるんだけど」事務所から大きな案件を振られたばかりで、彼女は当分手が離せない状態だ。梨花は微笑んだ。「一人で大丈夫よ」お腹の子供も、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに合わせてあげたい。命日の当日、梨花は早朝に潮見市を出発し、車で紅葉坂へ向かった。お寺に到着すると、両親のお墓の前にはすでに雛菊と向日葵の花束が供えられていた。最初はそれほど悲しいとは思っていなかったのだが、墓石に刻まれた名前を目にした瞬間、涙が止めどなく溢れ出してきた。「母さん、父さん……」彼女はゆっくりとしゃがみ込み、墓石のありもしない埃を手で払いながら、笑顔を作ろうとした。だが、涙は激しくなるばかりだ。「私、今すごく幸せだよ。でも、母さんと父さんはあそこでどうしてるのかな。私の作った新薬が発売されたの。安心して、私も父さんたちみたいに、たくさんの人を救えるように頑張るから」彼女は鼻をすすり、お腹に手を当てると、ようやく笑顔を見せた。「そうだ、母さん。私、赤ちゃんができたの。私も母になるんだよ。母さん、父
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第412話

一真が立ち去ると、梨花はかえって言葉を失ってしまった。ただ墓の傍らに座り込み、静かに両親を見つめ続けた。長い時間が過ぎ、立ち上がろうとした時には、足が痺れて何千匹もの蟻に噛まれているような感覚に襲われた。名残惜しさを感じながら、ゆっくりとお寺の入り口へ向かって歩いていると、山を登ってくる人たちとすれ違った。「梨花?」その中の一人が彼女の顔立ちに目を留め、振り返って慌てて追いかけてきた。「梨花でしょ?」梨花は急に足を止め、目の前の女性を見つめた。見覚えはあるが、懐かしさよりも他人行儀な空気が勝るその女性。叔母の佐藤由衣(さとう ゆい)だ。かつて両親が亡くなった後、親戚はこの叔母だけだった。しかし叔母は梨花を引き取ることを拒んだ。そのせいで梨花は児童養護施設に入ることになったのだ。もっとも、梨花はそれを恨んでいない。赤の他人を家族に加えるのを嫌がるのは当然だからだ。由衣は彼女の顔をはっきりと確認すると、確信したように言った。「やっぱり……兄さんと義姉さんのお墓参り?」梨花は頷き、一応挨拶をした。「おばさん」以前もお墓参りに来た時に、一、二度顔を合わせたことがあった。由衣は彼女の目がクルミのようにパンパンに腫れているのを見て、長くため息をついた。「新しい薬を開発したこと、ニュースで見たわ。すごいのね」梨花は唇を引き結んだ。「ええ……」あまりに疎遠すぎて、梨花は何と返していいか分からなかった。「こんなに立派になって……」由衣は何かを言いかけてはやめ、少し不憫そうな表情を見せた。「実は……」梨花は眉をひそめた。「何ですか?」「実はね……」由衣はお墓の方を一瞥し、意を決したように深呼吸をした。「あなたもこんなに立派になったんだし、本当の親を探してみてもいいんじゃないかと思って」言い終えた彼女は、どこか肩の荷が下りたような様子だ。梨花は雷に打たれたように立ち尽くし、しばらく呆然としてからようやく思考を取り戻した。「どういうことですか?」本当の親を探すって?「あなたは、うちの家の子じゃないのよ……」肝心なことを口にしてしまうと、残りの事情を話すのは由衣にとってずっと容易だ。「本当の梨花は、とっくの昔に死んでるの。あの子が亡く
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第413話

まさか、麻薬の売人の子供だなんて……梨花はとんでもない笑い話を聞かされた気がしたが、ちっとも笑えなかった。自分は一体、誰だ。「梨花?」一真はお寺の入り口で待っていたが、なかなか彼女が出てこないため、妊娠中の身に何かあってはと心配になり、中へ探しに入ってきた。彼女は階段のところで、虚ろな目をして立ち尽くしていた。さっきとは別人のようだ。その姿は、帰る場所を失った迷子のようにも見えた。一真は胸がざわつき、そっと彼女の肩を叩いた。声も意識して和らげた。「梨花、何かあったのか?」梨花はハッと我に返り、彼を見上げたが、逆光で目が眩みそうになった。彼女は首を横に振った。「ううん、何でもない」何と言えばいいのだろう。自分が誰なのかさえ分からないなんて。あまりにも惨めすぎる。梨花は一人で駐車場へと歩き出した。心配した一真が後を追ってきた。「紅葉坂に二、三日泊まるつもりかい?それとも今日、潮見市へ帰る?」紅葉坂と潮見市の距離はそれほど離れていない。高速を使えば二、三時間で着くため、日帰りは難しいことではない。梨花は本来、数日滞在して、かつて両親と暮らした家を見てくるつもりだった。だが今となっては、どこへ行けばいいのか分からなかった。父さんと母さんは本当の親ではなく、あの家も自分の家ではない。命を救ってくれたことには感謝しているし、篤子への憎しみも変わらない。それでも、今の彼女にはこの事実を受け入れる余裕がなく、どうしていいか分からなかった。梨花は呆然としたまま答えた。「潮見市へ帰るわ。今すぐに」話している間に駐車場に着いた。この状態で彼女に運転させるわけにはいかず、一真は提案した。「僕が送ろうか」梨花は意外そうに聞いた。「出張は終わったの?」「……ああ、ちょうど僕も戻ろうと思っていたところだ」一真は断られるのを恐れて話を合わせ、彼女から車のキーを受け取った。梨花は精神的に参っていたが、理性を失ってはいなかった。命を粗末にするつもりはない。彼女は車のキーを差し出した。「じゃあ、お願い」車が市街地を抜け、あるパン屋の前を通りかかった時、一真は車を路肩に停めた。彼女に食欲がないのは分かっているが、それでも放っておけなかった。「どんな時で
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第414話

この数日間、九郎はずっと部下を手配して梨花を秘密裏に護衛させていた。だが、事故車の出現があまりに唐突で、割り込んで防ぐ暇さえなかった。梨花が事故に遭ったという知らせは、直ちに潮見市へ伝えられた。報告を受けた竜也は、心臓が数秒止まったかのような衝撃を受け、勢いよく立ち上がった。「梨花は、無事なのか?」「梨花さんは……」九郎も自身の失態を痛感していた。「行方が分かりません」事故直後、現場は大渋滞で混乱を極め、区役所から出てきた数台の車だけが封鎖された道路を抜けていったそうだ。部下たちがようやく辿り着いた時には、梨花の姿はどこにもなかった。竜也の呼吸が止まった。真冬の氷のような冷徹な声が響いた。「行方が分からないだと? 自分が何を言っているのか分かってんのか」「旦那様……」孝宏がたまらず一歩前に出た。「相手はわざわざ紅葉坂を選んで仕掛けてきました。我々の勢力圏を避けるためでしょう。九郎を責めてもどうにもなりません。今は一刻も早く梨花さんの居場所を突き止めるのが先決です……」焦燥感に押し潰されそうになりながらも、竜也は深く息を吸い込み、必死に理性を呼び戻した。彼は奥歯を噛み締め、絞り出すように命じた。「紅葉坂へ行く」車に乗り込むと、彼は真っ先に海人に電話をかけた。紅葉坂は海人の実家の縄張りだ。その膝元で人を攫われたのだ、彼らが調べたほうが彼よりも圧倒的に早いはずだ。道中、孝宏はバックミラー越しに、張り詰めた表情を崩さない竜也の様子を伺いながら、心の中で祈らずにはいられなかった。あの時、お嬢様が結婚しただけで、社長は長い間立ち直れなかった。もし今回、本当に何かあれば……孝宏は想像するのも恐ろしかった。それに、お嬢様はようやく一息ついて、辛い日々から抜け出せたばかりだというのに。梨花が意識を取り戻した時、額に鈍い痛みを感じ、鼻をつく微かな消毒液の匂いに気づいた。目を開けると、窓の外はすでに夜の帳が下りていた。視界に入ったのはベッド脇に吊るされた点滴のチューブで、点滴液がチューブを通って彼女の体へと送り込まれている。気を失う前の記憶が瞬時に蘇り、彼女は無意識にお腹へ手を伸ばした。彼女が目覚めたのに気づき、千鶴は少し表情を緩めて身を乗り出した。「安心してくださ
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第415話

病室は、リビングまで備わったVIPルームである。二人はまだリビングにいた。真里奈は少し開いた寝室のドアに視線をやり、声を潜めて尋ねた。「電話で妊娠してるって言ってたでしょう?赤ちゃんは……無事なの?」万が一ダメだった場合、その話を聞かれて梨花を悲しませたくなかったからだ。千鶴は答えた。「大丈夫ですよ。ただ、しばらく絶対安静が必要です」「ああ、神様のおかげだわ」真里奈はようやく生きた心地がした。不思議なものだ。梨花が事故に遭ったという電話を受けてからというもの、彼女は一瞬たりとも心が休まらず、胸騒ぎが止まらなかったのだ。この感覚は、以前千鶴が地方研修中に土砂崩れに巻き込まれた時のことによく似ていた。あの日も、千鶴の無事が確認されるまでの一日、彼女は心配で居ても立ってもいられなかった。梨花には、親子二人のひそひそ話がなんとなく聞こえていた。真里奈が寝室に入ってくると、彼女は弱々しく微笑んだ。「奥様、私は大丈夫です。赤ちゃんも無事ですから」さっき自分で脈を診てみたが、額の怪我はただのかすり傷だ。赤ちゃんにも多少の影響はあったものの、千鶴が言った通り、しばらく休めば問題ないはず。真里奈は彼女のすっかり血の気が引いた唇を見て、眉をひそめた。「こんな顔色なのに、大丈夫なわけないでしょ。なぜいきなり紅葉坂に来たの? 一言言ってくれればよかったのに。そうすれば潮見市まで迎えをやったし、こんなことにはならなかったわ」千鶴の実家の車なら、誰も下手に手出しなどできなかったはずだ。その問いかけに、梨花は何から話せばいいのか分からず、喉の奥が苦く詰まったような感覚を覚えた。少し間を置いてから、彼女は答えた。「両親のお墓参りに来たんです。今日が命日なので。お祖父様の古希のお祝いでお忙しいでしょうから、あまりご迷惑をおかけしたくなくて」もし母さんと父さんが東南アジアから連れ帰ってくれなければ、自分は今生きていなかったはずだ。たとえ実の親ではなかったとしても、命を救い、育ててくれた恩がある。彼らを一生、自分の両親として敬愛することに変わりはない。ただ、自分の本当の両親がいったい何者で、どこにいるのか分からないことが、切なくてたまらなかった。真里奈はため息をつき、それ以上は何も言わず、
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第416話

海人は背筋が凍る思いがした。「探さなくていいってどういうこと? 」「彼女は私のところにいるわ。怪我も大したことないから、心配しないで」千鶴も、弟が誰のために梨花の行方を捜しているのかは承知していたため、隠すことはしなかった。だが、すぐにこう付け加えた。「ただ、今日はもう遅いし、彼女には安静が必要よ。住所は明日教える」「……」海人は一瞬ほっとしたが、その言葉を聞いて再び焦りだした。竜也からのプレッシャーに耐えながら懇願する。「姉さん、頼むから今住所を教えてくれよ。一目会うだけでいいんだ、一目だけで」プツッ、ツーツー……電話の向こうからは、無機質な切断音だけが響いた。海人は携帯をテーブルに放り投げ、竜也の顔を見て泣きそうな顔をした。「協力したくないわけじゃないけど、マジでお手上げだ。紅葉坂で姉さんが匿ってる人間を、見つけ出せる奴なんていないよ」千鶴の実家の情報網は、すべて長女である彼女が握っているのだ。彰人が動いても何も掴めなかったのは、そういう理由である。「それで十分だ」竜也は重く澱んだ息を吐き出した。張り詰めていた神経が急に緩み、顔色も昼間よりはずいぶんマシになった。だが、あまりに長く緊張状態にあったせいか、胸の奥にはまだ死に瀕したような窒息感が残っていた。彼は上半身をゆっくりと前屈みにし、深く息を吐いてその感覚を和らげようとしたが、動悸はなかなか収まらなかった。一日中、無数の「万が一」を想像してしまった。よかった、そのどれもが現実にならなくて。彼女が無事なら、それでいい。千鶴のところにいるなら、他の誰のところにいるよりも安全だ。彼は眉間を揉みほぐしながら、孝宏からの電話に出た。「旦那様、加害者が捕まりました。三浦家から圧力がかかったようで、徹夜で取り調べが行われているそうです」「ああ」竜也は頷き、低い声で指示した。「他の者も引き上げさせろ。もう梨花を捜す必要はない」彼女が無事だと分かっていても、竜也は全然眠れなかった。目を閉じると、昼間の事故現場の光景が勝手に脳裏に浮かんでくる。これからは何があっても、二度と彼女を一人で潮見市から出したりはしない。翌朝早く、彼が急かすまでもなく、海人が住所を聞き出してきた。三浦家が経営する私立病院
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第417話

二人は結婚する。盛大な結婚式を挙げて、長年想い続けてきた彼女を、皆に見守られる中で堂々と妻として迎えるのだ。そして二人で、心から喜び合ってこの子の誕生を待つのだ。子供は、健康で幸せに育ってくれればそれでいい。「竜也」彼が言いかけた時、バスルームのドアが開いた。一真が綺麗に剥かれたリンゴの皿を持って出てきて、サイドテーブルに置くと、竜也を見て笑みを浮かべた。「おめでとう。おじさんになるんだな」おじさん。竜也は何か悪い冗談でも聞いたような気がした。「おじさん?」瞳の輝きが色あせていく。彼は平静を装って笑ってみせたが、梨花に向けられた視線は心臓を突き刺すほど冷ややかだ。「……この子は、俺の子じゃないのか?」梨花の心臓が早鐘を打った。だが、彼女は頷かざるを得なかった。「そうよ」それが一番簡単で、親権争いを避ける唯一の方法だったからだ。彼女は家族を求めている。だから迷わずこの子を産むと決めたのだ。産まれた後に、子供が自分のそばにいられない事態など、到底受け入れられない。「あり得ない」彼女の言葉を、竜也は一言も信じない。妊娠中の彼女を気遣い、無理やり冷静さを保つ。「本当のことを言わないなら、医者に聞く」検査報告を見れば、誰の子かはっきりする。手塩にかけて育てた彼女の性格は、自分が一番よく知っている。自分とあれほど親密な夜を過ごした直後に、他の男のところへ行くような真似ができるはずがない。一真がすかさず立ちはだかった。「竜也、こんなことで修羅場にする必要はないだろう」「退け」竜也の全身から抑えきれない殺気が滲み出た。一真など眼中にないかのように、彼を無視して外へ出ようとした。一真は眉をひそめ、病室の外まで追いかけて彼を呼び止めた。「梨花の態度が全てを物語ってるじゃないか。もし本当にあなたの子なら、隠す必要なんて……」ドガッ――次の瞬間、男の拳が一真の顔面を捉えた。一真はよろめき、壁に手をついてようやく倒れるのを免れた。竜也は彼の胸倉を掴み上げた。手の甲には青筋が浮き上がり、漆黒の瞳には底知れぬ冷気が宿っている。唇の端を歪めて冷笑した。「俺の子じゃないなら、お前の子だとでも言うのか? 一真、お前ごときにそんな資格はない」彼は
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第418話

医師のオフィスにて。梨花の主治医は、目の前に立つ圧倒的なオーラを放つ男に対して、意を決して口を開いた。「黒川社長、見せたくないわけではありません。病院の決まりなのです」言い換えれば、これは三浦家が決めたルールだ。ここは潮見市でもなければ、黒川グループ傘下の病院でもない。この病院は、上から下まで三浦家のものだ。ましてや、千鶴が自ら運び込んだ患者だ。どれほど脅されようと、情報を漏らすわけにはいかない。竜也が視線を落とすと、背後から千鶴の声がした。「どうしても見るつもり?」竜也は海人と仲が良く、千鶴との付き合いも初めてではないため、率直に答えた。「姉さん、この件は一つ借りにさせてくれ」その言葉の裏には、今日絶対に報告書を見るという強い意志があった。表向きに見せないなら、裏の手を使ってでも手に入れるつもりだ。千鶴は彼のやり方をよく知っているので、驚くこともなく尋ねた。「見たら、どうするの?」竜也はさらりと受け流した。「それは俺と彼女の問題だ」自分の子なら、さっき言った通りにする。自分の子でなく、梨花の心が完全に一真にあるのなら、それでも同じように彼女を守り抜く。立派な……叔父として。竜也の顔に一瞬寂しさが浮かんだ。千鶴の記憶の中で、それは自分が元夫と離婚した日に、彼が浮かべていた表情と同じものだった。彼女は医師を一瞥し、淡々と告げた。「見せてあげて」そして、彼女は瞳を伏せて感情を隠し、背を向けて立ち去った。医師は指示を受けると、慌ててパソコンを操作し、梨花のエコー検査の結果を表示した。「黒川社長、こちらが佐藤さんの報告書です」竜也はデスクに歩み寄り、身を乗り出したが、その体が強張った。「12週……3ヶ月ということか?」見れば分かることだ。だが、彼は初めて自分の認識を疑った。3ヶ月。どうしてたったの3ヶ月なんだ。医師は軽く咳払いをした。「はい。妊娠週数は通常、最終月経から計算しますので、実際の受精時期より少し長くなるのが一般的です」つまり、行為に及んだ時期から計算すれば、まだ三ヶ月にも満たないということだ。竜也の心臓は糸で締め上げられたかのように痛み、言葉にならない酸っぱい感情が胸から喉元へと込み上げた。耐え難い苦痛だったが、彼は
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第419話

梨花は胸の奥をぎゅっとつねられたような痛みを感じ、しばらく言葉が出なかった。まさか竜也が、これほどまでに子供を望んでいたとは思いもしなかった。むしろ、自分の子を妊娠したと知ったら、産むことに反対するのではないかとさえ思っていたのだ。あれほど失望するなんて、予想外だ。その失望ぶりを見ている彼女まで辛くなるほどだ。千鶴が口を挟んだ。「今ならまだ、後悔しても間に合いますよ」梨花は真っ白なシーツに視線を落とし、長い沈黙の後、ゆっくりと顔を上げた。「将来……彼は許してくれるでしょうか?」その問いに、千鶴も一瞬言葉を詰まらせた。梨花のために当時の事件を調べさせたのは自分だ。だからこそ、梨花が何を危惧しているのか、誰よりも理解していた。梨花が両親の敵を討った時、篤子の実の孫である竜也は、彼女を許すだろうか。もし許されないなら、今ここで嘘をついたことを後悔して真実を告げたところで何の意味もないし、将来さらなるトラブルを生むだけだ。千鶴は黒川家の祖母と孫の不仲についてある程度知ってはいたが、だからといって竜也が篤子のことを完全に見捨てられるとは思えなかった。血の繋がりというのは、骨を砕いても筋で繋がっているようなものだ。切っても切れない。もし簡単に切り捨てられるなら、これほど多くの人が家族の問題で苦しむことはないだろう。千鶴は自分の身に置き換えて考えてみたが、答えは出せなかった。そして梨花の中ですでに答えが出ていることも察していた。梨花は深く息を吐いた。「ええ、覚悟はできてます」どうしようもないことだ。自分は本当の「梨花」ではない。だから本来、黒川家に深い恨みなどないはずだった。だが、恩義がある。両親は心から自分を愛してくれた。彼らを安らかに眠らせてあげたい。それが、命を救われた恩返しになるのだから。しかしそうなれば、竜也との間には、決定的な溝ができてしまうだろう。千鶴は彼女を見つめた。「何をするにしても、法律の範囲内でやってくださいね」「安心してください」梨花は薄く笑った。以前はどこから手をつければいいのか分からなかった。だが今朝、一真が教えてくれたのだ。篤子が桃子に出資した資金の一部に、不正な金が混ざっていると。金が汚れているということは、篤子の手も
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第420話

一真は深く息を吸い込み、ふっと笑って冗談めかして言った。「何を心配してるんだ?腐っても友達なんだ、警察に突き出したりはしないよ」そう言いながら、彼は言葉を区切り、言い訳するように続けた。「さっきは僕もとっさのことで、ついあんなことを言ってしまったんだ」もちろん、彼女のお腹の子供のことだ。梨花は頷いた。「分かってる」一真は彼女の瞳を見つめて言った。「でも、もしあなたが後悔したら、僕が直接彼に説明しに行くから」昼近くになると、真里奈がまた病院にやって来て、梨花のために特製の薬膳弁当を差し入れた。真里奈はもっと食べるよう勧めながら尋ねた。「先生に聞いたけど、明日退院できるんだって?」真里奈が心から心配してくれているのを知り、梨花は慌てて頷いた。「ええ、大したことないって言ったでしょう? 心配いりませんよ」「それじゃあ退院したら、どこに泊まるつもり?」医師も真里奈には、梨花が長距離移動に耐えられないことを伝えていた。「ホテルに二、三日泊まります」梨花はスープを一口飲み、笑顔を見せた。「先生は大げさに言ってるだけですよ。数日休めば、潮見市に戻れますから」この機会に休暇を取って、ゆっくり休もうと思っていたのだ。「あなた、水臭いじゃない」真里奈は彼女を軽く睨み、不満げに言った。「ホテルなんかに泊まるくらいなら、ウチにくればいいんじゃない。千鶴も手伝いさんに言って、客室を用意させてあるのよ。明日は退院したら、そのままウチに来なさい」真里奈は拒否する隙を与えなかった。梨花は苦笑し、遠回しに辞退しようとした。「でも、お祖父様が基地から戻られているんですよね? 部外者がいてはご迷惑では?」真里奈は気に留めなかった。「お義父さんは賑やかなのが好きなのよ。家族が多いほうが喜ぶわ」「それに、あなたはあの子……ごちゃんと同い年だし、お義父さんもきっと喜ぶわ」お義父さんの人生最大の後悔は、ごちゃんと一度も会ったことがないことだ。ここ数年、ごちゃんの話になると、お義父さんはあの子の写真を抱いて泣き崩れてしまって、誰が慰めてもダメだ。そこまで言われては、梨花も遠慮するわけにはいかなかった。「分かりました。それなら、奥様の治療も続けられますしね」「私はあなたに休んでもら
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