梨花は一日中張り詰めていた神経を、ようやく少し緩めることができた。ダメだなんて言うはずもなく、和也にいくつか注意事項を伝えた後、竜也と共に霞川御苑へと帰った。普段、霞川御苑は昼間でさえ静寂に包まれている。だが今は、日が暮れているというのに、家に入る前からただならぬ熱気が伝わってきた。梨花と竜也は顔を見合わせ、足を踏み入れて驚愕した。リビング全体が、ローテーブルを中心に、ありとあらゆるベビー用品で埋め尽くされていたのだ。ベビーカーやベビーベッド、おむつ交換台といった大型の家具だけで十数点、それも様々なデザインのものが所狭しと並んでいる。小物に至っては、山のようなベビー服や用品が積まれていた……近づいてよく見ると、テーブルの上には智子が長年秘蔵し、もったいなくて身につけられなかった翡翠の装飾品まで置かれている。竜也は思わず舌を巻いた。「一体何事だ、この騒ぎは」「梨花にあげるんだよ!」智子はそう言うと、梨花を見て心を込めて語りかけた。「綾乃さんの体を心配してるのは分かってる。だから、安心して看病に専念していいよ。他のことは全部、私が引き受けるから」予定日までまだ四ヶ月近くあるとはいえ、今のうちに準備しておくべきことは多い。用品を揃えるだけでなく、産後ヘルパーや栄養士、病院、医師の予約も早めに済ませなければならない。こういうものは早めに押さえておかないと、良い枠はすぐに埋まってしまうのだ。智子が梨花を可愛がっていることは知っているが、虎の子の宝物まで持ち出してくるとは、さすがの竜也も驚いた。彼は梨花を一瞥し、楽しげに言った。「おばあちゃん、全財産をお前に譲る気みたいだぞ」元々、智子が口には出さずとも、子供のことでわだかまりを持つのではないかと心配していたのだ。だが、それは杞憂だったようだ。子供の出自を知れば智子が喜ぶだろうとは予想していたが、まさかこれほどまでとは思いもしなかった。梨花は、半ば強引に腕にはめられた腕輪と、今にも首にかけられそうな翡翠のネックレスを見下ろし、戦々恐々とした気分になった。その透明度と質感を見れば、セットで数億円は下らない物だろう。竜也の言った「全財産」という言葉は、決して大袈裟ではない。感動はしたが、梨花は慌てて腕輪を外そうとした。「智子お
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