千鶴はそこでようやく、ハッと思い出した。そうだ。あの時、涼真は何日も前から、何度も何度も彼女のスケジュールを確認してきていた。理由は他でもない。近藤家の他の人間は誰一人として時間が取れず、雅義でさえ急な仕事で北都へ出張に行ってしまったからだ。木田家の人間と重要なプロジェクトの交渉があるようだ。電話越しに聞こえた当時の少年の声はひどく拗ねていて、千鶴もどんなに忙しくても、どうにかやり繰りして時間を作ったのだ。そうして撮られたのが、この一枚の写真だった。ただ、ここ一、二年の彼女はキャリアの絶頂期にあり、出世街道を駆け上がると同時に様々な業務が複雑に絡み合い、おまけに実家でも次から次へと問題が起きたため、他のことに気を配る余裕など完全に失われていた。涼真が一昨年に修士号を取得して卒業していたことなど、すっかり頭から抜け落ちていたのだ。いつもは余裕を崩さない千鶴だったが、さすがに乾いた笑いを漏らすしかなかった。彼女はそのまま通話ボタンを押し、電話をかけた。「……それで、あなたはこの先どうするつもりなの?にいるの?それとも北都へ行くの?」「んー……」涼真の機嫌は直るのも早い。何かを思いついたのか、声はすぐに穏やかになった。「お姉ちゃんは、この後また紅葉坂に帰ってくるの?」「私?」千鶴は少し考えた。「私は潮見市に異動になったばかりだから、何事もなければ、ここ一、二年はこっちにいることになるわね」竜也が当面潮見市を離れることはないだろうし、梨花の生活も仕事も、今はここが中心になっている。自分が潮見市に残れば、梨花に何かあった時でも力になってやれるからだ。「そっか」涼真は感情の読めない声で短く相槌を打ち、唇を噛み締めた。「俺も、多分もう紅葉坂には残らない。祖父が、早く木田グループを継げってずっとうるさいんだ」実は、彼は去年からすでに一年の大半を北都で過ごしていた。ただ、何をためらっているのか、木田家の祖父から木田グループを引き継ぐという話を、ずっと首を縦に振らずに保留し続けていたのだ。近藤家と木田家の内部事情について、もうすぐ離婚して部外者になる千鶴がとやかくアドバイスするのは筋違いだった。「いいんじゃないかしら」「何がいいの?」涼真は子供っぽくぶつぶつと文句を言った。「お姉ちゃん、俺
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