電話の向こうはしばらく沈黙した。三浦の祖父は言葉を選んでいるようで、長い時間が経ってからようやく口を開いた。「お前と雅義の離婚の件だが、一旦保留にしなさい」「離婚するなと言っているわけではない。ただ、こんなタイミングなのだ。まずは雅義に協力させて世論の火消しをしろ。ほとぼりが冷めてからでも遅くはない」「大した事ではないかもしれんが、悪意ある者の口に上れば、それは弱みになる」「千鶴、お前が今の地位を築くのがどれほど大変だったか。私の言っている意味が分かるな」千鶴は数秒間静まり返り、反論はしなかった。「分かりました、お祖父様」果たして、私がこの地位に居られなくなることを案じているのか。それとも、彼自身の生涯をかけた名声が私によって傷つけられることを恐れているのか。しかし、彼女はそれを問い詰めることも、それ以上何かを言うこともなく、静かに電話を切った。振り向くと、いつの間にか後を追ってきていた雅義と視線がぶつかった。彼は彼女の数歩後ろに立ち、その顔を見つめていた。その表情には、とってつけたような心配と気遣いが浮かんでいた。「千鶴ちゃん」彼は歩み寄った。「お祖父さんは……怒っていらっしゃったか?」千鶴は彼を一瞥した。そこには何の感情もなかったが、雅義はなぜか背筋が寒くなるのを感じた。「何でもないわ」彼女は単刀直入に結論だけを告げた。「急用ができたから潮見市に戻らなきゃいけなくなったの。手続きの件は、日を改めましょう」雅義は頷いた。その顔にはいつもの上品で温和な笑みが浮かんでいた。「あの写真のことは、私から君と涼真の濡れ衣を晴らしておくよ。安心してくれ。君も彼も、そんな考えを持つはずがないことくらい私が一番よく分かっている。こんな根も葉もない噂で、君に迷惑はかけさせない」彼がそう言う時の表情は誠実で、その口調には真実味が溢れていた。千鶴はしばらく彼を静かに見つめていた。彼の言葉に感動したのか、それともその裏にある何かを見透かそうとしているのかは分からなかった。しかし最後には、彼女は何も言わず、ただ一言「ええ、それじゃあお願いね」とだけ言った。彼女はそれだけ言い残し、車のほうへと歩き出した。陽子は足早に彼女の後を追った。雅義の横を通り過ぎる時、立ち止まりはしなかったが、視界の端で
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