梨花は一瞬きょとんとしたが、思わず口を開いた。「私じゃない」「関係ない。とにかく桃子に謝ってこい!」一真の声はまったく容赦がなかった。梨花は肘の痛みを無視して、その場でぴたりと立ち止まった。どれだけ強く引っ張られても、一歩も動こうとしなかった。「何度言えばわかるの。私じゃないのに、なぜ謝らなきゃいけないの?」「梨花......」一真の動きが一瞬止まり、上から彼女を見下ろした。「以前なら、僕は迷わずあなたを信じてた。でも今は、あなたのことが全然わからない」最近の彼女の変化に、一真は戸惑っていた。桃子の頭を割るほどに叩きつけた時も、彼は「怒りに任せただけで、仕方のない衝動だった」と自分に言い聞かせていた。病院が忙しいと毎日朝早く出て夜遅く帰る彼女を、「若いんだから、今は成長する時期なんだ」と目を瞑っていた。恵が子どもの薬膳を頼みに来たとき、あっさり断ったのも、まあ仕方ないかと思った。レストランでの一件で、桃子と自分が恥をかいたときも、彼女のきつい言葉に耐えた。でも、積み重なるうちに、昔のような素直で大人しい梨花の面影はもうどこにもなかった。自分は何を信じればいいんだ?梨花は薄く唇を引き、冷静に顔を上げた。「あなたが信じるかどうかなんて、どうでもいい」一真の信頼にそこまでの価値があるとは思っていなかった。決めるのは警察であって、一真ではない。「何だと?」一真は驚いたように彼女を見つめ、次第にその整った顔に失望の色が濃く浮かび上がった。言葉を選んだつもりだった。彼女が傷つき、悲しむと思っていた。でも、返ってきたのは、まるで何も感じていないような態度だった。自分の言葉に、彼女は微動だにしなかった。いや、もしかしたら自分そのものが、どうでもいい存在になっていたのかもしれない。「今、なんて言った?」「好きにすればって言ったの」梨花の視線は一分の迷いもなく一真を捉え、声は氷のように冷たく澄んでいた。「そんな失望した顔しないで。まるで、私があなたを裏切ったみたいじゃない」その言葉に一真は眉間をぎゅっと寄せた。そして、彼女の腕を掴んでいた手がそっと離れた。その瞬間、二人の間にあった過去の情が、音もなく消えたようだった。「梨花......いつから、そ
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