梨花はきょとんとした。思わず桃子のアレルギーのことだと思い込んでしまい、つい口をついて出た。「毒なんか入ってないよ......桃子はただのアレルギーで......」「俺が聞いてるのは」竜也が気だるそうに言葉を遮った。「お前、いつから喋るのが下手になったんだ?」梨花は一瞬呆けたが、すぐに気づいた。彼が皮肉っているのは、さっきの彼女の菜々子への冷たい態度だったのだ。菜々子は鈴木家の込み入った事情など知る由もなく、笑顔で場を和ませようとした。「鈴木さんは急いで桃子さんを病院へ送ったんでしょう?」「......そうです」梨花が答えると、車内に微かな冷笑が落ちた。男の声は冷淡で、こう言った。「内弁慶だな」「黒川社長」梨花はとうとう堪えきれず、こみ上げてきた悔しさと鼻の奥のツンとした痛みを抑えながら、はっきりとした声で言い放った。「私はあなたみたいに、たった一言で誰かに代償を支払わせられるような人間じゃありません」一番嫌いだった。彼がいつも上から見下ろすように、すべてを評価し、誰かを裁くそのやり方が。でも、彼女にどうしろというのだ。彼は竜也、黒川家の竜也。その一言で、潮見市すら揺るがすような存在である。一方、自分は黒川家か鈴木家の誰かが一言つぶやけば、すぐに踏み潰されるような存在である。鈴木家から離れたくて、それでも黒川家に縛られないように立ち回って......やっと、やっとの思いで離婚にこぎつけた。それすらも、彼には「取るに足らない」と思われている。むしろ、彼にとっては情けない行為でしかないのだ。険しい空気が満ちていく。菜々子は慌てて口を挟んだ。「梨花、でも社長も、楽してここまで上り詰めたわけじゃなくて......」「言わせてやれ」竜也の声が冷たく響いた。「......もう言ったわ」「だから言っただろ、内弁慶だって」竜也は、いつもどこまでも高圧的だった。「一真が悪いのは分かってる。でも、何でその怒りを俺に向けてくる?」「まさかとは思うけど......世の中全員が、お前に借りがあるとでも思ってんのか?」梨花は、自分が最後に泣いたのがいつだったかも忘れていた。でも、その言葉を聞いた瞬間、涙は前触れもなく、頬を伝ってあふれた。顔を逸らし
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