薄明のなかで、王の寝室には静寂が広がっていた。夜明けの光が厚いカーテンの隙間から差し込み、床に淡い帯を描く。サリームは寝台の端に座り、左の手首を見つめていた。赤黒い痣は、夜の熱とともに少し色を薄めている。それでも、触れるとまだそこに痛みが残っていた。アミールは静かに目覚め、寝台の端から王の背中を見守っていた。ふたりの間に交わされた言葉、ぬくもり、涙と喘ぎの名残が、まだ身体の奥に静かに残響している。けれど、今朝の王の背はどこか遠く、窓から差し込む光に溶けかけているように見えた。サリームはそっと痣を指でなぞる。「これは、いつまで私に残り続けるのだろうか」小さく呟く。答えは求めていない。ただ、朝の静けさが自分の声を吸い込んでいくのを感じていた。ザイードの死。あの夜の光景が、今も鮮明に脳裏に焼きついている。血の気配、祈りの声、抱きしめたまま冷えていく身体。サリームはまるで水の底に沈められたような圧迫感を覚えながら、そのすべてが自分の罪であり、罰であると信じてきた。アミールがゆっくりと身を起こし、寝台から降りる。裸足の足が床に触れる音が微かに響く。王の後ろ姿を見つめながら、何を言うべきか、何も言わないべきかを迷っていた。サリームは手首を膝の上に置き、もう一度痣を見つめる。「これは呪いだ。愛すれば、また誰かを失う」その囁きに、アミールは静かに近づき、王の横にそっと座る。ふたりの影が朝の光の帯のなかで重なり合う。「本当に、それは呪いなのでしょうか」アミールはゆっくりと尋ねる。サリームは驚いたようにアミールを見つめ、そしてすぐに視線を落とす。痣の上に浮かんだ朝の光が、まるで水面のように揺れていた。「私は、ずっとあなたの苦しみを見てきました。でも、昨夜…あなたと触れ合って、私もまた、自分が何に縛られてきたのかを考えました」アミールの声は静かだった。サリームは黙って聞いている。鏡の中に映る自分の顔を思い浮かべる。記憶のなかで何度も同じ問いを繰り返し、そのたびに答えを恐れてきた。「私は、あなたを守れなかった自分を赦せていない。ザイードも、君も、私が愛すれば
ปรับปรุงล่าสุด : 2025-09-24 อ่านเพิ่มเติม