บททั้งหมดของ 千夜一夜に囚われて~語りの檻と王の夜明け: บทที่ 71 - บทที่ 80

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喉奥の嘘

王の寝台の上に、夜は静かに沈んでいた。王の呼吸は浅く、熱に浮かされた瞳は開かれることもなく、かすかなうわごとだけが闇を震わせていた。「ザイード…許してくれ」その名前が夜の奥底に沈むとき、アミールはまるで自分の心臓に冷たい水を注がれたような感覚に襲われた。王の声は微かで、壊れた硝子のように脆く響いた。ザイード。兄の名。それを王の唇から聞くたびに、自分の存在がこの部屋から少し遠のく気がした。王の手首の痣は、月の影のように赤黒く脈動していた。アミールはその痣に手を伸ばしたが、触れきることなく指先を引っ込めた。王が今見ているのは、過去の幻なのか。自分は今、兄の面影のなかで生きているだけなのか。その疑念が、喉の奥で重く燻った。寝台の脇でアミールは静かに座り込む。王が呼吸するたびに、汗ばんだシーツが微かに音を立てた。冷えた空気のなか、部屋の隅に置かれた水差しの銀の縁が、月明かりを弾く。その光に照らされて、王の輪郭がぼんやりと浮かび上がる。王のうわごとは止まらなかった。許しを乞う声が夜の中に消えていくたび、アミールの胸の奥に沈黙が積もっていった。自分が王のそばにいるのは、兄の代わりだからなのか。王は今も、兄の影を抱きながら眠っているのか。それでも、アミールは立ち上がらなかった。心のどこかで、これ以上近づけば、また失われるかもしれないという恐怖が渦巻いていた。それでも、ここから去ることはできなかった。兄の影を感じながら、それでも今ここで苦しんでいる王を、ただ見捨てることができなかった。王がふと、苦しげに身じろぎをした。額に浮かぶ汗をそっと拭う。微熱がアミールの指先に移る。何度も冷やした布で額を撫でながら、アミールは王の顔を見つめ続ける。王のまつげは濡れ、唇はうわごとを繰り返すばかりだった。「ザイード…愛してはいけなかった…」王の囁きが、夜の闇に消える。アミールは喉奥で言葉が詰まる。兄の名を呼ぶ王の声に、どこまでも遠い過去と、今ここの現実とが交錯する。自分の名前は呼ばれない。それがどれほど苦しいことなのかを、初めて思い知った。それでも、アミールは決意する。王のそばを離れず、ただ黙
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名を呼ばぬ夜

夜が静かにほどけていく。微熱の余韻を残したまま、王の寝台の周囲にはほのかな明るさが忍び寄っていた。薄明の空が石壁の狭間から差しこみ、重い帳がゆっくりと色を変える。サリームが目を開けたとき、最初に見たのは己の掌だった。手首にはまだ痣が薄く残り、夜の苦しみの名残がそこに刻まれている。熱はやや引いていたが、体の奥にこびりついたような疲労がまとわりついていた。横にはアミールがいる。椅子に腰かけたまま微かに前のめりに眠っている。寝台の端に、彼の指先がかろうじて触れていた。痣の上を避けるように、そっとその手を自分のものと重ねる。サリームはしばらく声を出さなかった。喉の奥が乾いて、言葉を紡ぐのが億劫だった。けれど、やがて自分の視線がアミールに向かっているのに気づく。名を呼びたい、ただそれだけが胸にある。だが、その衝動を噛み殺すように唇を噛み締める。アミールが目を覚ます。わずかに瞬きをして、王の顔を見つめ返す。しばしの沈黙。王のまなざしには、微かな戸惑いと怯えが滲んでいた。サリームはゆっくりと口を開いた。「…名を、呼ぶな」言葉の重さが、二人の間に降り積もる。アミールは目を伏せて、しばらく黙っていた。その瞳には傷ついた色が一瞬だけよぎる。けれど、反論もせず、名を問うこともなく、静かにうなずいた。王は目を閉じて、息を吐いた。愛すれば死ぬ。名を呼ぶことが、その呪いを再び目覚めさせるのだと、本能的に感じていた。ザイードの名を呼んだ夜も、そうだった。愛という言葉が唇からこぼれた瞬間、すべてが終わった。サリームの中には、決して消えない恐怖が巣食っていた。けれども、沈黙のなかにも、何かが芽生えているのを感じていた。アミールの存在。名を呼ばなくても、彼はここにいる。触れ合う手のぬくもりが、言葉よりも強く、確かにそこにあった。日が傾きかけるころ、アミールは静かに立ち上がった。王の許に寄り添い、今夜は物語を語ってもよいかと瞳で問いかける。サリームは小さくうなずいた。蝋燭に火がともされ、揺れる明かりが二人の影を壁に映し出す。アミールは声を低く抑え、静かに物語を語りはじめた。「昔むかし、名を持たぬ
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砂の道、沈黙の誓い

砂漠の夜は、眠りから覚めることなく続いているようだった。王宮を発った二人は、まだ黒々とした星の名残を背に、無言で歩き続けていた。足元の砂は夜の冷気に湿り、足跡だけがくっきりと残されていく。歩みを進めるごとに、影が長く伸び、ふたつの人影が時に重なり、時に離れて揺れていた。サリームの胸の奥では、微かな息苦しさが静かに波打っていた。神殿へ向かう道を知っているはずなのに、足はしばしば止まりかける。あの場所に何が待っているのかを思うと、背中を冷たいものがなぞるようだった。痣はもう痛みを発していない。だが、そのかわりに胸の奥に罪の記憶が疼いていた。振り返れば、アミールが静かに後を追ってきている。昨夜の沈黙が二人の間に残り、言葉はどちらからも生まれなかった。だが、不思議とその静寂は不安ではなく、むしろどこか慰めにも似ていた。砂を踏みしめる足音が、ふたつの心臓の鼓動のように等しく響いていた。神殿の尖塔が、夜明け前の空にぼんやりと影を落とし始める。サリームはその姿を見て、ほんの少しだけ足を止めた。石造りの階段、冷たい大理石の床、そして記憶のなかで何度も繰り返された祈りと血の儀式。それらがいっせいに胸を押し寄せてきた。アミールが、そっとサリームの横に並ぶ。彼の横顔は夜明けの光にかすかに照らされていた。目を伏せたその姿に、サリームは言いようのない安堵を感じる。けれど、同時に痛みも走る。アミールはこの場所に、どんな気持ちで戻ってきたのだろうか。兄を失い、自分をも呪いの源と見ているのではないか。一歩、また一歩と進むたびに、砂がさらさらと音を立てて流れる。二人の影は時折交差し、そのたびにサリームは自分が誰と並んで歩いているのかを問い直していた。アミールはザイードの弟であり、自分が最も愛してはいけない相手だった。それでも、今この夜明け前の道で隣にいるのは紛れもなくアミール自身だった。神殿の階段の前で、サリームは立ち止まった。石の冷たさが足元から伝わり、胸の鼓動が高鳴る。かすかに手が震えた。その震えを悟られたくなくて、サリームは一歩、後ずさった。アミールが、そっとサリームの手に触れた。冷たい指先が、砂に触れるよりも柔らかく温かかった。「行きましょう」
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聖域の扉、揺らぐ記憶

神殿の扉が静かに開いた。夜明けの淡い光が一筋、石畳にすべり落ちる。サリームは一歩ずつ、冷たい空気のなかに足を踏み入れる。石階段は彼の足音を吸い込み、奥へ奥へと誘っていく。壁には古い壁画が刻まれている。月と星、獣と踊り子、かつてここで捧げられた数多の祈りと嘆きが染みついていた。その空気は、思い出に満ちていた。サリームの脳裏に、過去の儀式の光景がふいに甦る。あの晩、ザイードは白い布をまとい、この階段をゆっくりと昇った。祈りの香と人々のざわめき、そして静寂の中心にあった、ふたりだけの視線の交わり。王冠を戴く前の自分。愛を知り、しかしその愛を告げることさえ恐れていた自分。サリームの肩がわずかに震える。背後からアミールの気配がそっと寄り添う。兄がこの石段を昇った夜、アミールはどこで何を思っていたのだろう。王の胸の奥では、そんな疑問が微かに疼く。アミールもまた、石壁に残る香のしみついた匂いに、兄の声を思い出していた。この神殿で、兄は王にすべてを託し、そして命を落とした。痛みが、歩を進めるたびに増していく。階段を一段昇るごとに、空気が冷たく変わる。壁画の獣の目が、どこかでこちらを見つめているようだった。遠く、祭壇のほうから祈りの声が微かに響く。それは過去の音なのか、現実なのか、もはや分からない。サリームは壁に指先をそっと這わせた。冷たい石の感触が、確かに現実のものであることを教えてくれる。けれど、その感触の奥に、記憶が重なり合う。ザイードの手の温かさ、最後に交わしたまなざし。あの時、何を伝えられていたのか。何を見失ったのか。今になって、すべてが曖昧な影となって揺れている。アミールは階段の途中でふと立ち止まった。兄の気配がこの石に残されている気がした。祈りの声が、彼の耳にも染み込んでくる。王と兄の間にあったもの。それは誰にも踏み込めない聖域のようなものだったのかもしれない。だが今は、同じ場所で、王と自分がこの痛みを分かち合っている。サリームが突然、息を呑んだ。自分の中の記憶と、いま目の前にある現実が、重な
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バハールの啓示

神殿の最奥は、静謐と冷たさが満ちていた。石の床には幾何学の紋様が薄く刻まれ、天井からは淡い光が帯のように降りている。その中央に、白い衣を纏った巫女が静かに佇んでいた。バハール。銀の鈴を手首に巻き、目元には長い睫毛の影を落としている。サリームとアミールが足を止めると、バハールは何も言わずに二人を見つめた。その瞳は、すべてを見透かすような深い静けさを湛えていた。王の手首の痣が、再び鈍く脈動する。それを見て、バハールはゆっくりと近づき、銀の鈴を静かに鳴らす。「その痣は、ただの呪いではありません」澄んだ声が、聖域の空気を震わせた。サリームは思わず手首を隠した。心臓が急く。バハールの視線は痣に注がれ、やがて二人のあいだに静かな水面のような間が広がる。「過去を見つめ直すことなくして、呪いは終わりません」「ザイードを愛した夜の真実を、あなたは本当に覚えていますか」サリームの呼吸が止まる。記憶のなかのザイードは、裏切りと絶望の影だけをまとっていた。だがバハールの言葉は、それをひとつずつ剥がしていく。「あなたが信じた“裏切り”は、ほんとうに真実でしたか」サリームは言葉を失った。自分がザイードを許せなかったのは、彼が自分を裏切ったと思い込んでいたからだ。愛が呪いに変わる瞬間を、誰よりも恐れていた。だが、その記憶はあまりにも曖昧で、どこかが歪んでいた。バハールはアミールのほうにも視線を向ける。アミールは身を強ばらせて立っていた。兄のこと、王のこと、あの夜のこと。知らないはずの記憶が胸の奥で疼いていた。「ザイードは裏切ってはいません」「あなたを守るために、すべてを呑み込んだのです」バハールの声は柔らかく、しかし抗えない力を持っていた。「最後の夜、ザイードは祈っていました。王の名を、何度も何度も呼びながら」「赦しを乞うのではなく、ただ生きてほしいと…愛が呪いに変わらないようにと」「けれど、あなたは自分の傷を恐れ、その声
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階段を下りる者たち

神殿の奥に静けさが戻った。淡い光の帯が床を撫で、冷たい石の壁に溶けていく。サリームはしばしその場に立ち尽くし、胸に残る震えを押しとどめていた。バハールの姿はもう見えない。聖水の瓶だけが、床に仄かな銀色の影を落としていた。アミールの横顔が、ほのかな光の中で浮かび上がっている。彼の瞳には涙の名残があった。けれど、その表情は不思議と澄んでいた。痛みと安堵が折り重なり、まるでひとつの物語の終わりと始まりが同時にそこにあるようだった。サリームは深く息を吸い込む。過去は変えられない。だが、それを認めて生きていくことなら、今からでも始められるのではないか。自分の記憶が歪みを生み、愛を呪いへと変えてしまったのなら、今ここからもう一度、違う形で愛を選び直すことはできるのだろうか。沈黙のまま、サリームはアミールに手を伸ばした。アミールは迷うことなく、その手を受け取る。二人の指が絡み合い、冷えた石の感触のなかに、微かな温もりが生まれる。ゆっくりと階段を下り始める。祭壇の聖域から、石段を一段ずつ。昇ってきたときとは違う、わずかに軽くなった歩み。足元に朝焼けの色が差し込む。薄紅色の光が、ふたりの影を長く伸ばしていく。階段を降りるたび、サリームの胸にひとつずつ新しい感情が芽生えていく。哀しみも、後悔も、安堵も、すべてが確かに自分のものだと受け止めることができる気がした。横を歩くアミールもまた、心のどこかに新たな灯りを抱えているようだった。「…行こう」サリームが呟く。アミールは小さくうなずき、ふたりの歩調は自然と重なる。門へと向かう途中、壁に刻まれた古い祈りの文字が淡く浮かび上がり、過ぎ去った夜を見送っている。神殿の門が、朝の光を受けて静かに開く。外には広大な砂漠と、昇り始めた太陽が待っていた。朝焼けがすべてを照らし出し、砂の一粒一粒さえも色づいて見える。ふたりは門をくぐり抜け、まだ冷たさの残る砂の上に立った。サリームは立ち止まり、アミールの手をもう一度しっかりと握り直す。その手はこれまでより少し強く、けれど優しかった。「私は…あなたとここから始めたい」声は微かに震えていたが、嘘はなかった
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-09-21
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沈黙の檻を破る

夜が深まるにつれ、王宮の廊下はしんと静まり返っていた。アミールは自室の窓辺に腰かけ、闇の底から湧き上がるような孤独に身を任せていた。窓の外には、かすかな月の光が中庭の石畳に模様を描いている。誰もいないはずの廊下から、時折風の音が微かに響いては消えた。手元の鏡に、ぼんやりと自分の顔が映る。蝋燭の炎が揺れ、そのたび影も揺れる。鏡のなかの自分は、どこか他人のようだった。目の奥に宿る翳りも、口元に残る震えも、自分のものだと信じきれない。ザイードの弟。王の語り部。代わりでしかなかった。そう思い込むことで、ずっと何かを守ってきた気がしていた。だが、それが何だったのか、もううまく思い出せない。王の寝顔や、苦しむ手首、夜ごとの対話が胸の奥で何度も反芻される。王が自分を見るたび、どこか遠い場所を見ている気がした。兄の影を通してしか見られていないのではないか。それでも、王の苦しみを和らげたいと願う気持ちは消えなかった。アミールは静かに目を閉じた。語り手として、王に物語を捧げてきた日々。そのすべてが、兄の死に絡め取られていた。「救いたい」と願うたび、自分が“誰かのための犠牲”でいることに安堵していたのかもしれない。語ることで自分を隠し、仮面のままで王のそばにいたかっただけなのかもしれない。月の光が鏡の端に反射し、壁に淡い斑模様を落とす。自分は何のために、王のそばにいたのか。何を伝えたいのか。誰かの代理としてではなく、「アミール」として、ただひとりの自分として、王に何を届けられるのか。部屋の片隅には、かつて兄が残した仮面が置かれていた。それは、彼がまだ生きていたころ使っていたものだ。手に取ると、仮面の裏には古い汗の匂いが微かに残っていた。兄のものとして受け継ぎ、身につけていたはずのそれが、いまは異物のように感じられる。王は、兄ではなく「自分」を見ているのか。自分は、兄の影のまま王を愛し続けるのか。蝋燭の火が小さく揺れた。アミールはその炎を見つめ、静かに自分の胸に手を当てる。これまでの沈黙は、語り手としての役割と、兄の代理としての自己犠牲が混ざり合っ
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-09-22
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王の問い、揺れる心

王の部屋には、夜の静けさが満ちていた。蝋燭の炎が細く揺れ、窓の向こうの闇がカーテン越しに淡く透けている。呼び出しに応じて扉を叩くと、すぐにサリームの声が響いた。「入れ」アミールは少し躊躇してから扉を開けた。王は窓辺の椅子に腰掛け、遠い夜空を眺めていた。その背中に、いくつもの夜の重みが降り積もっているように見えた。扉が静かに閉じられると、蝋燭の灯だけが部屋を照らす。サリームが椅子をひとつアミールのほうへ引き寄せた。「座れ」短い言葉の中に、どこか探るような柔らかさがあった。アミールはゆっくりと椅子に腰を下ろす。二人の間に小さな卓が置かれ、その上で蝋燭が炎を揺らしていた。しばし沈黙が続く。窓の外から微かな風が入り込み、カーテンを揺らす。そのたびに炎が細くなり、二人の影を壁に映し出す。サリームが口を開いた。「おまえが私のそばにいるのは…兄の代わりだからか」その声は低く、揺れていた。アミールは心臓を強く握られたような痛みを感じる。答えようとした言葉が、喉の奥で絡まり、形にならない。「私は、何も知らないままおまえに頼りきっていた。だが、あの夜のあと…自分が何を見てきたのかも曖昧だ」サリームの視線が、蝋燭の先に落ちる。その横顔には、疑いと同時にどうしようもない渇きが見えていた。「おまえはザイードの影なのか。それとも…」言葉が途切れる。アミールは、卓の上で自分の手を強く握る。蝋燭の灯が指の節を照らす。自分が今ここに座っているのは、兄の代わりだからなのか。語り部であることを、王のそばにいる理由にしてきたのではないか。胸の奥で、どうしようもない自己疑念が渦巻く。「私は…」声が震える。王の目を、真正面から見ることができない。けれど、どうしても自分を見てほしかった。兄の影ではなく、「私」として。「私は…ザイードの弟です。でも、ただそれだけではありません」ようやく搾り出した声は、頼りなく揺れていた。サリームが、かすかに息を吐く。その音に、
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名を告げる夜

夜半。王の寝室は、ほの暗い蝋燭の灯だけが壁にゆらめきを落としていた。窓の外では風が止み、静けさが世界のすべてを包み込んでいる。アミールは胸の奥に灯る決意だけを頼りに、王の部屋の扉をそっと叩いた。「入れ」サリームの声は落ち着いていたが、どこか翳りを帯びていた。アミールは扉を開けると、王が寝台の端に腰掛け、膝に手を置いたまま沈黙しているのを見つけた。その横顔は蝋燭の炎に照らされて、影が深く落ちていた。部屋に入ると、アミールはゆっくりと扉を閉めた。蝋燭の炎が微かに揺れ、部屋の空気に緊張と期待が交錯する。「今夜は…話がしたいのです」王は黙ってうなずいた。その眼差しには、かすかな警戒と期待が入り混じっている。アミールは寝台の近くに立ち、しばし言葉を探す。やがて、唇を噛みしめてから、ゆっくりと語りはじめた。「私は、ずっと兄のことを背負ってきました。あなたの隣にいるときも、語り部でいるときも、兄の影をまとったまま…あなたと向き合っていました」言葉にすると、胸の奥がひりひりと痛んだ。蝋燭の光がアミールの頬を照らし、涙の気配がそこに滲む。「兄の死は、私にとって…ずっと癒えない傷でした。あなたのなかに兄の影を見るたび、私はその痛みから逃げられなかった」アミールは拳をぎゅっと握りしめる。「でも、今夜は違います。私はあなたに、初めて自分の言葉で語りたい」サリームは息を呑み、まっすぐアミールを見つめた。その視線に押されるように、アミールはさらに踏み込む。「私は、あなたのことを…“自分自身の愛”として選びたい。兄の代わりでもなく、語り部でもなく、ただ私として。私はあなたを愛しています。兄の影からも、自己犠牲からも、もう解放されたい」声は震えていたが、そこには隠しようのない強さがあった。蝋燭の炎が大きく揺れ、ふたりの影が壁に重なり合う。サリームは驚きに目を見開き、次いで何かをこらえるようにまぶたを閉じた。心臓の奥が揺さぶられ、言葉がすぐには出てこない。アミールの声だけが、静寂のなかに透明な響
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-09-23
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語りの終わり、始まりの夜明け

夜の深みが、ふたりを静かに包んでいた。寝台の上で、アミールの身体がサリームの腕の中にある。蝋燭の灯はすでに尽き、窓の外から夜明け前のかすかな光が差し込む。重なり合ったふたつの影は、静かに、しかし確かにひとつになろうとしていた。サリームの指先が、アミールの頬をそっと撫でる。濡れたまつ毛に唇が触れる。アミールの身体は小さく震え、息が浅くなっていく。「……怖いか」サリームが低く問いかける。アミールは首を横に振り、微笑む。「いいえ。あなたと一緒なら、何も怖くない」その言葉に、サリームは少しだけ目を細めた。手のひらでアミールの髪を梳く。そのまま、ゆっくりと彼の唇を塞いだ。アミールは素直に受け入れ、舌が触れ合うと、胸の奥にまで熱が流れ込んできた。夜明けが近づいているはずなのに、ふたりだけの世界には夜の静寂がまだ濃く残っている。アミールはサリームの背に腕を回し、指先で王の背骨の形を確かめる。「……サリーム、触れて」囁きはかすれ、熱を帯びていた。サリームはそれに応えるように、ゆっくりとアミールの肌を撫で、太腿から腰へ、背中を伝って愛撫する。触れ合うたび、互いの身体から湧き上がるものが溢れて、沈黙の檻が音を立てて崩れていく。アミールは自分が泣いているのか、喘いでいるのかさえ分からなくなる。ただサリームの名前を、心の中で何度も繰り返す。「見て、私を……あなたのものにして」サリームは静かに頷き、ふたりの指を絡める。そのまま深く繋がり、アミールの中へと沈んでいく。呼吸が乱れ、吐息と喘ぎが夜の静けさを震わせる。「アミール……」その声は、もう決して兄の影をなぞるものではなかった。今ここにいる、アミールというただひとりの存在への呼びかけ。アミールはその名を受け取り、涙を流しながらサリームにしがみつく。快楽と幸福がいっしょくたになって押し寄せ、思考が白く溶けていく。「サリーム、もっと…&helli
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