悠人は謙太の皿に焼きたてのトーストを一枚のせた。「いいから、早く朝ごはんを食べなさい」謙太は素直にトーストをかじり、案の定、先ほどの疑問などすっかり忘れてしまった。智美は席につきながら尋ねた。「お義兄さんとお義姉さんは?」すると、謙太が真っ先に答えた。「今日はパパとママの結婚記念日なんだって。昨日の夜、もうバリ島に旅行に行っちゃったよ。明後日には帰ってくるって言ってた」それを聞いて、智美はようやく思い出した。そういえば数日前、美穂が楽しそうにそんな話をしていた。悠人はトーストを一枚取り、丁寧にジャムを塗ってから智美の皿へ置いた。「俺たちの結婚記念日も、どこか旅行に行こう。君の行きたい場所があるなら、世界中どこでもいい」智美は思わず笑ってしまった。何も兄夫婦とそんなところまで張り合わなくてもいいのに。「私たち、二人とも目が回るほど忙しいでしょう?その日は、美味しい食事でもしてお祝いできれば十分よ」時々、悠人は智美のほうが自分以上に仕事人間なのではないかと呆れることがある。とはいえ、彼女に特別な希望がないのなら、その時は自分が先にすべて手配してしまえばいい――悠人は密かにそんなふうに考えた。朝食を終えると、悠人は智美を会社まで車で送っていった。車がオフィスビルの前に着き、まだ智美が降りる前だというのに、一人の女性が慌てて駆け寄ってきた。香月だ。「智美さん、足元に気をつけてくださいね」そう言って、彼女は過保護なほど丁寧に智美の腕を取ろうとした。智美はゆっくりと車を降りながら苦笑した。「そんなに大げさにしなくても大丈夫よ。一人でちゃんと降りられるから」香月はにっこりと愛想よく微笑む。「そんなわけないですよ。智美さんはいま妊娠中なんですから、壊れ物よりも大事に扱わなきゃいけないくらいなんですよ」智美が車を降りると、悠人も運転席から降りてきた。その手には智美のバッグが握られている。香月はすぐさまそのバッグに手を伸ばした。「岡田社長、智美さんのバッグ、私が持ちます」悠人は何も言わず、そのまま無造作に彼女にバッグを渡した。すると香月は、唐突に自分のバッグから数枚のデザイン画を取り出し、悠人に向かって差し出した。「前に智美さんからベビールームを準備していると伺ったので、デザイナーの友達
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