เข้าสู่ระบบ誰と共に生きるかで、人生の彩りはこんなにも変わる。悠人がそばにいてくれるだけで、智美の心はいつも穏やかな幸福感で満たされていた。オークションが始まり、恵美梨が脚光を浴びるように壇上に上がった。もともと社交的で話も上手く、彼女の顔の広さも手伝って、開始後は多くの人が積極的に入札していく。やがて、ふと智美の視線が、古雅な青磁蓮唐草文瓶でぴたりと止まった。骨董を愛する義母が喜ぶに違いないと思い、落札して贈り物にしようと決める。静かにパドルを掲げる。すると直後、後ろの席から誰かが間髪入れずに二百万上乗せした。振り返ると、競ってきたのは茉祐子だった。こちらの視線に気づいた茉祐子は、挑発的な笑みを向けてくる。智美の胸の奥に、じわりと冷たい不快感が広がった。もう結婚して子どももいるというのに、まだ自分に張り合ってくるつもりなのか。諦めが悪いにもほどがある。だからといって、譲る気など毛頭なかった。義母のために気に入ったのだから、必ず手に入れる。智美がパドルを掲げ、一気に六百万上乗せすると、茉祐子も目を血走らせてさらに値を上げた。意地の張り合いで、あっという間に花瓶の値段は三倍にまで膨れ上がる。さすがにそこまでの価値はないと冷静に判断し、智美はふっと息を吐いてパドルを下ろした。そのとき、まるで二人の争いを見計らっていたかのように、前方にいた男性がすっとパドルを掲げた。張り合っていた智美が降りたのを見て興味を失ったのか、茉祐子もあっさりとパドルを下げる。結果、花瓶はその男性に見事落札された。智美は花瓶にちらりと未練の視線を向けたが、小さく息をついて気持ちを切り替えた。義母への贈り物は他を探せばいい――そう割り切ってしまえば、胸の内のさざ波はすぐに穏やかになった。ところが、落札したその男性がなぜか智美のそばへ歩み寄ってきた。「岡田家の若奥様。先ほど、あなたがこちらの花瓶をご所望だとお見受けしましたので、私からぜひお譲りしたいと思いまして」突然の申し出に、智美は驚いて彼を見た。「あなたは?」記憶の糸をたぐっても見覚えのない顔だった。相手は智美の警戒する表情を見て、揉み手をしながら慌てて名乗る。「宮原(みやはら)と申します。以前、岡田社長とお仕事のご縁をいただいたことがございまして。若奥様からひと言添えていただければ、これほどありが
華やかなオークション会場で、人気絶頂の香代子のもとには、着飾った若い令嬢たちが次々と駆け寄っては弾んだ声でサインをねだっていた。香代子は嫌な顔ひとつせず、誰ひとり断ることなく丁寧に対応し、写真撮影にも快く応じている。その熱狂が一段落したのを見計らい、智美がそっと近づいて、目を細めてからかうように言った。「この格式高い会場が、すっかりあなたのファンミーティングになっているじゃない。すごい人気ね」「もう、からかわないでよ!」香代子は智美の手の甲を軽く叩いた。パーティがはじまるまでのひととき、二人は並んで席に腰を下ろし、のんびりとおしゃべりを楽しんでいた。そこへ、水を差すようにこちらへ向かってくる人影があった。「――香代子」振り返ると、そこに立っていたのは拓郎だった。今日の彼は仕立ての良いスーツにネクタイを締め、いかにも意気揚々として、顔には隠しきれない優越感を滲ませている。香代子はすっと眉をひそめた。とっくに専属契約を解除したというのに、まだ絡んでくるつもりなのだろうか。「お前と解約したあと、運よく太っ腹なスポンサーがついてさ。新しくプロダクションを立ち上げたんだよ」拓郎は得意満面にぺらぺらと語り始めた。「才能ある新人も何人か契約したし、この俺の手腕があればすぐに業界で頭角を現すはずさ。それより、お前はどうするつもりなんだ?香代子、この業界はそんなに甘くないぜ。俺のところにいた時は、一番いい仕事を常にお前に回してやってたのに。他のプロダクションに移ったところで、向こうには最優先で売り出したい看板タレントがいる。お前なんかをわざわざ特別扱いしてくれるとは思わない方がいい。かといって小さな会社に行けば、じわじわと埋没していくだけさ。実力があるのは大事だが、うまく売り出せる有能なマネージャーがいなければ意味がない。実力派と呼ばれながら、気づけば誰の記憶からも消えていった連中を、お前だって嫌というほど見てきただろう?」胸の奥の苛立ちをどうにか呑み込み、香代子は智美の手をぎゅっと握って毅然と言い放った。「余計なお世話よ。私は、ここにいる智美さんと一緒に新しいプロダクションを立ち上げるつもりなの。自分の仕事は自分で決めるわ。もう誰かの言いなりになるつもりはないの」拓郎は智美を胡乱な目でちらりと見て、ふん、と鼻で笑った。
智美は昼休みを使ってその膨大な資料を丁寧に読み込み、重要な箇所にマーカーを引いて要点をノートにまとめた。そして、そのノートを手に香代子との話し合いに臨んだ。二人とも決断が早く、仕事のペースが合う。共同経営の枠組みはあっという間に形になり、細かな取り決めを正式な契約書に落とし込むため、すぐに弁護士も手配した。いくら気心の知れた親友とはいえ、後々金銭や権利で揉めるくらいなら、最初からすべて明文化しておくべきだ。それが二人の共通の認識だった。悠人の紹介もあり、羽弥市で指折りの腕利き弁護士に、新会社の法律顧問を引き受けてもらうことになった。打ち合わせを終えると、香代子が茶目っ気たっぷりにからかった。「てっきり、悠人さんが顧問弁護士を引き受けてくれるのかと思っていたわ!」智美は小さく苦笑した。「彼もそう言ってくれたんだけど、私が断ったのよ。これから長く一緒に続けていく仕事だし、実務的な細かい話も山のように出てくるでしょ。仕事の面でも彼に頼りっぱなしにしたら、家でも気が休まらないじゃない」「なんだかんだ言って、ちゃんと旦那様の体を気遣っているじゃない。はいはい、ご馳走様!」軽口を叩きながらも、香代子の瞳には少しだけ羨望の色が滲んでいた。自分の夫も決して悪い人ではないが、こと仕事に関してはまったく頼りにならない。結局のところ、いつも自分の力だけで道を切り開くしかなかったからだ。智美はふと思い出したように話を切り出した。「そうそう、前の事務所との契約解除の件だけど、こっちの弁護士を紹介しようかと思っていたの」「ああ、それならもう大丈夫よ。昨日の夜、急に毛利から連絡があってね。すんなりと契約解除に同意してくれたの」「急に?どうしてかしら」「最初は違約金として六十億円払えなんてふざけたことを言ってきたから、さすがの私も怒鳴り返してやったわ。すったもんだの末に、結局は六億円で折り合いをつけたの」「六億……それでも相当な痛手ね。裁判に持ち込めば、もう少し金額を抑えられたかもしれないのに」香代子はふうっと短くため息をついた。「これ以上、あんな男に振り回されたくなかったのよ。いつまでも係争中の身では新しいステップへ進めないし、何年も一緒に仕事をしてきた相手と、泥沼化して後味の悪い思いはしたくなかったから。高い手切れ金になったけれど、これでよか
香代子とマネジメント会社を共同で立ち上げると決めてから、智美は本腰を入れて準備に取りかかっていた。とはいえ、芸能マネジメントの世界は彼女にとってまったく未知の領域である。ならば、一つ屋根の下に一番頼れる人物がいる。夫から経営のノウハウを借りればいいのだ。その夜。寝室に戻ってきた悠人が目にしたのは、分厚い芸能マネジメントの専門書を広げ、傍らに経営学の本を何冊も積み上げて読み耽る智美の姿だった。悠人はかすかに片眉を上げ、さりげない仕草で腕時計を外しながらネクタイを解いた。「また何か、新しいことを始めようとしているのか?」もうすぐ母親になろうという身で、これほどまでに仕事への意欲を燃やしているとは。智美は手元の本を置き、目を輝かせて悠人を見上げた。「お帰りなさい。ちょうどよかったわ、少し聞きたいことがあったの」「何だ?」「志賀香代子さんが今のマネージャーと契約を解除することになってね。私と一緒にマネジメント会社を立ち上げたいって言ってくれたの。私も、一緒にやってみようかと思って」悠人は少し眉を寄せた。「芸術教室の運営と芸能マネジメントでは、勝手が違う。分野が違いすぎるが、本当にやれるのか?」だからといって、彼女の挑戦を頭ごなしに否定するつもりは毛頭なかった。外の世界では、智美について心ない噂が流れたこともあった。広報に命じて火消しをさせてきたが、本人の耳に入れば心を痛めるだろう。だからこそ悠人は、事業を成功させることで彼女に揺るぎない自信を与えたいと考えていた。それに、智美は悠人のために住み慣れた大桐市を離れ、この羽弥市での生活に懸命に馴染もうと努力してくれている。羽弥市に自分の打ち込める仕事があれば、彼女はいずれこの街を、本当の居場所として愛せるようになるはずだ。悠人はしばらく思案した後、智美が広げていた本をそっと閉じた。「こういう市販の本は、あまり実務の役には立たない。情報が古く、今の市場の実態と乖離しているものが多いからな。アシスタントに頼んで、現場で使える最新のデータをまとめさせよう。二日後には手元に届くように手配する。君はそれを読めばいい。それから、芸能関係の会食には、これから君も同席させる。この業界で生き残っていけるかどうかは、結局のところ人脈と繋がりがすべてだからな」悠人はただでさえ
ふと思い出したように、香代子が智美に忠告した。「ここ数日、上流階級のゴシップ記事を追っていたんだけど、智美を悪く書いたニュースを何本か見かけたの。でも、出るそばから消されていたわ。たぶん、あなたの旦那さんの会社の広報が動いたんでしょうね。きっと今の立場を妬んでいる人がいるのよ。智美も気をつけてね。変なふうに利用されたり、陥れられたりしないように」智美は静かにうなずいた。「ええ、わかっているわ」自分が周囲からどう見られているかくらい、智美自身が一番よくわかっていた。再婚の身で、家柄もごく普通。ただ容姿に恵まれていただけで、まんまと玉の輿に乗った――外から見れば、きっとそんなふうに映っているのだろう。そして、誰もがこう考えるのだ。智美にできたのなら、自分にもできるかもしれない、と。けれど、そうした嫉妬の視線やどす黒い思惑を、智美はさして気にしていなかった。今の彼女は、自分の意識のほとんどを仕事へと向けている。愛する人と穏やかに暮らし、幸せな結婚生活を送れるなら、それはもちろん素晴らしいことだ。けれど、もしこの先、悠人との関係に何らかの変化が訪れたとしても、その時の自分には、打ち込める仕事がある。彼と結婚したからといって、自分の人生を彼一人に委ねるつもりなど毛頭なかった。その時、香代子のスマホが鳴った。彼女は通話に応じると、電話越しの長話を聞きながら、次第にうんざりしたように顔をしかめた。「……ええ、そうよ。契約を切りたいのは私よ。これからは個人事務所を立ち上げるつもりだし、今後の仕事に誰かが口を出す必要はないわ……親戚のおじさんに私のマネージャーをやらせる?そんなの、考えるだけ時間の無駄よ」電話を切ると、香代子は腹立たしげにミネラルウォーターを一気に煽った。智美は不思議そうに彼女を見つめた。「どうしたの?」香代子は、いかにも呆れ果てたように肩をすくめた。「毛利が母に、私が契約を解除したがっていることを告げ口したのよ。母は猛反対していて、さっきの電話も私を説得するためだったわ。もちろん、きっぱりと断ったけれど。そしたら今度は、親戚のおじさんを私のマネージャーに据えたらどうかなんて言い出して……そんなの、冗談じゃないわ」そこで彼女は、あからさまに嫌悪感をあらわにして顔をしかめた。「あ
「香代子、いい加減にしろ!まだ無名だった頃、誰が拾ってやったと思ってる?仕事がない時、あちこち頭を下げてお前のために仕事を取ってきたのは誰だ!」荒々しい怒声が、ドア越しにもはっきり響いていた。「恋愛に溺れて、しかも元彼には足を引っ張られて、何度も仕事を失いかけただろ。そのたびに泥を被って、お前のキャリアを守ってきたのは俺だぞ。それなのに今さら恩知らずみたいに、契約解除したいだなんて、どういうつもりだ!」対する香代子は、冷ややかに言い返した。「ええ、そこは感謝してる。あなたがずっと私を見捨てず、仕事の面でも支えてくれたことには、本当に感謝してるわ。でも、私に黙って勝手に交わした無茶なノルマの契約について、私は一度でもあなたを責めた?あの契約を達成するために、この十年、毎日必死で働いてきた。四十度の高熱があっても、雨の中でコンサートをやりきったことだってある」香代子の声には、抑えきれない疲労と怒りが滲んでいた。「毎日あちこち飛び回って、一秒だって気を抜けなかった。どんな地方営業を取ってきても、私は全部引き受けた。狂信的なファンが車にしがみついてきても、ホテルの部屋に潜り込まれても、あなたは『相手は大口の支援者だから、大事にするな、警察には言うな』って、いつもそう言ったでしょう?私は全部我慢したわ。でもそのせいで、こっちはもう精神的に限界だったのよ。最近あなたが取ってくる仕事なんて、なおさら耐えられない。私はただ歌いたいだけなの。別の分野にまで手を広げたいわけじゃない。はっきり言うけど、もうあなたは私のマネージャーには向いてない。考え方が違いすぎるのよ。だから、ここで契約を終わりにしましょう」するとマネージャーの毛利拓郎(もうり たくろう)は、怒りをあらわにした。「俺と契約を切ったら、違約金がいくらになるかわかってるのか?香代子、お前には本当に失望したよ。二人でここまで這い上がってきたのに、お前は今さら俺を裏切るのか。更新しないってことは、もう次の移籍先でも決まってるんじゃないのか?今の俺の人脈と立場があれば、お前一人くらい業界から干すことだってできる。それなりの代償を払う覚悟はできてるんだろうな?」結局、二人の話し合いは決裂した。拓郎はドアを激しく閉め、怒りに任せて部屋を出ていった。智美はしばらく外で待
薫は肩をすくめた。「私はあなたが想像するようなウブな女じゃないの。私が愛しているのは、彼のお金よ。まあ、少しは彼本人を好きかもしれないし、捨てられたことに納得できない意地もあるけど……でも、自分が何を求めているかは、よく分かってるわ」智美は彼女の考え方を理解できなかったが、それをとやかく言う筋合いもなかった。「そう。なら、あなたがそれで幸せなら良いわ」そのとき、悠人が智美を探しに来た。ほとんど同じ二つの顔が並んでいても、悠人は一瞬たりとも迷うことなく、まっすぐ智美の方へ歩いてきた。薫は少し気になって尋ねた。「私、あなたの彼女にそっくりだと思わない?」悠人は彼女を目もくれ
千夏は羽弥市に帰ることを拒んだが、最終的には森下氏が自ら大桐市まで迎えに来て、彼女を無理やり連れ戻した。帰りの飛行機の中で、千夏は不満そうに森下氏に言った。「お父さんは、私の幸せを望んでくれないの?」森下氏は頭を抱えながら千夏を見た。悠人から電話があったとき、その口調はこの上なく冷たかった。千夏を教育できないなら、両家の付き合いもこれまでだ、と。千夏がまた暴走して問題を起こすのを恐れ、自分が直接来るしかなかったのだ。今回、彼も腹を決めていた。「千夏、お前と悠人くんのことはきっぱり諦めろ。叔父さんたちと一緒に、良さそうな青年を何人か選んである。帰ったらお見合いを始めるんだ
薫は、納得がいかないとばかりに渡辺グループに乗り込み、何度か騒ぎを起こした。祐介は千尋の機嫌を取るため、薫の頬を打ち、警備員に命じて彼女を追い出させた。千尋は上機嫌だった。渡辺グループの社員たちから「社長夫人」と呼ばれることは、彼女の自尊心を大いに満たした。これは、かつて智美でさえ受けることができなかった待遇だ。これで、ようやく智美に勝った。少なくとも今、祐介に認められている女性は、自分だけなのだから。……悠人は海知市への出張から戻り、智美を夕食に誘った。二人は食事を終えた後、ゆっくりと散歩しながら帰った。道すがら、悠人が智美に言った。「金曜日にチャリティオ
千夏から送られてきた写真を目にした瞬間、悠人は車に飛び乗り、渡辺家の別荘へとアクセルを踏み込んだ。智美を、祐介と二人きりにしてはおけない。あの男は、狂っている。その歪んだ執着で、これまで何度も智美を傷つけてきた。渡辺家の前に車を停め、悠人は呼び鈴を押し続けた。祐介は電話を終えたばかりのタイミングで、その騒々しい音を耳にした。今日は山内が休みだ。自分で出るしかないと、忌々しげに玄関へ向かった。そこに立つ悠人の姿を捉え、祐介の瞳が昏い光を宿した。「渡辺祐介、智美はここにいるんだろうな?」「ここにいたら、何だ?」祐介は唇の端を吊り上げ、嘲るような笑みを浮かべた。「噂で







