華やかなオークション会場で、人気絶頂の香代子のもとには、着飾った若い令嬢たちが次々と駆け寄っては弾んだ声でサインをねだっていた。香代子は嫌な顔ひとつせず、誰ひとり断ることなく丁寧に対応し、写真撮影にも快く応じている。その熱狂が一段落したのを見計らい、智美がそっと近づいて、目を細めてからかうように言った。「この格式高い会場が、すっかりあなたのファンミーティングになっているじゃない。すごい人気ね」「もう、からかわないでよ!」香代子は智美の手の甲を軽く叩いた。パーティがはじまるまでのひととき、二人は並んで席に腰を下ろし、のんびりとおしゃべりを楽しんでいた。そこへ、水を差すようにこちらへ向かってくる人影があった。「――香代子」振り返ると、そこに立っていたのは拓郎だった。今日の彼は仕立ての良いスーツにネクタイを締め、いかにも意気揚々として、顔には隠しきれない優越感を滲ませている。香代子はすっと眉をひそめた。とっくに専属契約を解除したというのに、まだ絡んでくるつもりなのだろうか。「お前と解約したあと、運よく太っ腹なスポンサーがついてさ。新しくプロダクションを立ち上げたんだよ」拓郎は得意満面にぺらぺらと語り始めた。「才能ある新人も何人か契約したし、この俺の手腕があればすぐに業界で頭角を現すはずさ。それより、お前はどうするつもりなんだ?香代子、この業界はそんなに甘くないぜ。俺のところにいた時は、一番いい仕事を常にお前に回してやってたのに。他のプロダクションに移ったところで、向こうには最優先で売り出したい看板タレントがいる。お前なんかをわざわざ特別扱いしてくれるとは思わない方がいい。かといって小さな会社に行けば、じわじわと埋没していくだけさ。実力があるのは大事だが、うまく売り出せる有能なマネージャーがいなければ意味がない。実力派と呼ばれながら、気づけば誰の記憶からも消えていった連中を、お前だって嫌というほど見てきただろう?」胸の奥の苛立ちをどうにか呑み込み、香代子は智美の手をぎゅっと握って毅然と言い放った。「余計なお世話よ。私は、ここにいる智美さんと一緒に新しいプロダクションを立ち上げるつもりなの。自分の仕事は自分で決めるわ。もう誰かの言いなりになるつもりはないの」拓郎は智美を胡乱な目でちらりと見て、ふん、と鼻で笑った。
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