All Chapters of 舞い落ちる雪の中に会おう: Chapter 21 - Chapter 30

「指輪も、あの品々も、そして、あなたも、そうだったんだな」和希の決然とした言葉を聞いて、信吾の息遣いが急に荒くなった。うつむいたまま、手が不自然に震えている。勝巳が彼の後ろに立ち、何か過激な行動に出ないかと、じっと見つめていた。「わかったよ、間違いだったんだ、和希」信吾はかすれた声で言った。声を詰まらせて、続けた。「あいつらには、代償を払わせたんだ」和希は眉をひそめ、真剣な口調で言った。「言ったでしょう、信吾、私は離れるって」信吾が突然顔を上げた。涙が止まらず、目を真っ赤にして、声を絞り出すように叫んだ。「死んじゃうんだよ！和希、俺、長くは生きられないんだ。頼む、哀れんでくれていいじゃないか？」しかし、和希は首を振った。その声は冷たく、ほんの少しも揺らぐことはなかった。「勝巳は言ってたわ、病気は治るって。ただ、自分が治そうとしないだけだって」彼女は風鈴をそっと揺らした。「それに、あなたが死のうと生きようと、本当に、私には関係のないことよ」信吾は無数の可能性を想像していた。和希が自分を恨むなら、彼女の気が済むことなら何でもしよう、そう考えていた。だが、自分の生死さえも和希が気にかけなくなるとは、夢にも思わなかった。彼女が自分を見る目には、恨みはおろか、愛のかけらすらなかった。和希の前で、信吾は今、彼女が時折揺らす風鈴にも劣る存在だった。風鈴は少なくとも彼女の注意を引くことはできたが、信吾には何一つ得るものはなかった。「過ぎたことは水に流しましょう。あなたが私を騙した。私もあなたを騙した。これで終わりよ」和希の声は風のように通り過ぎた。しかし信吾は今、まるで風鈴のようだった。彼女の一言一言に、震え、揺さぶられたのだ。信吾は断固として首を振った。「終わりにできない」彼は繰り返した。「絶対、終わりにできないんだ」とうとう勝巳が見かねて、信吾が和希に近づこうとする腕を遮った。和希が顔を上げて勝巳を見ると、勝巳もちょうど彼女を見ていた。いつもは春風のように穏やかなその顔に、今は怒りが浮かんでいる。結局、信吾は去っていった。気まずく、決して見苦しくはないとは言えない形で。勝巳の顔には、そのせいで傷がついていた。和希は、自分の傷に薬を塗る勝巳の無様な姿を見て、気まずくなった。そして自ら進んで手伝いを申し出た

小林は立ち去る前に、勇気を振り絞って和希に会いに行った。彼は彼女の前に立ち、頭を低くして、信吾がこの数日間で見せた様々な様子を事細かに報告した。「奥様、お怒りになるのは当然です。でも、社長は本当に過ちに気づいています」小林の声には誠実さが満ちていた。「最近、社長の状態はとても悪いんです。ご存じの通り、元々は体も丈夫で、一年中めったに病気もしなかったのに。今では、心も体もおかしくなってしまって……社長は名声も利益も求めていません。命さえも、危うく投げ出そうとしたんです。過ちは犯しましたが、最初から、心にあるのは奥様だけでした」小林の言葉は切実だった。だが、和希はわずかにうつむいただけ。彼に見えない角度で、その瞳には冷ややかな嘲笑が浮かんでいた。彼は信吾の苦労や大変さを語り尽くした。それは和希にも見えていた。だが、それがどうした？浮気をした後も自分を愛しているからといって、感動しろというのか？和希はその考えがまったくもって馬鹿げていると思った。その時、勝巳が後ろから近づいてきて、小林の話を遮った。「失礼ですが、これから出かける用事があります。小林さんは、まずお引き取りいただけますか？」小林は眉をひそめて振り返り、あの日に見かけた男だと気づいた。がっかりして肩を落とした。この苦労話も、どうやら水の泡らしい。小林が去ると、和希はその場に座ったまま勝巳を見て尋ねた。「どこに行くの？」勝巳は一瞬たじろいだが、すぐに笑った。「……ただ、ぶらぶら歩いてみようか」和希はほんのり頬を染めた。自分が素直に真に受けてしまったのがおかしくて。二人は町はずれの山に登った。山は人の気配がほとんどなく、頂上に立てば町全体を見下ろせた。和希は敷いた布の上に座った。勝巳は周囲を少し歩き回り、何かを撒いているようだった。彼が忙しそうにしているのを見ながら、和希は持ってきた食べ物を並べ始めた。勝巳が用事を終えて戻ると、和希がおとなしく食べ物を並べている姿があった。胸に温かいものが流れ込むのを感じた。実は勝巳は、最初、和希が何者か知らなかった。芸能ニュースには興味がなく、映画やテレビも見ない。しかし、和希を一目見た時、彼はまるで病にでもかかったかのようだった。先祖代々伝わる医書を見ても、病因は見つからなかった。和希は、勝

信吾は、またしても診療所の門をくぐった。病気を治しに来たと言いながら、その目はいつも無意識に奥の庭へと向いてしまっていた。その様子は、明らかに言い訳に過ぎない。しかし、勝巳の反応は驚くほど平静だった。彼は落ち着いて信吾に処方箋を書き、顔色も普段と変わらず、そのあまりの平静さに信吾はかえって心の中がざわついた。信吾の疑念は根拠のないものではなかった。勝巳が奥の庭へと向き直った時、信吾はなぜか後をついてしまい、そこで衝撃的な光景を目にしたのだった。勝巳がそっと身をかがめ、一人の女性に口づけをしている。勝巳が背筋を伸ばした時、信吾はその女性の顔を見定めた。それは、他ならぬ和希だった。和希の頬が薄ら赤くなっていた。その目は勝巳だけを捉え、信吾の存在などまるで見えていないかのようだった。信吾は戸枠を握りしめ、飛びかかって二人を引き離したい衝動を必死で抑え込んだ。目に見えるものが真実とは限らない、錯覚かもしれない、そう思った。和希の頬に浮かんだ赤みを、彼は無意識に無視した。自分が信じたい答えだけを掴みたかった。勝巳は軽く和希の頭をポンポンと叩き、それから信吾を振り返った。目には少し驚きの色が浮かんでいた。「浅井さん、他人の家の庭に無断で入り込むのは、あまり良い習慣とは言えませんね」と、勝巳は眉を上げて言った。信吾の目が暗く沈んだ。彼は勝巳の背後にいる和希をじっと睨みつけた。しかし、和希は一言も発さず、ただ黙って勝巳の後ろに立っていた。勝巳の大きな体が彼女をほぼ完全に隠し、その光景は信吾に言いようのない苦しみをもたらした。和希の勝巳への依存ぶりに信吾は息が詰まりそうになり、思わず大股で前に進み出た。和希を引き離し、勝巳から遠ざけたいと思った。和希は自分の妻だ。どうして他の男とそんなに親しくできるのか？だが、信吾は和希に近づくことすら叶わなかった。勝巳は一見すると物静かそうに見えたが、驚くほどの力を持っていた。信吾は押し倒されたが、すぐに起き上がった。それでも、和希は最後まで彼に一瞥もくれなかった。「部屋に戻るね。気をつけて」と、和希は勝巳に優しい声で言った。勝巳は彼女の頭を揉みながら、優しく応えた。「ここは俺に任せて。心配するな」二人の間には自然で親密な空気が流れていた。この日々見てきたことを思い出すと、

和希が信吾の部屋に入ると、消毒液と彼特有の匂いが混ざった空気が鼻をつき、思わず眉をひそめた。机の上に積まれたそれらの品々を見て、彼女はあの嫌な匂いの元が何かようやく理解した。かつて自分が好んでいた古い品々だった。信吾が一つ一つ集め、香水まで振りかけている。あの頃は、この香りに安心感を覚えたものだが、今ではただただ胸がむかむかするだけだった。信吾は彼女の姿を見ると、嬉しそうに彼女の手をぎゅっと握り、積まれた箱のそばへと連れて行った。そして、二人の過去を一つ一つ語り始めた。どの品にも思い出が詰まっていて、信吾は細かいところまで鮮明に覚えていた。まるで二人が一度も別れたことなどないかのように。和希の心臓は思わず高鳴った。信吾の言葉に導かれるまま、彼女の思考もまた、十年前へと引き戻されそうになった。しかし、その甘い記憶は彼女の心を動かすどころか、むしろ彼女をより一層現実へと目覚めさせた。彼女はそっと信吾の手を離し、一歩後ろに下がって距離を取った。「これを見て……本当に何も感じないのか？」信吾が言った。彼は和希の表情を必死に見つめ、ほんのわずかでも未練がにじんでいないかと探ったが、その試みは空振りに終わった。「感じないわ」和希は静かに言い切った。「捨てたものは、もう拾い戻したりしないのよ」信吾は深く息を吸い込み、目を閉じた。どうやら必死に心の内の感情を鎮めようとしているらしい。再び目を開けた時、彼の瞳には固い決意が宿っていた。「あいつがそんなに……好きになる価値が？俺を捨てて、俺たちの思い出も愛も全部捨ててまで？和希、人生に十年なんて、そう何度もあるものか？お前にとって一番ふさわしいのは、俺だけだ」和希は眉をひそめ、信吾を見据えた。「それで、彼に嫌がらせをする理由になるの？私たちの方がふさわしいって？」信吾の目つきがすぐに変わったが、この質問には正面から答えなかった。その頃、勝巳は和希が戻ってこないことに、漠然とした不安を覚えていた。彼は町中を探し回ったが、彼女の姿は一向に見つからない。親切なおばさんが、和希が小林について中央病院へ行ったと教えてくれるまで、勝巳はまったく見当がつかなかった。まずい、と勝巳は心の中で叫んだ。戻ったらすぐに和希に話そう、あの厄介な問題はもう解決したって。彼は和希に電話をか

一ヶ月後、信吾は相変わらずあの病院にいた。小林が頻繁に訪れ、勝巳は時折やってくる。ただ、和希だけは一度も現れなかった。小林は彼を勧めた。もっと良い病院で、もっと良い治療を受けるように。しかし、信吾はただ首を振る。もう抗うつもりはなかった。残されたわずかな時間、せめて彼女の近くにいたい。彼は町はずれに墓地を買った。緑豊かで、景色の良い場所だ。よく観察した。その墓は高い場所にあり、彼女の住まいを見下ろすことができた。信吾は和希の視界から完全に消えた。まるで突然、蒸発したかのように、その姿は二度と見られなかった。和希も彼のことを口にすることはなく、勝巳はもちろん言及しなかった。勝巳は何度か信吾のもとを訪れた。信吾の命も長くはないだろう。見に行かねばならなかった。その日、勝巳が信吾のもとから戻ってきた。信吾の死を知った勝巳の気分は、決して良いものではなかった。遺体は病院の玄関から運び出され、葬儀場へと向かっていた。信吾は生前、勝巳に頼んでいた。もし自分が死んだら、和希には知らせないでくれ、と。勝巳は黙り込み、ただうなずくしかなかった。その時の信吾の目は、すでに焦点が少しぼやけていた。「彼女には申し訳ないことをした。だが、お前だって彼女にふさわしい男とは言えんだろうな」死に際まで口が悪い。「俺はまだ手を放してなんかいない。たとえ死んでも、お前を一生這い上がれなくするくらいのことはしてやる」信吾はそう言うと激しく咳き込んだ。小林が水を差し出すと、信吾は手を振って断った。彼は勝巳に分厚い書類の束を渡した。自分の遺産分割案だ。信吾は全てを用意していた。自分が持つ全てを、和希が知らないうちに、彼女に譲る手筈を整えていたのだ。勝巳はその書類を握りしめ、何も言えなかった。和希に代わって承諾する資格も、拒む資格もなかった。信吾の意図は分かっていた。彼の警告がなくとも、自分はそうするつもりだった。しかし、死を目前にした信吾を、勝巳はその時だけ、少し哀れに思った。愛を失った絶望の中で死んでいく。一時の過ちが愛する人を永遠に失わせ、引き返せず、彼女を取り戻せない。勝巳が最後に訪れた時、信吾はすでにいなかった。遺体は薄い黒い布に包まれ、葬儀場へと運ばれていく。小林は黒い服を着てそばに立ち、勝巳を