Dと私は辻沢最初の同泊同衾を迎えようとしていた。シャワーの後、Dは普通にベッドでスマフォを眺めていて、地下道で屍人の自分に遭ったショックなど忘れたかのようだった。私は何もすることもないので、ダブルベッドの縁に座りTVをザッピングして時間を溶かしていた。 そろそろ日付が変わろうというころ、「今夜が十五夜だったみたいですよ」 とDが言った。 昨晩夜空にあったのは満月ではなかったよう。 私は窓辺に近づきカーテンを少し開けて夜空を見上げた。窓に顎が付くほど上を向いたけれど、夜空がぼんやり明るくなっているのが分かっただけで満月は見えなかった。私は諦めてカーテンを閉じた。「潮時だったんですね」 辻沢では満月のことを潮時という。月の作用で次元が歪み、人狼の鬼子が獣化したり屍人が街に湧き出したりする。「どうりでミヤミユが」 と言いかけて止めた。Dの目が涙に潤んでいたからだった。 私はこんな時なんて言葉をかけていいか分からなかったので、ただベッドに腰かけてTVのザッピングに戻った。後ろからすすり泣きが聞こえて来たらどうしようと、意識が背後に集中してTVどころじゃなかった。「そろそろ電気消しますよ」 その声で振り返ると、Dは手にトラロープを持っていた。今夜は枕の壁がないのでトラロープで私を縛るつもりらしい。振り出しに戻るということだ。 私はベッドに入って横になり、自首した犯人のように両手をDに差し出した。すると、「あ、違います。片腕に結んでください」 二人で浴衣を着てしまったので、お互いを繋ぐ帯がない代わりだった。Dと私はそれぞれトラロープの端と端を腕に結びベッドに横になった。余分なロープは輪っかのままDと私の間に置いた。 室内灯が消えて、「おやすみなさい」「おやすみ」 これまでならDは消灯するとすぐに寝息を立てていたのだ
最終更新日 : 2025-10-22 続きを読む