「一緒にいたほうがいいから」 ホテルの部屋に入るとき一緒に泊まるのかと聞くとDはそう答えたのだった。それからシャワーをするまでの間、妙な距離感で息が詰りそうだった。 Dの次にシャワーを浴びてレストルームで服を着ながら、どういった気持ちで部屋に戻ればいいか考えた。これからセミダブルのベッドに二人で寝ることになる。仮にも私は現役の男であり隣に寝るのはシャンプーの香りがする若い女子なのだ。なにか起ると思うのは自然なことだろう。さらに、ホテルを予約したのも部屋を選んだのもDなのだ。私が無理にこの状況にDを誘い込んだわけではない。ということは、つまり、「痛!」 歯磨きをしようとしてコップの水を口に含んだ途端、口中に激痛が走った。水を吐き出すと血が混じっている。上唇をめくって鏡で見たら切れた歯茎から血が出ていた。口中に血の味が広がる。歯茎をねぶって唾を吐き出すと真っ赤な血がシンクを染めた。止血のため部屋のDにガーゼと脱脂綿を取ってくれるように頼んだが返事がない。服はもう着終わっているので自分で取るためレストルームを出ると、Dがベッドの隅に小さくなって電話をしていた。私が出てきたのに気付いて慌てたように起き上がり、「何ですか?」「また歯茎から血が出て脱脂綿が欲しくて」「言ってくれれば取ったのに」 言ったけども。「ああ、ごめん」 脱脂綿の袋とガーゼを持ってレストルームに戻った。 電話してたな。相手は誰だろう。やっぱりおじさんと二人はイヤだから友だちでも呼んだんだろう。Dの世代は、雑魚寝なら男女混合も平気でする。ヨーコが高校生だったころ、23時頃帰って来て、「今夜みんな泊まるから」 と友だちを4人連れてきた。そのうち二人が男子だった。で、明け方近くまでおしゃべりをして、そのままリビングで雑魚寝。お昼ごろ起きてきて、男子たちも父親の私に悪びれる風でなく、「「お世話シタ」」(おせわになりました) と帰っていったのだった。 スマフォのLINEを見る。相変わらずヨーコの既読はついていなかった。 頭を乾かしてレストルームを出た。ワークスペースの鏡に映る私はゴッドファーザーのマーロン・ブランドのような口をしていた。マーロン・ブランドはマフィアの首領、ドン・コルリオーネを演じるに当たって口の中に綿を詰めてあの
Terakhir Diperbarui : 2025-09-12 Baca selengkapnya