玲は雨音を連れて病室に戻ってから、そう時間も経たないうちに、外から騒がしい物音が聞こえてきた。怒鳴り声に、物を叩くような乾いた音、そしてこころの泣きじゃくる声。どうやら、病院の警備員たちが本気で友也とこころを追い出しているらしい。態度は極めて不親切どころか、ほとんど乱暴だった。友也は顔を真っ青にしてされるがまま押されていたが、警備員がこころにまで手を伸ばそうとすると、必ず飛び出して彼女をかばう。せめて彼女だけは傷つけまいと必死だ。それを見た玲は、すっきりした気持ちと同時に、なんとも言えないやるせなさが胸に広がった。とっさに、雨音が見なくていいようにカーテンを閉めようと手を伸ばす。だが、その手を雨音がそっと掴んだ。雨音は静かに、ただすべてを見届けていた。友也とこころの姿が完全に見えなくなってから、ようやく玲の手を離し、そっとまぶたを閉じる。「玲ちゃん、私たちも帰ろう。玲ちゃんが嫌いな相手を追い出してくれたのはありがたいけど……私も、もうここにいるのが嫌、気が滅入る」「でも、傷は……」雨音の気持ちは理解できるものの、彼女の身体が心配だ。雨音は淡々と答える。「包帯の交換や検査はちゃんと来る。家にも家政婦さんがいるし、休むだけなら大丈夫だよ」「……わかった。そこまで言うなら、無理には止めない」ひとまず安心した玲は、ふと思い出したように声を落とす。「ねえ雨音ちゃん。さっき友也さんの前で頭に血が上って、離婚のことまで口走っちゃったけど……あれ、余計なことだった?」雨音は首を横に振り、静かに玲を抱きしめた。「玲ちゃん。あなたは私の味方でいてくれた。それを嫌だなんて思うはずないじゃない。それに……あなたの言うことは間違ってなかった。これから離婚のこともちゃんと考えないとね」玲が先ほど言ったように――雨音は、友也とこころが自分の目の前で付き合い、幸せになっていくのをただ黙って見ているわけにはいかない。いつか、彼に離婚届を突きつけられてしまったら、屈辱以外の何ものでもないのだ。だからこそ、先ほど黙っていた時間のあいだに、雨音はじっくりと考えていた。彼女はまだ、友也への想いを完全に捨てきれてはいない。けれど、自尊心を投げ捨ててまで「都合のいい妻」でいるつもりもない。――彼女は、玲がかつて弘樹にしたように、同じ方法
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