翌朝――玲が最初に目を覚ました。隣では雨音がまだ深い眠りの中にいたので、彼女はそっとベッドを抜け出し、ひとりで下のレストランへ向かった。朝食を済ませつつ、雨音の分を持ち帰ろうと思ったのだ。だが、思いがけずその朝、落ち着いたスカイレストランの席に腰を下ろしてうどんを注文した直後、騒がしい足音とともに見覚えのある影が目の前に現れた。「玲!何度も電話をかけたのに、なんで出ないのよ!」目の下に濃いクマをつくり、息を切らせた雪乃が立っていた。玲は眉をわずかに上げただけで、言葉を返さなかった。雪乃がこのロイヤルホテルの中まで入って来られること自体、少し不思議だったからだ。思い返せばこれまで、ホテルの支配人をしていた洋太が強気に対応していたため、雪乃は何度足を運んでも中に入れなかった。だが今は事情が違う。洋太は秀一のもとに戻り、さらに昨日は雪乃が高瀬家とともに記者会見に顔を出していた。新しい支配人が事情を知らずに立ち入りを許したとしても、不思議ではない。……と思っていたが、それは半分だけ正しかった。次の瞬間、件の新支配人が慌てて駆け寄ってきたのだ。「高瀬様、この方があなたのお母様だと名乗られまして……しかも藤原社長の義母だとおっしゃるものですから、私の判断でお連れしました。お間違いないでしょうか?」玲はしばし無言のままうどんを口に運んだ。そしてようやく顔を上げ、雪乃をじっと見つめる。その視線に耐えきれず、雪乃の顔はみるみる赤くなり、視線を逸らした。玲は微笑を浮かべ、支配人に「ありがとう」と礼を言って下がらせると、静かに言葉を投げた。「藤原社長の義母だなんて、よくもまあ恥ずかしげもなく名乗れたものね」「間違ったことは言ってないでしょう?昨日、あんたと藤原さんが正式に結婚を発表したじゃない」雪乃は唇を噛み、気まずそうに玲の隣に腰を下ろした。「それで……藤原さんと結婚したって、本当なのよね?」玲はスープをひと口すすり、静かに問い返す。「それを何度確認して、どうするつもり?」その冷ややかな言葉に、雪乃は一瞬、口を閉ざした。言いたいことは山ほどあるのに、どれも口にすれば不快な話ばかりだ。昨夜の出来事が脳裏をかすめる。綾が俊彦の怒りを買い、家のしきたりに従って「罰」を受けることになった。関わりたくはなかったが、高瀬家
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